私の知り合いの知り合いだとしても私とあなたは赤の他人なのだから初対面でグイグイ来ないでほしい
ハイジが事務所の掃除をしていると、ドアをノックする音がした。
その耳慣れない音にドキッとしたハイジは、戸惑いを見せる。
――どうしよう…クロさんもシロさんもいないのに…
どう対応したらいいのかわからず、ハイジは困った。
クロとシロは、現在事務所にいなかった。
その頃のクロとシロ。
「まいったことになったな」
「ああ、どうするか」
二人は、困っていた。
「早くしないと来ちゃうよ」
「来たらソレでいいだろ。問題は、今どうするかだ」
「だから俺はやめておこうって言ったのに」
「おい、今更言うなよ。てか、お前もノリノリだっただろうが」
「それはだって、シロが言うから」
「あ~ そういうこと言う」
二人は、揉めていた。
場面は戻り、事務所。
「すんません」
ドアの向こうで、声がした。
「あ、はい、ただいま」
さすがに居留守は使えないと思い、ハイジは意を決し、来客の対応にあたった。
ガチャッとドアを開ける。
すると、そこには思いがけない光景があった。
ただの依頼人であれば、なんとか対応しようと思っただろう。
しかし、そこにいたのは、十月の末に近付くと街のあちこちで頻発するカボチャのような頭をした男だった。
三角の目に、ギザギザの口。
ハイジは、突然の出会いに面食らった。
「ど、どうも…」
「ども」カボチャ頭の男は、頭を下げた。「クロさんとシロさんに用があって来ました。御二人は居ますか?」
二人の知り合いなの? と強い疑問や不気味悪さを感じながら、「お、御二人は、今いません」とハイジは答えた。
「今日はもう来ない感じすか?」
「いや、たぶんもうすぐ来ると思いますが…」
「じゃあ、中で待たせてもらってもいすか?」
「い、いす」
拒否することが出来ず、ハイジは、カボチャ頭の男を中に通してしまった。
これで二人の知り合いじゃなかったらどうしよう、とハイジはすぐに後悔した。
「いまさら後悔したってしょうがないよ」
「そうだな」
とある問題に直面していた二人だが、いつのまにか解決に向かっていた。
「とりあえず、現実を受け入れよう」とクロ。
「手放すのも惜しいよな」
「手放すなんてとんでもない。来るものは拒まず、来たものは歓迎しよう」
「じゃあ、お前が迎え入れろよ」
「それとこれとは話が別」
「じゃあ、何だったんだよ 今の会話!」シロが怒鳴った。「時間の無駄じゃねぇかよ」
「そんなことはない。シロが…」
「いやだ!」
「ワガママ言うなよ!」
「どっちが!」
解決に向かっていたように見えたが、気のせいだった。
再び事務所に戻る。
ハイジとカボチャ頭の男が、向かい合ってソファーに座っていた。
居た堪れない気分のハイジ。そんな彼女に、「あの」とカボチャ頭の男が声をかけた。
「は、はい…!」
「とりあえず、互いに自己紹介といきませんか?」
「そ、そうですね」ハイジは、じゃあ私から、と自己紹介を始めた。「ハイジといいます。ここで秘書のバイトをさせてもらっています」
ただのバイトだから私は責任を負えませんよ、と暗に言ったハイジ。
続いて、カボチャ頭の男が自己紹介を始めた。
「俺の名前は、パンプ。クロさんやシロさんの後輩です」
パンプ。
変な名前だなと思ったハイジだが、すぐにそれがアダ名だと気付く。
まさかパンプも同じことを考えているとは思いもせずに。
その頃、パンプの先輩らしい二人は、
「イヤだ!」
「俺だってイヤだ!」
まるで子供のように揉めていた。
が、それも終わりに近づいているようだ。
「そうだ!」クロが、何かを閃いた。
「ん?」
「俺に、良い考えがある」
自己紹介が終わると、次の話題を見つけられず、ハイジとパンプは黙ってしまっていた。
気まずい沈黙が、事務所内を支配する。
しかし、そこに二人にとって助け船のような「ただいま」という声がした。
クロとシロが、帰って来たのだ。
「おかえりなさい」早く来てください、というのを我慢してハイジは、「御二人にお客さんですよ」と早口で言った。
「ああ」「おう」
二人はパンプの存在に気付いた。が、その特徴的過ぎる外見については触れず、「よお」と声をかけるだけだった。
「待った?」とシロ。
「いえ、全然す」
「良かった」とクロ。「実はさ、かわいい後輩が来るからってアイス買いに行っていたのさ」
「あ、なんかすんません」
「いいえ~」
「でさ、この暑さだろ」顔をしかめるシロ。「疑うワケじゃないけど、俺達もドライアイスを完全に信用し切れなくてさ」
「ちょっと食べてみようって、シロが言うのさ」
「クロも食べたいって言うしよぉ」
「そしたら、滅多に出ない当たりが出ちゃって」
「へ~、すごいっすね。当たったのは、やっぱりクロさん?」
茶化すように言うパンプに、「やっぱり ってなんだよ!」と怒った反応を見せるシロ。「まあ、実際そうだけどね」とクロが言うと、三人は少し笑った。
そして、また沈黙が流れた。が、すぐに、「で…」とクロが口を開いた。
「当たりのアイスの棒が、ここにあるワケだ」
「パンプ…」
「はい?」
「換えてもらってこい」
「可愛い後輩をパシリっすか?」
先輩二人からの命令に、パンプは驚き、戸惑った。
三人のやり取りを聞きながら、ドライアイスすごいな、と頼んでいたアイスを食べているハイジは感心していた。
可愛い後輩が炎天下の中「ダッシュ」という先輩の命令を受けてアイスの当たり棒を換えに行った。
息を切らして汗だくのパンプが戻ってくるなり、
「それで、何しに来たの?」
とクロが訊いた。
「はぁ…はぁ…何しにって、アイスの当たり棒…」
「いや、それは俺達の用事だろ。あ、アイスは冷凍庫に入れといて」
「え、今 食べないんすか?じゃあ、なんで今換えに行かせたんすか?」
「こういうのって、タイミングを逃すと換えに行かなくなるじゃない」
「ええ~…食べてくださいよ、今。駄菓子屋やコンビニと違って、スーパーって妙なプレッシャーあったんすよ。レジのお姉さんに声掛けたら、サービスカウンターに行ってくださいって言われるし…」
「サンキュー」
「でも俺達、アイスは一日一個までって決めてるから」
「小学生ですか?」ハイジがつっこんだ。
「で、何しに来たの?」
改めてクロが訊いた。
「何しにって、文句を言いにですよ」パンプは言った。
アイスの件についてかな? とハイジは思った。アイスの当たり棒を換えに行かされたことについて文句があっても、何ら疑問はない。むしろ、文句がないという方が不自然なくらいだ。
だが、実際は違った。
「部下が欲しいなら、なんで俺に一声かけてくれないんすか?」
パンプは、クロとシロがバイトを募集していたこと、そしてハイジが彼らの下で働いていることに不満を抱いていた。なんで自分は蚊帳の外なのだ、と。
そんな疎外感を覚えているパンプに、クロは平然と「しょうがないじゃん」と応えた。
「しょうがないんすか?」
「だってお前、ふざけるだろ?」
そうシロが言うと、「ふざけませんよ」とパンプは反論した。「たしかに四六時中真面目かと問われれば答えに窮するかもしれませんが、俺だって真面目な瞬間くらいありますよ」
が、「そんなマスク被っているヤツ、信用できません」とシロが言った。
たしかに、とハイジは思った。
だが、カボチャ頭のパンプは「これ、先輩達が被れって言ったヤツですよ!」と反論した。高校時代に被れと言われたから被っているのだぞ、と。
ひどいな、とハイジは思った。
が、すぐに、従順過ぎるでしょ、とも思った。
「話を整理しよう」
クロが言った。
たしかに、とシロが同意する。「このままでは学生時代の放課後のようなグズグズな会話になってしまう。俺達はもう大人なんだ」
しかし、そう言った大人な二人は、ソファーにグダァッと倒れ込んでしまった。
暑い中 買い物に行って、疲れてしまったらしい。
「ハイジ、頼む」
クロが、話をまとめてくれるよう頼んだ。
すると、「ちょっと待ってください」とパンプが割って入った。
「俺にも、俺にだってハイジさんのポジションをこなせるってこと証明させてください」
懇願するパンプ。
しかし、「ダメだよ」とシロは冷たく言った。
「感情的になっている時点で、もうダメだ。見ろ、ハイジを」
そう言われ、パンプは、ハイジのことを見た。
その時のハイジは、私を巻き込まないでくれるとでも言いたそうな、非情に冷たい眼をしていた。
「どうだ?」
「氷のようっす」
「俺達に必要なモノは、これなんだよ。この、有無を言わさず話を進める様な威圧感」
「人を冷酷人間のように言わないでください」
ハイジが食って掛かった。
だが、「じゃあ、俺達の間を取り持つ潤滑油になってくれ」とシロが頼むと、「イヤです」と食い気味に返した。
「話の整理は諦めよう」
クロが言った。
たしかに、とシロが同意する。「このままでは学生時代の放課後のようなグズグズな会話になってしまう。俺達はもう大人なんだ」
しかし、そう言った大人な二人は、カップのアイスを食べていた。
先程は一日一個とか言っていたくせに、食べたくなったらしい。
「パンプ、お前の意見を聞くだけ聞こう」
クロが言うと、「あざっす」とパンプは話し始めた。
「ようは、俺もまぜてくださいってことっす。俺にだって秘書の仕事できますよ」
「そんなことを話す為だけに、こんなに時間かかったのかよ」
呆れるシロ。
そんな彼を、まぁまぁとクロがなだめた。「いいじゃないの。ガッツある若者のチャレンジ・スピリッツを無下にするものじゃあないよ」
「…ま、そうだな」
「そうだなって…!」ハイジは、当惑した。「もしパンプさんが秘書になったら、私の立場はどうなるんですか?」
「大丈夫だ、ハイジ」何か考えがある様子で微笑するクロ。「俺達は、より優秀な方を雇う。これまでに培った、お前の力を見せつけてやれ」
「で、でも、クロさん…」
「心配するな。ハイジ、俺達は信じている」シロが、ゆっくりと頷いた。
上司二人に期待されるハイジ。しかし、「いや、ちょっと…」とまだ納得がいかないようだった。
「いいですよ、俺は」ヤル気を出すパンプ。「御二人に俺の力をご覧入れましょう。申し訳ないっすけど、ハイジさんには俺の下、平社員になってもらいますよ」
「上等だ」とクロ。「勝負は簡単。次にきた依頼で、俺達により良いサポートを提供した方を秘書として雇おう」
クロの提案に、シロとパンプは頷いた。
しかし、
「依頼が来る予定は、この先ありませんよ」
呆れ顔でハイジが言った。
勝負はそもそも成立するはずがなかった。
それに気付かない三人は、大丈夫だって、と根拠のない事を言いながら、グダグダとした時間を過ごした。
新しいキャラクター、パンプです。
クロとシロの後輩で、カボチャ頭。
よろしくお願いします。




