忘れられたSOS
『追伸。だけど、変わった人だ。助力求む』
カグラからのメールが、シロのケータイに届いていた。
届いたのではない。
届いていた、のだ。
既に過去形。
どれくらい過去かというと、昨日今日のことではなく、そのメールを見つけた瞬間に思わずシロの口から「ヤベっ」と飛び出すほどだ。
たいていのことは忘れない記憶力を持つ男が、見た記憶もない。
それもそのはず、見ていないのだ。
追伸扱いにされた文章は、シロの眼にとまらなかった。
「まさか追伸に大事な事が書いているとも思うまい。だからむしろ、既読のメールが読み返されたという奇跡を喜ぼうじゃないか。そうだ、奇跡が起きたのだ。お前らは今、奇跡を目にしている!」
シロが言った。
シロが言うのを聞いているのは、シロのケータイ画面を見せられているクロとハイジ。
「ファンタスティック!」
そう歓喜に沸くのはクロだけで、ハイジは違った。
「もう少し悪びれろよ!」
ハイジは声を高くしたが、シロはどこ吹く風で平然としていた。
ハイジは、思い出していた。
カグラとの出会いは、グダグダだった。『再戦の申し込み』が書かれた手紙が事務所に届いたのが、ことのきっかけだ。しかし、その手紙を開封せず、くだらないごたごたで放っておいたら、指定された日を過ぎてしまった。
思い出せば、今回と似ている。まぁ、今回の方がひどいが…。
あの時は、結局、再戦の申し込みというのは事のついでで、カグラが運営する『悪の組織』というサークルの存続のために動いたのだった。
そういえば、あれからどうなったのだろう?
すっかり忘れていた頃に、シロが言った。
「ははっ。助けてくれ、だとさ」
「ぅおい!」
思わず身を乗り出してツッコム、ハイジだった。
カグラから助けを求められていたクロ達。
しかし、メールという媒体のせいか、助けを求められているというのにクロ達の危機感はすごく薄い。
「シロ、それいつ届いたの?」
「けっこう前」
「じゃあ時間が解決してくれたよ」
「だな」
「俺達が今更出張っても、後の祭り的な、今になって何しに来たって怒られるだけだって」
「だよな」
「なにを呑気な!」ハイジだけは、ちゃんと焦っていた。「もしかしたら今もまだ困っているかもしれませんよ」
「こまったちゃんだな」
「仮に困っていなくても、謝るべきです」
「うわ、正論だ」苦々しそうに舌を出すシロ。「俺達が何も言い返せなくなるヤツ」
「だったら! 無駄口叩かずにカグラさんに謝りなさい!」
ハイジに言われ、シロはカグラにメールを打った。
『困っているなら助けてやらないでもない』
メールの返事は、すぐに来た。
『遅い!どれだけ待たせる!』
『知りたければ、時計やカレンダーを見ろ』
『知りたいワケじゃねぇよ!』
『じゃあ、どうしたいワケ?』
『どうしたいもなにも、どうしようもない状況にあるからメールしたワケ!』
『それって、どんな状況よ?』
『……何と言えばいいか…』
「あの!」ケータイ電話をカコカコやってメールのやり取りをしていると、ハイジが言った。「直接会って話しませんか?なんかまどろっこしい!」
『なんか、うちの秘書が怒っている』
『なんか、ごめんなさい』
『なんか、俺ムシされてない?』
クロまでメールを打ち始めると、ハイジがいよいよ切れた。
「電話しろ、もう!」
『ということで、電話に切り代えるぞ』
シロは、カグラに電話した。
そして、二言三言の会話を交わすと、「出かけるぞ」と言った。
「どこに?」
「大学。そこでカグラと会う。これで満足か、ハイジ?」
「私がワガママ言ったみたいで不満です」
ハイジはそう言うが、カグラの待つ大学へ三人揃って行った。
「ところで、何しに行くの?」
大学への道すがら、クロが訊いた。
「カグラに会いに行く」
「何の為? ていうか、カグラって誰?」
「さあ? 俺にもわからん」
「テキトーなこと言わないでください。カグラさんは、お二人の友人でしょ」
「じゃあ、遊びの誘い?」
「違うと思います。何の用か知りません、というか今からそれを聞きに行くのですよ」
カグラからのSOSがあったということは忘れ、三人はゆっくり歩いていく。
続きます。
次はちょっとだけ長くなります。




