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女心と秋の空とついでに俺のアレコレも


 クロが不機嫌だ。

 ハイジが事務所に来ると、クロが、口をヘの字に曲げていた。

「どうしたんですか?」

「べつにぃ~」

 あきらかに何かあった感じだ。

 何があったか訊いた方がいいのかな? ハイジは考えた。

 だが、面倒臭そうなので気にしないことにした。

「……聞く?」

「……はい」

 無視しようとしたが、クロが話したそうにこっちを見るので聞くことにした。



「実は…」重苦しい雰囲気をまとい、クロが語り始めた。「シロから女の気配がする」

「女?」

 ハイジは、首をかしげた。

「そうだ。シロに女の影アリだ」

「彼女でも出来たんですか?」

「え?俺 聞いてないけど!」さながら娘に彼氏が出来たことを知った父親のようだ。

「急に声 荒げないでください、ビックリした」

「シロに彼女出来たの?」

「いや、知りませんけど…」

「認めないよ、俺」

「クロさんの許可 必要ですか?」

「必要ですよ、必要です。俺に許可なく彼女を作るなんて断固許しません」

 なんだ それ、とハイジは呆れた。

 だが、クロの怒りは留まるところをしらない。

「俺に彼女がいるならまだしも、シロだけ…シロなんて……俺はどうなるのよ?」

「いや、知りませんよ」

「シロに彼女出来たら、絶対俺捨てられる」

 いきなりというしかないほど突然に、クロの気持ちが沈んだ。

「だ、大丈夫ですよ…」頬を引きつらせながら、ハイジは「シロさんはそんな冷たいことしませんって」と言ってみた。

「大丈夫かな?」

「はい、きっと」

 ハイジは、状況的に仕方なくクロを励ました。



 なんでこんなことになったのだろう、とハイジは後悔していた。

 ハイジは今、ショッピングモールでクロと一緒にシロの尾行をしている。

 こうなった原因は何だろう? 物陰に隠れている最中、ハイジは考えてみた。

 思えば、クロを励ましたのが直接的な原因の気がする。気持ちを立て直したクロが、「真相を明らかにしてやる! 尾行だ!」と言い出すなんて…。いや、そもそも話を聞いてしまったのが間違いだったのか…。もしかしたら、シロに女の気配がする事が、根本的な原因の気もする。う~ん、どうだろうか?

 よし、原因を明らかにしよう。

 尾行だ!

 ハイジは、ちょっと自棄になり、そう自分を納得させて尾行を続けることにした。

「シロさんに彼女がいたら、どうするつもりですか?」ハイジは訊いてみた。

「三日三晩泣いて食事も絶ち、そのあと暴飲暴食、カラオケ行って失恋ソングを歌う」

「思春期の女子ですか?」



 シロは、ショッピングモール内をうろうろしていた。

 雑貨屋に入ったり服屋を見たり、特に何かを買いに来たわけではなく、目についたモノを見に行っているだけらしい。が、ただウィンドウショッピングを楽しんでいるようにも見えない。何かは決めていないが、何かを買うつもりはある、そんな様子だ。

「誰かにプレゼントでしょうか?」ハイジは、思い付いた事を言ってみた。

「え?」それを聞いて、クロは不満そうに「俺、もらった記憶ない」と言った。

「誕生日とかは?」

「ない…気がする。そもそも俺の誕生日っていつ?」

「知りませんけど…」

「シロなら知っているはず…訊いてこようか?」

「生まれた日だけじゃなく、今何をしているかもお忘れですか?」

 皮肉を込めて、ハイジは言った。

「ちゃんと覚えているよ。お、ターゲットに接近していく人物が…!」

 シロに一人の女性が近付いていた。

 物陰に隠れるクロとハイジは、緊張度を高め、とっさに聞き耳を立てた。

 それというのも、長い髪を高い位置で団子状に結い、かんざしを挿した謎の美人がシロに声をかけてきたからだ。

「シロが騙される!」大変だ、とクロは慌てる。

「クロさん、ちょっと黙って!」

 二人は口を一文字に結び、シロと謎の美女の会話を聞いた。



「シロ」謎の美女が、シロに駆け寄った。

「遅ぇよ」

「ちょっと遅れただけでしょ」

「約束っていうのは、守る為にあるんだよ」

「はいはい…」

「じゃあ、とっとと買う物 買って、何か食おうぜ」

 二人は、並んでどこかへ歩いて行った。



「なんか仲良い感じじゃないですか?」

 ハイジは、知り合いの恋愛事情を目撃し、少し興奮していた。

「そお?」

「……なんです、その納得いかないって顔は?」

「まあ、不愉快ではあるよね」

「相手が美人だから?」

「俺のシロなのに…」

「そっち…?」

 ハイジは、とある疑惑をクロに対して抱いたという。



「やっぱり先に何か食わね?」

 小腹が空いたというシロの意見で、二人はフードコートに向かった。

 当然、クロとハイジも後をついて行く。

「クロさん、クロさん」シロ達が見える場所に席をとると、二人を見てハイジが「やっぱり付き合っているんじゃないですか?」と言った。

「え、なんで?」

「なんで って…傍から見たらそう見えるとしか…」

「へぇ~そう見えることもあるの…」まるで自分にはそう見えない、とでも言いたげだ。「それより、俺達も何か食べない?」

「私はいいです。お腹も空いてないし」

「じゃあ、俺は…あのジャンボパフェ!」まるで子供のように嬉々として「全長八十センチだって」とクロがはしゃいだ。

「目立つ注文はやめましょうよ! 私たちが今何をしているか、お忘れですか?」

「こっそり食べるから」

「こっそり食べられる大きさじゃないんですってば。というか、そんなの全部食べられるんですか?」

「ハイジなら…」

「私、お腹空いてないって言いましたよね…?」



 小さなパフェを一つ買って来て、それを一緒に食べながら、クロ達は話をしていた。

「やっぱり…」声のトーンを少し落とし、ハイジは「野暮なことはやめませんか?」と言った。

「野暮なことって?」

「コレですよ」ハイジは、指でテーブルをとんとんと叩いた。

「パフェ?」

「尾行です!」声をひそめながら、ハイジはつっこんだ。「良い雰囲気そうですし、そっとしておいてあげましょうよ」

「どうしたハイジ? 二人の仲を引き裂くという当初の目的を忘れたのか?」

「知りませんけど、そんな目的!」

「とにかく、まだ何も収穫が無いのに引き下がれないよ」

「パフェが美味しかった、それで充分じゃないですか」

「いいえ、ダメです。美味しかった、よし頑張ろう」

 クロは、拳を握りしめた。

 仕方が無いので、嫌々ながら、ハイジは付き合うことにした。



 食事の後、シロ達はショッピングモール内を歩いていた。

 相談している様子も見られる。どちらかのプレゼントを選んでいるようだ、とハイジには見えた。

 これはどうだ、これはどう、と悩んでいる二人の姿は、本当に恋人のようだ。

「楽しそうでいいですねぇ」

 服屋でマネキンの着衣を乱しながら、クロが言った。

「やめてください、クロさん」

「俺の心の乱れだよ、これは」

「どこか他所で勝手に乱れ狂っていてください。とりあえず、目立つマネは避けて」

「大丈夫。シャツのボタンを全開にして肌を露出してたら、誰だって目を背けるって」

「悪目立ちしているじゃないですか!」

 ハイジがつっこんだ。

「つーか、充分目立っているっつーの」

 小声でシロもつっこんだ。



 シロ達は、買う物を選んで購入し、それをプレゼント用にラッピングしてもらった。

 そして、店を出ようとした時だった。

「そろそろいいか」ハァ~と溜め息をついたシロが、バッと首を振り、「おい、そこの二人」とクロ達に声をかけた。

 やばい、気付かれた、そう思ったクロは、逃げ隠れるのを諦め、とっさに体を硬直させてマネキンのフリをした。それに習ってハイジも、動きを止める。

「おい…」苛立った様子のシロが、「こんな邪魔な所にマネキンがあるか!」と通路を塞ぐようにして立つ二人に言った。

「さっきからばれてんだよ」

 シロが言うと、観念したハイジが「いつからですか?」と訊ねた。

「ずっと前だ、ボケ」シロは、『別に用はないけど、いまどこにいるの?』というクロからのメールが映し出された携帯の画面を見せ、「こんなメールもらえば、だいたい怪しむだろ」と言った。

 ハイジは、そんなことをしていたのか、とクロを睨む。どうりで尾行を開始するまでの段取りがスムーズだったが、そんなことをすれば疑われ、バレもするだろう、と呆れた。

 シロが言うには、ショッピングモールに来る前から二人の存在には気付いていたらしい。

「そんなに前から知っていて…俺達のことを泳がせ、腹の底で嘲笑ってたのか、サイテー」

「どの口が…!」

「クロさん、私達の立場では何も言えませんよ…」

 ハイジが諦めを口にすると、クロもしぶしぶ負けを認めた。



 三人が揉めていると、謎の美女が近付いて声をかけてきた。

「クロ君?」

 まさか名前を呼ばれ、クロは警戒した。

 何者だ、この女?

 クロが訝しそうに視線を向けていると、なにかを察した女が、「もしかして、また忘れた?」と訊いた。

「また?」その言葉を聞いて、ハイジはイヤな予感がした。

「どういうこと?」

 ハイジも聞きたい真相を、クロがシロに訪ねた。

「どういうことって、どこから説明すればいいのやら?」

「全てを語れ、このドスケベ野郎」

 そう言うとクロは、シロに蹴飛ばされた。



「この女の名前は、ミタラシ」

 シロに紹介されると、ミタラシと呼ばれた女が「はじめまして、って言えばいいのかな、この場合」と苦笑しながら頭を下げた。

「はじめましてですね」クロが、冷たく言った。「それで、うちのシロとはどういう御関係で?」

「幼馴染です」

「おさななじみ?」

「ガキの頃からの腐れ縁だ」

 シロが言うと、ミタラシが「なかなか腐れ落ちないけどね」と微笑した。

 それに対し、シロが「けっ」と顔を背けた。

 その二人のやりとりが、なんかクロは気に入らなかった。

「俺もシロとは幼馴染のつもりですけど?」

「お前とよりも古い、ガキ過ぎる程にガキの頃からの付き会いだ」

「俺 知らない」

「知らないワケ無いだろ。自己紹介は片手以上、単なる挨拶なら両手の指の数以上している」

 シロが言うと、クロは驚いた。

 驚きついでに訊いてしまおうと、クロは、「じゃあ、知らない仲じゃないのに、俺抜きで、二人はデートですか?」と言った。

 その質問の答えには、ハイジも興味があった。

 だが、

「違うよ」「んなワケねぇだろ」

 と否定する二人の態度は、素っ気なかった。

「私が、お父さんにプレゼントを贈りたいからっていうことで、どんなものがいいかアドバイスが欲しくてシロに来てもらっただけ」

「こいつの親父っていうのが、俺も知らないオヤジじゃないから、付き合っただけだ」

「で、何を買ったの?」クロが訊いた。

「ん、エプロン」

 胸に抱えていた袋を見せ、ミタラシは答えた。

 それを聞いて、クロは、もしかしてシロが主夫になるつもりでは、と疑ったらしい。


新しいキャラクター、ミタラシです。


シロの幼馴染で、クロのライバル(?)です。

よろしくお願いします。

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