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ミミの話


「おっさんが、パンの耳でおやつを作ってくれた」

 パンの耳を油で揚げて砂糖をまぶしたものを、シロが持ってきた。それに「わーい」と嬉しそうに反応するクロと、「美味しそう」と笑みが零れるハイジ。

 三人は、ハイジが淹れたコーヒーを飲みながら、おやつの時間を楽しんでいた。



「それ、なんですか?」

 ハイジは訊いた。

 ソファーに座るシロの傍らには、茶色い棒状のモノが入ったビニール袋があった。

「パンの耳」シロが、パンの耳を頬張りながら不愉快そうな顔をして答えた。「もらった」

「もらったって…」ハイジは、疑問を感じた。パンの耳なら今も食べている。それも、三人でおやつに食べるには、少々多い。それなのに、シロの手元には更に十枚分はゆうに超えるだろう大量のパンの耳がある。「どれだけパンの耳 豊富なんですか?」

「サンドイッチの注文が大量にあったんだよ」

「たまごサンドは?」とパンの耳以外を欲するクロに、「ねぇよ」と、シロは冷たく返した。

「もらったのは耳だけだ。揚げて砂糖をまぶしてあるだけ ありがたく思え」

「はーい」

 これで満足するか、とクロはパンの耳を食べた。

 その後、もぐもぐもぐとパンの耳を咀嚼する音だけがした。

 だが、ハイジは訊きたい事があった。

「あの…」何本目かのパンの耳を食べ終えたタイミングで、ハイジは切り出した。「そんなに耳もらって、どうするんですか?」

「……っ!」

「……ぁ…」

 あきらかにシロとクロが、気不味そうな反応をした。

 あれ? なにかマズイこと聞いた? ハイジが戸惑っていると、

「察しろよ」

 とクロが言った。

「察する…?」

「今のシロにとっては、パンの耳も御馳走なのよ」

「あぁ…」ハイジは察した。「シロさん、またギャンブルで負けたんですね」

「……大好物は、パンの耳を肉の代わりにしたすき焼きと、パンの耳にケチャップとチーズをかけてオーブンで焼いたヤツです」シロは、投げやりに言った。「今夜は御馳走だぁ」



 パンの耳は、結構美味しい。

 だが、あの時 勝っていたらもっと美味しいものを食べられたはずだ。

 ああクソっ、とシロは苦い顔をして、髪をくしゃくしゃにかきむしった。

「……あれ、シロさん…?」ハイジが、シロの顔を見て、何かに気付いた。

「あ?」

「…シロさんって、ピアスしていたんですか?」 

 シロの左耳にきらりと光るものを、ハイジは見付けた。

「うわっ、シロ不良!」

 軽蔑するようにクロは言う。が、

「今更なんだよ」シロは、平然と言い返した。「高校の時からしてただろうが」

「あれ、そうだっけ…?」

「シロさん達の高校って、ピアスとかありだったんですね」

「いや、ばれた時は、こっぴどく怒られた」当時を苦々しく思い出しながら、シロは言った。「耳を引っ張られて『停学が嫌なら明日までに穴ふさいで来い』とまで言われた。ま、そんな無茶言われても簡単にふさがるワケないし、学業に影響はないと証明してみせたしということで、黙認された」

 はっはっは、とシロは結局笑っていた。

 記憶力が常人離れしているシロからすれば高校の試験くらい余裕だったのだろうな、ということを察し、ハイジは、反省の色がまったくないシロを指導する立場だった先生達を不憫に思った。



「そういえば、知っているか?」シロが、話を切り出した。

「なになに?」

「アニマの耳、どっちが本物か…」

 シロが言うには、フードに動物耳がついたパーカーをよく着用しているアニマは、その聴覚や痛覚などの感覚がフードについている耳の方にあるというのだ。

 くだらない、とハイジは呆れた。なにをアホみたいなことを言っているのだ、と。

 だが、

「え? 顔の方じゃないの?」

 クロが、真剣に考え込んだ。

「クロさん、普通に考えてみてください」

「……普通に考えて、そんなバカな話あるはずない。けど、そんなバカな話をわざわざシロがするとも思えない。ということは、裏をかいて…」

「かかないで、フツーに!」

「……え、フツーってなんだ? なんでアニマは、パーカーを着るだけでパワーアップするのだ?」

 クロは、頭を抱えた。

 そして考え込み、出した結論は、

「よし、確かめに行こう」

 だった。

 そうと決まれば、クロは飛び出していった。

「……何処に行く気だよ、あのバカ」とシロ。

「大学じゃないですか?」

「面倒くさいから、俺パス。ハイジ、付き合ってやって」

「シロさんが変なこと言うからじゃないですか! 行きますよ」



 大学にきた一行は、アニマを見付けていた。

 物陰からアニマを見ている。

「さて、どうする?」

「帰る」

「無責任すぎますよ、シロさん」

「じゃあ、責任者シロが、アニマの耳の偽物と思う方をぎゅぅっと引っ張る。それで当たっていれば、ばれずに逃げられるだろ」

「だろって、ばれるから絶対」

 相談するクロ達。

 そんな彼らの存在に、アニマは気付いていた。

 だが、気付いていないフリをして、相手の動向を探っていた。

 しかし、『神経通っている方の耳を引っ張ったヤツが怒られる』というゲームをしようとしたクロとシロが近付いてきた時、良からぬ気配を察し、アニマは動いた。

「すいません警備員さん、不審者につけられていて…!」

 アニマは、校門わきにある警備員室に小走りで駆け寄った。

 困った顔をして声をかけてきた少女に、「なに?」と警備員が使命感を燃やした。

 警備員に睨まれたクロとシロは、「おいおい…」「冗談よせよ…」と当惑する。

「ちょっと、学生証見せて」

 そう言いながら、警備員が近付いてきた。

 もちろん、学生じゃないクロとシロは学生証を持っていない。

 どうするか、眼を合わせて相談した二人は、せーの、で逃げ出した。

「ちょ、待ちなさい!」



「バーカ」

 勝ち誇って微笑していたアニマ。

 だが、

「きみ、中学生だろ。学校はどうしたの?」

 と、クロとシロに逃げられて戻ってきた警備員に、間違われた。

「いえ!違います」

 学生証を見せようとしたアニマだったが、カバンの中になかった。

「ちょっと、警備員室に来てもらえる?」

「あ、あたし、ここの学生です」

 アニマは言った。

 が、信じてもらえなさそうなので、逃げた。

 何をしているのか分からなくなったので、ハイジは帰った。


パンの耳も美味しくいただきます。




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