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悪いやつが寝ているよ


 とある平日の朝。

 アニマが悪の組織の部室に行くと、そこにはカグラがいた。

 彼の姿が眼に入ると、アニマは反射的に挨拶しようとした。

 が、やめた。

 なぜなら、カグラが寝ていたからだ。



 カグラは、自席でうつ伏せになって眠っていた。

 カグラのことを起こさないように、アニマは物音を立てずにそっと動く。アニマの自席でもある来客用のテーブルにカバンを置くと、カグラに近付いた。

「寝ている…」

 アニマは、カグラの顔を覗き込み、確認する。

 寝息を立て、すやすやとカグラは寝ていた。

「起きない…」

 じろじろと見遣ってみるが、起きる気配はまるでない。

「………はっ」

 じーっと見ていたら何故か急に恥ずかしくなり、とっさに視線を逸らした。

 上気して薄っすら赤らむ頬を手で覆い、アニマは自席についた。



 一時限目の始まりを告げる鐘の音が鳴った。

 授業が入っていなかったので、アニマはまだ部室にいる。

 授業が入っていないのか、カグラはまだ寝ていた。

「起こした方がいいかな…?」

 と、アニマは気に掛けた。

 そして、どうしようか躊躇しているうちに、一時限目の終わりの鐘が鳴った。

「やっぱり起こした方がいいよね…? もし授業が入っていたら困るかもしれない」

 カグラにとっての最善の利益を考慮し、アニマは、声をかける事に決めた。

 しかし、その時、「ん?」とアニマは何かを見付けた。

 それは、カグラのカバンから飛び出た教科書や参考書だった。

 突然目に入ったそれらは、アニマの注意を引いた。

「商、法…?」

 馴染みの無い授業の本は、アニマの好奇心をつついた。

 気になったから、なんとなく、アニマは教科書を手にとって開いた。

「……………っ!」

 アニマは、そっと教科書を閉じた。

 上級生の大変さを思いがけない所でアニマは知ることとなった。



 二時限目に授業が入っていたアニマは、部室を出た。

 そして、授業中もずっと気掛かりだったので、授業が終わるとすぐ、部室に戻った。

 部室には、まだカグラがいた。

 そして、まだ眠っていた。

 どれだけ寝るのだろうか、アニマは呆れる思いでカグラのことを見た。

「……ん」

「っ…!」

 カグラに動きがあり、アニマは身構えた。

 しかし、「……もう食べられるよ…」とカグラは寝言を呟いただけだった。

 どんな夢見ているの?

 アニマは気になったが、カグラを起こしてしまう可能性がある以上、声をかけて確認することはしなかった。



 昼休みも終わりに近づき三時限目が始まる頃。

 カグラのケータイに、着信があった。

 すぐに鳴りやまないところをみると、メールなどではなく電話のようだ。

 これは教えた方がいいな、そう判断したアニマは、「ぶ、部長…」と控えめに声をかけ、カグラの肩を揺さぶった。

「……ん」

「部長、電話です」

 そう教えられると、カグラは半分以上 寝ている状態で、ケータイをアニマに渡し、「誰から?」と訊ねた。

 液晶に表示された名前を見て、顔をしかめたアニマは「『クロ』って書いてあります」と答えた。

「クロ?」

「はい。切りますか?」

「いや、出て」

 本来なら口をきくのもイヤな相手だが、カグラの指示は断れず、アニマは電話に出た。

「はい?」

「も、もしもし…」電話口から聞こえてきたのは、何故かおどおどしたクロの声だった。

「なに?」

「あれ? この声、聞き覚えがあるような、ないような…」

 不思議そうな反応をするクロに、「これは部長のケータイ。部長は今 電話に出られないから、代わりにアタシが出たの。で、なに?」

「シロ」こちらに話しているのではなく、電話向こう会話しているのが聞こえてきた。「ねぇ、シロ。知らない人に電話したつもりが、知っている声がしてビックリ」

「だから」と、シロの呆れる声も聞こえてきた。「知っているヤツなんだって」

「でも、電話帳の名前に覚えはないけど…」

「忘れているだけだろ」

「失礼な。連絡先を交換したってことは、一応は顔馴染みでしょうよ」

「失礼はお前だ。全然覚えないくせに」

「いや、全く覚えていないことはないよ。現にこの女の声、聞き覚えあるし」

「あ? 女? ちょ、貸してみろ」がざごそ というノイズの後、「もしもし」とシロが電話に出た。

「はい?」

 アニマの声には、かなりの怒りがこもっていた。

 しかし、そんなアニマの感情には気付かずに、シロは「あんだ、ただのチビ助じゃねぇか」と電話向こうでクロの頭を小突いていた。

「おい…おい!」

 アニマは声を荒げ、シロを呼んだ。

「なんだよ、チビ助?」

 イラッとしたアニマだが、カグラに来た電話を勝手に切ってはいけないからと、なんとか堪える。

「なんで電話した?」

「おいおい、ずいぶんな口の利き方だな。おたくのボスはどういう教育してんだ?」

「余計なことは言わず、こちらの質問にだけ答えろ」

「はいよ」そう返事はしたものの、面倒くさくなったシロは、「ほらよ、クロ」とケータイをクロに返した。「なぜに電話したのか、だと」

 ケータイを受け取ったクロは、事ここまでに至る経緯を簡単に説明した。

「えーっと…俺とシロが、外出先でトラブルに遭遇した。困っていたらシロが、『あいつを呼べ』と言う。『え、誰?』『この前もまた連絡先を交換していただろ』『え、そんなに何回も?』『何回やっても、見覚えのない名前の知らない相手だからって消すだろ、お前』『知らない人なの?』『いや、知っているはずの人だって』『え、でも、なんかちょっと怖い。シロ、代わり電話してよ』『なんで だよ。いいから、さっさと呼び出せ』みたいなやりとりをして、いざ電話してみたら、なんと出たのがチビ助だったワケ」

「いや、聞いてないし、長い!」アニマは、声を荒げた。「訊いているのは、どんな用件かってこと」

「用件?」

 クロは、言葉に迷った。

 何と言えばいいのか、悩んだ末にクロは「シロ」とケータイをシロに再び手渡した。

「あいつは?」シロは訊いた。

「部長なら今、部室で御休みになっている」

「寝ているのか? 緊急事態だ、ムリヤリでいいから叩き起こせ」

「バカも休み休み言え、バカ。さっさと用件を言えよ、バカ」

「よし、起こせ。あの野郎に後輩のしつけを教えてやる」

「用件」

 アニマは、有無を言わさぬ勢いで言った。

 その勢いに負け、仕方ないなとシロは話した。

「俺達はいま、とある品物の入手に苦戦している。そのブツは、ある巨大な箱の中にある。箱の中のブツに直接触れる事は出来ないが、箱には鍵の付いていない扉がある。腕を伸ばしても届かないが、引き寄せる事さえできれば、ブツをこの手にする事が出来る。そうだ、引き寄せる事が得意なヤツがいるじゃないか、と俺達はカグラに電話をしたという次第だ」

 シロが話し終えると、アニマは暫し考え、「クレーンゲーム?」と呟いた。

 まさか、とは思ったが、そのまさかだった。

「その通り」得意気にシロは言った。「どうしても欲しいモノがあるのだが、敵の策略にはまり、俺達は追いつめられた」

「クレーンゲームで散財してしまったが、どうしても欲しいから、部長の力を借りたい、そういうことか?」

「物分かりがいいな、チビ助」

 シロが感心していると、ブチッと電話が切られた。



 夕日が沈む頃。

 やっと目覚めたカグラが、「さっきの電話、なんだった」と訊ねた。

「なんでもなかったです」

 アニマが答えると、「ふーん」と興味無さ気にカグラは、帰り支度を始めた。

 寝惚け眼をこすりながら、カグラは「おつかれ」と帰った。

 帰り際に一言、「眠い…」とこぼして。

「えー…」

 一日中寝ていたようだけど、まだ眠いの?

 アニマは、唖然とした。 


これまで投資した時間やお金がもったいないから、やめられない。せっかくここまでやったのだから、もう少しできっと上手くいく。UFOキャッチャーなどでやめられない状態にあることをコンコルド効果というそうです(あっているかな?)。


まぁ現象の名前はとりあえず置いといて、私は、やめ時を見極める目と心の強さが欲しいです。

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