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ニックネームよりもコードネームの方がなんかカッコいい


 クロの「ウチはブラック企業」発言は、無かったことになった。

 というより、あれはただ失言だったということで、暗黙のうちに忘れることにされた。

「採用については、前向きに検討させていただきます」

 取り繕うように、クロが言った。

――マジか、お前?

 そんな二人の視線を浴びながら、しかし気にせず、「ところで」とクロは続けた。

「ウチでは、ちょっとした社内規則ということで、互いをニックネー…あ、いや、コードネームで呼び合うことになっていまして」

「はい…」貴子さんは、不思議そうに生返事した。

「へぇ…」

 初めて聞いたなと呆れながらも、シロは、面白そうだと感じ クロの悪ふざけに付き合うことにした。



「俺は、イーサン」

 クロは言った。

 続けて、シロが「俺は、ルーサー」と名乗った。

 二人が、コードネームらしいモノを名乗った。

「あなたは?」

 貴子さんは、そう訊かれた。

 しかし、貴子さんは、答えられる答えを持ち合わせていない。

「え、あなたは?」

――コードネーム? 何それ?

 そんな状態だ。

 コードネームを持っていること、なんて募集要項には書いていなかったではないか、と困惑している。

 どうすればいいか、答えに窮している貴子さんに、クロが「コードネームないなら、こちらから与えることも可能ですよ」と怪しげな手を差し伸べた。

 その手を掴んでいいものか、貴子さんが悩んでいると、「俺、イイの考えた」とシロが手を上げた。

「ディミトリ」

「私だけ、偽物感ありません?」

 貴子さんが、不満気につっこんだ。

――こやつ、ツッコミの才能あるな

 マニアックなボケへの対応に、クロとシロは感心した。



「ポチ」とクロ。

「犬みたいでいやです」

「タマ」とシロ。

「猫みたいでいやです」

 貴子さんは、納得しなかった。

――クロもシロも犬猫みたいだろうに

 クロとシロは、思った。



「ぶっちゃけるとね」面倒くさそうに、クロが言った。「俺達のコードネームも嘘なのよ」

「実は、ね」と、解っていながら白状するシロ。

「はぁ…」やっぱり、と納得した様子の貴子さん。

「でも、やっぱりコードネームは必要な気がするワケ」

 クロが、言った。

――いや、どんなワケ?

 貴子さんは、突っ込みたい気持ちを抑えた。

 我慢した貴子さんの態度対し、調子づいて、思案顔のクロが言った。

「俺がクロで、シロがシロ。じゃあ、高貴な人、ハイな子、という意味で『ハイジ』はどうかね?」

 クロが、得意気に言った。



 ハイジ。

 変なコードネームを与えられた。

まるで、アルプスの少女のようで、嫌だ。

が、だからと言って嫌だと拒否していいものか。

 名付けた当の本人は、これならいいだろう、と満足気である。

 もう一人のツッコミ役っぽい人も、「いいかも~」とテキトーなことを言っている。

――いやいや、よくないだろ…

 貴子さんは、ツッコミたかった。

――『貴』は「ハイ」の「高」と違うし、『子』も単独では「シ」と読むが「ジ」ではない

 単なる嫌がらせではないか、いきなりのパワハラではないのか?

 貴子さんは、声を大にして言いたかった。

「ぶっちゃけるとね」貴子さんが何か言う前に、無神経な間延びした声で、クロが言った。「誰が来ても難癖付けて『ハイジ』にする気ではいたのよ。俺の『黒』とシロの『白』を足せば『灰色』になるし」

「お前、考えたな…」

 シロが、驚いていた。

――もう…いや…

 心折れそうな貴子さんが、そう思った。



「ところで、ハイジ」

 承服もしていないのに、変な名前で呼ばれた。

 ハイジは、不満そうに「……はい」と応えた。

 その顔を満足気に見て頷き、クロは訊いた。

「本当に、ウチで働くことでいいの?」

「……はい…?」

 ここで、シロがクロの思惑に気付いた。

 そして、その直感が当たっていることを告げるように、クロは続けた。

「時給のところに、冗談で『時価』って書いちゃったけど…」

 クロは、それが気掛かりだった。

 クロの想いとして、

――俺達を見て、テキトーな人間だってことが分かるでしょ? 時価っていうのはゼロも有り得るよ、って意味よ。その辺のこと理解している? いや、ウチとしてはあなたみたいな人材はウェルカムだけど、ふざけてしまった罪悪感があるし…。コードネームが嫌だから辞退するっていうのも認めるけど…

 と、いうことがあった。

 だから、貴子さんが考え直すと言うのなら、それでも良かった。

 むしろ、その方が良かった。

――労働法とかそういうのに引っかからない?

 仕事が来なくて給料を払えなかった場合を想像し、おっかなびっくりクロは訊ねた。

「俺も、あなたにはもっと素敵な職場が合うと思う」

 シロも、怖くなってクロの言葉に乗っかった。

 貴子さんも、ここでいいのかという疑いを持たなかったかと言えば、それは嘘だ。むしろ、色々と疑いたいことだらけだ。が、しかし、社会勉強をする為に未知の道を進むことを望んでいたからこそ、この何でも屋まがいの職場を望んだのも、事実だ。

 それに、一カ月働いてゼロ円と言うことはないだろう。

「いえ、私はここで働きたいです!よろしくお願いします」



――一カ月働いて給料がゼロ円で納得するのかな?

 クロとシロは、強く疑問を感じた。

 しかし、それも後になってわかること。

 今は、なんかイイ人材を手に入れることが出来たということだけに満足した。

「では、よろしくお願いします」

 クロとシロが、頭を下げた。

 謝罪の気持ちも込めて、深く頭を下げた。



 ということで、新たな仲間が増えた。

「貴子とは、二度と呼ばないからね」

 クロが言うと、ハイジは「何故? そんな頑な?」と不思議に思った。

「なんとなく」

「あ、そうですか…」

 本当に良かったのかな、と自分の決断を疑ったハイジだった。


あだ名よりはニックネームかな、と思います。

異名は、最高。

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