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肉を好んで食する者達の晩餐


 ある日の夕方、

「今日の晩飯は、俺の奢りだ」

 クロが言った。

 その いつもの彼らしからぬ発言に、「あ?」「はい?」とシロとハイジは耳を疑った。

「何やらかした?」

「なにもやましいことはしていません」

「明日はきっといいことありますよ」

「ヤケになっているワケでもありません」

 失礼な、とクロは頬を膨らませた。

 しかし、その顔も徐々にニヤついてきた。

「これを見ろ!」

 クロは、ポケットから映画のチケットのような一枚の紙を取り出し、二人に見せた。

「そ、それは?」

「まさか!」

 そこには、『焼肉食べ放題、無料券』と書かれていた。

「商店街の福引で当てました」

「「おおぉ!」」

 三人は、意気揚々と焼肉屋に向かった。



 商店街の福引 二等『焼肉食べ放題、無料券』は、一グループ三名まで有効だ。

「ドーンと食べなさいよ」

 そう得意気に言うクロと、彼の強運に感謝するシロとハイジ。三人は、焼肉屋の のれんをくぐり、通されたテーブル席についた。

 ここの焼肉屋は、食べ放題で、各テーブルに備え付けの網で客が好き勝手に肉や野菜を焼くシステムだ。そして、その肉や野菜は、好きなモノを注文して頼むようになっている。つまり、カルビだけを十人前食べても、最近価格が高騰している野菜だけを一心不乱に貪り食っても、何しに来たと野次られようともデザートだけ食べるのも、自由なのだ。

 時間制限内なら、どれだけ食べても定額。

 その料金がタダになる券を持つ三人は、御満悦で席についた。

「ありがとうございます (クロさんの運)」

「焼肉なんて久しぶりだぜ (よくやったクロの運)」

「感謝して食え (俺の運に)」

 クロの運に感謝したところで、食べ放題の時間が開始した。


「なに食べます?」ハイジは訊いた。「まずは、定番の盛り合わせとか ですか?」

「ちょい 待ち」

「なんです、クロさん?」

「ハイジ持っているの、それ何?」

「何って、タッチパネルですよ」ハイジは、最近のカラオケ屋などにあるそれをクロに見せた。「これで注文するシステムになっているみたいです」

「へ~」クロの眼が、好奇心で輝いた。「ちょっと貸して」

「汚さないでくださいよ」

 ハイジは、タッチパネルをクロに渡した。

 タッチパネルを受け取るなり、クロは、隣に座るシロと一緒にそれをいじってみた。

「けっこう色々あるな」

「シロ! 肉包む葉っぱもあるよ」

 タッチパネルにはメニューが表示されていた。そして、そのメニューは『牛肉』『豚肉』『鶏肉』『その他の肉』『ご飯』『野菜』『サイドメニュー』『おすすめ』『網の交換』などなど、様々なジャンルに分けられていた。

 その中から、クロが何かを見つけた。

「おっ?」

 それは、『設定』の所をタッチすると表示された。

「大食いチャレンジモード…」

 クロが、そこに書いてある説明書きを読み上げた。

『テーブルごと又は個人で食べた総重量をカウントできます。食べた量を把握したい場合や、「今日はとことん食べちゃうぞ」という日は、ぜひこのモードをお試しください』

 読み上げると、クロがニヤッと口の端を吊り上げて笑った。

 イヤな予感がするシロとハイジ。

 そして、その嫌な予感は的中する。

「大食いバトルだ!」

 クロが宣言した。


 クロ達は、『大食いチャレンジモード(個人)』を設定した。

 画面をタッチすると、店員がやって来て説明を始めた。

「このモードでは、食べた量を量ることが出来ます。やり方は、予めA、B、Cと御客様で決めていただき、最終的にAの方はいくら、Bの方はいくらといった形で結果をお出しします。タッチパネルでの注文時に、A~Cの誰の注文なのか、タッチしていただいて判別させてもらいます。何かご質問はございますか?」

「えっと…」もう一度、最初から説明してほしいクロ。

 そんな彼の様子に気付き「つまり」とシロが言った。

「テメェで食うモンはテメェで注文しろ、ってことだろ? そうすれば店側で計量してやるぞ、と」

「はい」

「なるほど」

「ちなみに」店員が説明を続けた。「詳細設定を決めれば、注文された品の全部の量なのかお肉だけの量なのかなどを決めることが出来ます」

「こちとら肉食系ですよ」

 茶々を入れてくるクロを微笑で流し、「最後に」と店員が言った。

「過剰な食べ残しは、別途代金をいただいております。注文の際は、気をつけてください」

 すべての説明を終えると、店員は一旦 下がった。

 店員がいなくなると、クロ達は、注文するよりもまず話し合いを始めた。

「仲良くシェアして食べませんか?」弱気な発言のハイジ。

 しかし、弱気なのは彼女だけ。

「本能の赴くままに肉を食う、それ以外は何も無い」

「これはもう、野生の勝負だ」

 男たちは、やる気だった。

「最下位は罰ゲームな」

「野生での負けイコール『死』を覚悟してもらうぞ」

「ちょ、待って…」ハイジは、慌てて口を挟んだ。「もう和やかな食卓は諦めます。ですが、せめてハンデをください」

「…いいぜ」クロは、不敵な笑みを浮かべた。「俺達肉食系男子は肉の重さだけ、ハイジは野菜や白米など諸々を含んだ量、それで勝負だ」

「キャベツ一枚で勝機を見出せませんけど…」

「一玉食え」

「カボチャも食え」

 そう言ってハイジをムリヤリ納得させ、シロがタッチパネルを操作した。

『大食いチャレンジモード。AとBは肉だけ、Cは全部』

 そして、食事という名の戦いが始まる。



 ハイジは、とりあえず野菜も入った盛り合わせ二人前を注文した。

 シロは、カルビとタン塩を二人前ずつ注文した。

 クロは、「白飯にバウンドさせるのは必須」ということでライスの中とカルビ五人前、そしてフランクフルトを注文した。

 野菜を主に焼くハイジ。キャベツやタマネギ、ピーマンなどを焼き、その傍らで肉もやいている。

 カルビを焼くシロ。焼いた肉からしたたる脂が炎を舞い上がらせ、彼のテンションも上げさせた。

 カルビを焼くクロ。焼けた肉を醤油ダレにたっぷり浸し、それを白米の上で一度バウンドさせてから口に運ぶ。

 三人の顔が、肉の美味さでほころんだ。

 食べていてピッチが上がったハイジは、追加の肉を注文し、どんどん焼いていく。

 火を見てテンションが上がったシロは、牛と豚をメインにどんどん焼いていく。

 お腹が膨れてきたクロ、フランクフルトを焼いていて、棒を摘まむ指を火傷しかけた。

「美味しいぃ~」

「おいクロ、ソーセージ 邪魔」

「フランクフルトですぅ」

「シロさん、私のキャベツを消火用に使わないでください!食べてくださいよ、それ」

「こちとらバリバリの肉食系男子だぜ」

「恐竜のような男だぞ。ちなみに俺は、プラテオサウルス」

「草食じゃねぇか!」

「ボケが分かり辛いです!」



 ハイジの手は、止まらない。トングと箸を交互に持ち、焼いた肉と野菜、そして米を次々と口に運んでいく。

 シロの手も、止まらない。胃の回復を狙って、生キャベツの塩ダレ和えを食べている。

 クロの手は、動きが鈍くなった。随分前から、食べ終えたフランクフルトの棒で網の上にある物をつつくだけになっている。

 ハイジは、最下位だけは避けよう、できれば一位も避けたいと思いながら、最初は食べていた。しかしどうだろう、食べていたら止まらなくなる。

 シロは、自分が余裕で一位だろうと最初は思っていた。だが、今は危機感しかない。前半で食べた軟骨が満腹中枢を刺激してしまったのでは、と後悔している。

 クロも、最初は何か思っていたはずだ。しかし、今は、何も考えられない。本能の赴くままにソフトクリームを食べていたら、お腹が痛くなったのだ。自分でニュインと作れるのが楽しくて調子に乗ったと、トイレの中で激しく後悔していた。

 結局、一位はハイジだった。クロとシロの合計よりも多い量を食べていたことに、彼女は恥ずかしさを覚え、顔を赤らめた。

 最下位は、クロ。

 ラストオーダーの後も、ずっとトイレで死ぬほどの苦しみを味わっていた。


軟骨とかホルモンも好き。

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