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困った時だけ神頼み


 いつもの何でも屋の事務所で、

「ここって、何でも屋ですよね?」

 と、ハイジが訊いた。

「突然どうした?」クロは、「記憶喪失?」とハイジの心配をした。

「改めて問われると、答えに窮するな」微笑するシロ。「平和な世の中でヒーローに『あなたは何をしている人なの?』と問うようなものだ」

「禁句だね」

「だが、眼を逸らしてはいけない問題だ。存在意義を失ったヒーローほど悲しい存在もあるまい」

「ジレンマだ。泣けてくるね」

「ほんと、泣けてくるよ。明日の生活も不安になるくらい」

 シロは、自分の生活の心配をしていた。

 そんな、他人からの涙は呼べないだろう二人に、「よくわからないけど、御二人の事情はどうでもいいです」とハイジは言い放った。

「イエスかノーで答えてください。私たちは、依頼された事は何でもする『何でも屋』ですよね?」

「「……ノーとは言えないけどイエスとも言いたくない、微妙な年頃」」

 二人の返答を、ハイジは「イエス」と受け取った。



「話というのは他でもない、依頼のことです」

 ハイジは言った。

 しかし、仕事が入ってきたというのに、二人の反応は薄い。

 そうなの、へ~、とどこか他人事のようだ。

「実は…」二人の反応が思ったより悪くなかったので、ハイジは、神妙な顔をして続けた。「私が何でも屋のような場所でバイトしていると知った友人から、依頼を受けまして…」

「ちょっと待て」クロが、待ったをかけた。「今の、ちょっと引っかかる」

「なんです?」

「何でも屋のような場所って、ウチは『何でも屋』です。『ような』をつけるな」

 クロが妙なプライドを見せた。

 しかし、それはどうでもよかった。クロのことは置いといて、「問題はそこじゃない」とシロが継ぐ。

「問題は、知人の依頼だということだ」

「そ、それのどこに問題が…?」

「知り合いだからって割引とかはしないからな。知り合いでもちゃんと正規料金で払ってもらう。言い換えれば、俺達はプロだから、動かすにはそれ相応の金がかかるってことだ」

「あ、その辺は大丈夫です」ハイジは、なんだ そんなことか、とたいしたことではなさそうに言った。「報酬の話なら、ちゃんとしています」

「……あ、そう」

「…シロ、金の亡者みたいで、ちょっとカッコ悪かったよ」

 クロが軽蔑の眼差しを向けると、「時は金なり、さっさと用件を話せ」と半ば自棄になってシロは誤魔化した。



 シロが恥をかいた。

 それはもう、恥ずかしさを隠すために不機嫌を取り繕うくらいに。

 だから、シロが口を開きたくないのは理解出来る。何も喋りたくない気分なのだな、と察してあげることもできる。

 だが、何故かハイジも、言葉を発するのを躊躇っていた。

 どうしてだろうか、クロとシロは不思議に思った。

「あの、ですね…」

 ハイジが話し始めると、クロとシロは顔を合わせた。



「それで…ここどこ?」クロが訊いた。

「ここが、例の所だろ」シロが答えた。

「よろしくお願いします」申し訳なさそうにハイジは頭を下げた。

 三人は、とある神社にいた。

「あの、ですね…依頼の内容は、ちょっとしたおつかいの代理です」

 何でも屋の事務所で、ハイジは言っていた。

「おつかいだぁ?」顔をしかめるクロ。

「はい。ある神社で売っている〝おみくじ″を買って来て欲しいと頼まれまして…」

「買えばいいだろ」

 渋い顔をして、シロが言った。

 しかし、「そう簡単な話じゃないから、困っているんです」とハイジは言う。

「購入するには、ある条件があって」

「条件…?」首をかしげたクロ。「レベル25以上じゃないとダメとか?」

「金ならないぞ」

「いえ、お金の相談じゃありません」

「なら、なに?」

 ハイジは、なにやら答えを渋っていた。

 だが、このまま無言を貫けるワケでもなし、ハイジは重い口を開いた。

「男女で行かないと、買えないらしいんです」

「なんで?」

「恋愛系のモノだからだろ」

「御察しの通りです」

「え、どういうこと?」

 理解の悪いクロの為に、「ですから」とハイジは説明した。

「ある神社に男女のペアで行かないと買えないおみくじがあります。それは、恋人未満の男女をカップルにしたり、恋人同士の仲を深めたりする御利益があるそうです」

「御利益があるって、それを買いに行く時点でイイ関係になっているんじゃないの?」

「そうかもしれませんが、誰でも買いに行けるなら苦労はありません」

「ん?」

「それがこのおみくじの いやらしいところだ」元々そのおみくじの話を知っていたシロが、ハイジから勝手にバトンを受け取り、呆れ顔で言った。「最初は女子の間で広まった話だった。『そこの神社のおみくじを男女で買いに行くと、願いが叶うらしい』と。その噂がある程度広まると、今度は『告白する勇気はないけど、理由をこじつけておみくじを買いに誘うことなら出来る。おみくじの結果が良かったら、それをはずみに、思い切って告白しよう』という恋に悩む子女が増え始めた。さらに噂が広まると、男共の耳にも入るようになり、おみくじを買いに誘うことは告白と同義とされた。さて、困ったのは誰でしょう?」

「え?」突然の問い掛けに、クロは考えた。「…恋多き若者達?」

「三角回答。もうひとり、噂のお陰で増えた売り上げが、今度は噂のせいで減った、おみくじを売る神社が困りました」

「へ~」

「そこで神社は考えた。今までよりも入手困難なおみくじにしよう、と」

「え、なんで?」意外そうなクロ。「普通逆じゃないの?」

「そう思うだろ。けど、人間の心理とは面白いもので、入手が困難になればなる程、それに価値があると勝手に思い込む。神社は、それまでは普通に買えたおみくじを『男女組への限定販売』とすることで、売上を回復させた」

「そんな簡単にいくの?」

「いったのだからしょうがない。今では、そのおみくじを手に入れることが幸せを手に入れることだと思いこむ人がいるくらいだ」

 シロが言うと、申し訳なさそうにハイジが俯いた。というのも、ハイジの持ち込んだ依頼というのが、そのおみくじを手に入れる事だったのだ。

 私の代わりに『幸せ行き』の切符を買って来てというのと、この依頼は似ているとハイジは思っていた。買って来てもイイが、それで本当にあなたは満足なのか、不確かな道を案内されて不安に思うことはないのか、と占いごとに関心の低いハイジは思ってしまう。

 よくわからないが頼まれてしまったハイジは、二人の反応を窺った。

「よし、わかった」クロが言った。

「いいんですか?」にべもなく断られるかもと思っていたハイジは、少し驚いた。

「いいよ」お安い御用だ、とクロは言う。「つまり、俺と女装したシロでおみくじを買ってこいと」

「なんでだよ!お前が女装しろ」

「あ、ちょうど私は女なので、どちらかに男役をお願いしたいという話です」

 なんてことが事務所であった。

 ということで、その噂のおみくじを売る神社に三人は居た。



 休日とはいえ正月でもないのに、何かイベント事でもあるようで、神社には歩くとぶつかりそうになる程度の人がいた。

「代理で購入したおみくじに御利益なんてあるのかね?」

 今回の依頼を根底から否定するようなことを、さらっとシロは口にした。

 しかし、一度受けた依頼ということで、無責任に投げ出すようなマネはしない。だが、付き合っていられないというのも本心だ。そんな自分に嘘はつけないシロは、一応ここまでは付き合ったということで、「じゃ、俺はあっち行くから」とどこかへ消えた。

「え~、俺も行く」

「ダメですよ、二人ともいなくなっちゃ」

 シロについていきたかったクロは、不貞腐れながら「シロ、どこ行くんだろ?」と不満をはらんだ疑問を口にした。

「あっちはたしか…金運を向上させる神様が祀られている方です」

「……仕方ない、シロは行かせてあげるか」

 先日パチンコで負けたと言っていたシロを思い出し、クロはハイジの依頼についた。



「友情だ、愛だ、なんだかんだ言っても結局世の中 金なんだよ」金運アップを願う人達の群れを見て、シロは言った。「『みんな並んでいるから一応』『時間あるし、ここも行っとこうか』、何言ってやがる、行列に紛れれば己の欲深さを隠せると思ったか? 健康や家内安全を願う列よりも長いじゃねぇかよ、バカヤロー」

 シロは、行列で待つことに苛立っていた。

 行列は嫌いだ。 しかし、参拝はしたい。

 愚痴をこぼしながら、待つこと十分弱。

 シロは、賽銭箱の前まで来ていた。

「『イイ御縁がありますように五円』だぁ? バカ言うな。人の願いがそんなに安いかよ。ここは、思い切って…」

 財布を開いたシロ。そこには五百円玉もあった。しかし、五百円はでかい…。ということで、百円玉を賽銭箱に投げ入れた。

「どうか、パチンコで大勝ちさせてください」

 シロは、強く願った。

 この百円で一食をまかなうことだって出来るからな、と心の中で神様に脅しをかけながら、二拍一礼した。



 一方のクロとハイジ。

 おみくじを買うという使命を負った彼らは、おみくじを売る列に並んでいた。

 噂を聞いてきたのか、男女の長い列があり、そこに二人も加わった。

 しかし、列に並ぶことに慣れていないクロは、退屈していた。

「焼きトウモロコシが食べたい」

「我慢してください」

「…綿菓子を食べたい」

「帰りに買ってあげますから」

「…アユの塩焼き…」

「そんなの売ってましたか?」

 だんだんと集中力がなくなりワガママになってきたクロ。

 そんな彼にどうしようか悩むハイジ。

 その時、「あ」とクロが何かに気付いた。

 この状況で彼の関心を引くモノは何か? ハイジは、これ以上 邪魔モノは来るな、と思いながら、クロの視線を追った。

 そこには、二人の見知った顔がいた。

「アニマちゃん」

「あ、ハイジさん、と…。なんでハイジさん、そんなのとこんなところに」信じられない、イヤだ、とアニマ。

「会った瞬間から失礼連発だな、このチビ助」

 クロは、顔をしかめた。

 ははっ、と苦笑することしかできないハイジは、「そういえば、アニマちゃんはどうしてここに?」と質問した。

「ぅえっ…?」驚きでアニマの口から変な声が出た。「あ、アタシはちょっと…」

「もしかして、ここのおみくじ買いに?」

「ま、まさか」アニマは、ブンブンと首を横に振って否定した。「それにだって、一人じゃ買えないし」

 しかし、否定するハイジを嘲笑うかのように、その男は現れた。

「すまんアニマ。なにせ人が多くて」

 トイレから戻ってきたカグラ。

 タイミングが悪いな、とアニマは苦い顔になる。

「あ、カグラさん」

「お、ハイジさんにクロ。どうした、二人で? シロは一緒じゃないのか?」

「シロは、金運の女神を口説く為に参拝中」

「ん?」どういうことだ、とカグラは首をかしげた。

「私たちは、ここのおみくじを買って来て欲しいという依頼を受けて」

 ハイジが説明すると、「なんだ、奇遇だな」とカグラが言った。

「奇遇?」

「俺達もアニマの知り合いに頼まれたから来たんだ」

「そ、そうなの!」アニマが、わざと大きな声で割って入った。

 その事が意味するのをハイジはなんとなく理解していた。だから特に何も言わずに「そうなんですか」とだけ言う。

「それにしても、そんなに効くのか、ここのおみくじ?」

 カグラが何か言った。それに対し、「そんな湿布みたいな」とクロが反応する。

「違うのか?」

「違うでしょ。湿布ほどに直接的な効力はないと思うよ」

「いや、さすがに俺も湿布ほどの効力があるとは思っていないぞ」

「じゃあどれくらい?」

「素人の雨乞い以上、湿布未満」

「よくわからない」

「というか、おみくじってなんで買うんだ?」

「売っているからでしょ」

「そういうことじゃなく、なんで欲しいと思うんだ?」

「自分の運勢を知りたいからでしょ。シロなんかよく金運を気にしているよ。占いとか見て、良いと素直に受け取るし、悪いと無視してる」

「無視していいのか?」

「何億という人が住まうこの星で、たった十二に分けた星座占いがどれだけ正確なのだ? 最下位だってドンケツなワケじゃない、俺はたとえ底辺でも高笑いする。前にシロが言ってた」

「……一位の時は?」

「いやっほぉ! って喜んでた」

「幸せだな…」

 呆れるカグラ。

 もはや、なんのためにおみくじを買うのか、なんてどうでもよくなっている。

 クロも、どうでもよく思っていた。

 ところでこの男は誰だっけ、という疑問だけがクロの頭にあった。



「んだよ、末吉って」

 金運向上を祈り終えたシロは、おみくじを引いていた。

 そして、その結果に不満を漏らしていた。

「ノット・ソーグッド。バット、ノット・ソーバッド。良くも悪くもないって、中途半端だな、おい。ま、ここで無駄に大吉引いて運使うよかイイか」

 まるでコンビニで買い物した後のレシートのように、シロはおみくじをぐしゃっとポケットの中に入れた。



 おみくじの存在価値について語り合うヤツらや金運にしか興味の無いヤツは置いといて、女子二人は、真面目に恋愛のおみくじを買う為に並んでいた。

「ハイジさんは、依頼された分だけ買うの?」

 アニマからの質問に、「ううん」とハイジは答えた。

「自分で買ったのは自分用にして、クロさんが買ったのを依頼主に渡すつもり」ハイジは、照れ笑いした。「なんだかんだいっても、やっぱり気になるし。アニマちゃんは?」

「あ、アタシも自分用と、部長が買うヤツで…」

「……結果イイといいね」



 おみくじの結果。

「お、当たりだ」良くわからずに喜ぶ、大吉・カグラ。

「いいの、コレ?」首をかしげたくなる、小吉・アニマ。

「がっくし…」肩を落としたのは、凶・ハイジ。

「俺も開けたい!」クロは、駄々をこねた。

「クロさんには、あとで何か買ってあげますから…」

「…おみくじ」

 シロと合流し、帰り途中にハイジに買ってもらったおみくじは、末吉だった。

「お、シロとおそろいだ」

 なぜかクロは喜んだという。


神社でいべんと事って何でしょうか?

例のおみくじの限定発売の日とか、そういうことかな?


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