一度会ったことがあるだけの知り合いの知り合いと偶然道端で出会うとどうしたらいいのかわからず緊張しちゃう
ハイジが何でも屋の事務所へ行こうと歩いていると、その道中 偶然ミタラシと出会った。
「あ、どうも…」
ついつい身構えてしまうハイジ。
そんなハイジとは対照的に、ミタラシは「こんにちは」と微笑を浮かべて会釈した。
どうやら同じ方向に用があるらしい、二人は、同じ方向に歩き出した。
しかし、二人の間に会話はない。
どうしようか、ハイジは困惑した。本人達は否定していたが、シロとミタラシが付き合っているのではないかと、ハイジはまだ少し思っている。
知り合いの交際相手とどういう風に会話すればいいのか、ハイジはわからない。
そんなハイジの戸惑いが伝わってしまったのか、ミタラシが「どうしたの?」と声をかけてきた。
「あ、いえ…別に…」
「もしかして、シロとのこと疑っている?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、ミタラシが訊いた。
「そ、そんなこと…!」
「付き合っているよ」
「え?」
「そう言ったらどうする?」
「ええ?」ハイジは混乱していた。「とりあえず、クロさんを励ます方向で…」
「ぷっ…あははっ」ミタラシが、吹き出して笑った。「面白いね、あなた」
「い、いえ…そんな…」
「クロ君のこと心配してあげるの?」
「ええ、まぁ…」
「大丈夫、その必要はないよ。私、シロとは付き合ってないから」
ミタラシはそう言うが、ハイジはもう何が本当なのかわからなくなっていた。
会話のきっかけを掴めると、二人の間から沈黙はすっかり消えていた。
話をしてみると、どうやら本当にシロとミタラシは付き合っていないらしい。
「だって普通に考えてみてよ」ミタラシがおかしそうに言った。「シロだよ?」
具体例はあげられなかったが、シロだから、ということが全てを物語っているらしい。
シロだから付き合う価値なし、そういうことのようだ。
ハイジは、苦笑するしかなかった。
「ところで…」ミタラシは、「あなたは…何さんだっけ?」と訊いた。
「あ、すいません」自己紹介が遅れてしまったと、ハイジは慌てた。「私、クロさん達の事務所でアルバイトとして雇ってもらっている、ハイジといいます」
「ハイジさん?」
「あっ」
意識せずに名乗ってしまったが、『ハイジ』とは、クロがつけたアダ名だ。
ちゃんと本名を名乗らなければ失礼だ、そう思いハイジは撤回しようとした。だが、
「クロ君のつけたアダ名かな?」
と、ミタラシは事情を察してくれていた。
「は、はい…」
「じゃあ、ハイジちゃんって呼ぶね」そう前置きし、ミタラシは「本題」と話し始めた。「私からも質問。ハイジちゃんは、クロ君と付き合っているの?」
「ぶっ」予想の斜め上を行き、さらに乱高下を繰り返すような勢いの、予想外過ぎる質問に、ハイジは思わず噴き出した。「そんなわけないじゃないですか!」
「本当に?」
「本当です」
「でも、私達を尾行していた時の二人、すごく仲の良いカップルに見えたよ」
マジか、とハイジは困惑した。
言われてみれば、と考えてみる。だが、どうにも想像し難い。
「ありえません」ハイジは、きっぱりと言い放った。「だって、クロさんですよ」
「クロ君だから?」
「クロさんだから」
「そっか」
そう言うと、ミタラシは可笑しそうに笑った。
○
ピンと空気が張り詰めた。
クロもシロも、そう感じた。
二人は、深刻そうに目を合わせる。
「シロ。俺、今バカにされた気がする」
「奇遇だな。俺も だ」
「……もしかしたら、さっきまで俺、社会の窓全開で外歩いていたからかな」
「おいおい、勘弁しろよ。一緒にいた俺までマヌケ扱いかよ」
二人は、笑っていた。




