話は戻るけどさが許される長さ
前話はすみません。
今回は十九話の続きです。
「話は戻るけどさ」
クロが話し始めると、間髪を容れず「どっから戻ってきた!」とカグラの怒号が飛んだ。
「今、いなかったよな!」
「ああ、ちょっと映画の試写会に…」
「会話の途中に試写会って、自由すぎるだろ!」
「ちょい待ち!」
シロが言った。
そう言われてカグラが黙ると、シロは「余計なことは喋るな」と釘をさして来た。
「話は戻るのだ。ややこしくなるから余計な口は挟んでくれるな」
「あぁん?」
不愉快そうなカグラ。
しかし、彼がどう思おうと、話は学食での時に戻る。
「で、なんだっけ?」
クロが言った。
すかさず、眉間に皺を寄せたカグラの反応に気付いたハイジは、「カグラさんの運営するサークル『悪の組織』が存続の危機にある、という話ですよ」とクロに耳打ちした。
「え? どうでもいいっていうか、俺達 関係なくない?」
「それを言わないでください」
「依頼なんて、ほとんど俺達と無関係だろうが」
「いや、シロさんたちは多少なりとも関係あるはずですよ」
「シロはどうか知らないけど、俺は無関係…」
「なワケないだろ」
シロが言った。
クロもシロも、無関係ではないらしい。
だが、イマイチ話の流れが理解出来ないクロは、「話を整理してごらんよ」と命じた。
「誰かさんが映画の試写会なんか行くからだろうが!」
カグラは怒鳴った。
しかし、そんな怒鳴り声は周りの迷惑なだけだと言わんばかりに顔をしかめるシロ。
そんなシロから、事の次第が語られる。
「コイツの名前は、カグラ」
「え? また名前から振り返るの?」と、カグラという名の男。
「なるほど…。よくわかった」クロが頷く。
「嘘をつけ!理解が早過ぎだ!面倒くさがるな」
「俺達とカグラの出会いは、ひょんなことだった」
「ひょん?」
「ああ。ひょん ひょん で ひょんだ」
「ひょんか」
「ひょんな出会いを経た俺達は、なぁんかふにゃふにゃした関係になる」
「……これ、説明になっています?」
眉間にしわを作ったハイジは、強く疑問に感じた。
だが、「なっている」と主張して、シロは続けた。
「ハイジ。クロが特別なのは、ハイジも知っているよな?」
「…はい」詳しくはないが、なにやらクロが特殊な能力を持っているらしきことは、ハイジも知っていた。その副作用的に、こうして物忘れが激しくなっている事も。
「カグラも、クロと同じだ」
「え?」
よくわかっていないハイジに、シロは「ハイジは、性善説や性悪説について聞いた事はあるか?」と訊いた。
突然の質問に、「まぁ、名称くらいは…」とハイジは答えた。
「カグラという人物を理解する為には、そこの理解が必要だ」
「と、いいますと?」
「カグラは、性悪説を裏付けするような、生まれつきの性質が悪のやつだ」
人間の生まれつきの性質は善か悪か、その対立する考えに置いて、カグラは悪の証明をする存在である…らしい。しかし、そんなことを言われても、すぐに「なるほど」と納得できるものではない。どちらかというと、そんなことを本人の前で口にするものではないと、うろたえてしまう。それなのに、そこにさらに、「純粋に『悪』に憧れる生まれつきの性質が悪なヤツだが、カグラは、生まれつき『悪事』という概念を喪失してしまっているヤツでもある」と言われたら、いよいよ意味が分からなくなる。
「……えっと、『悪の組織』を創設なさった方ですよね?」
「まぎれもない創設者だ」
「でも、悪い方ではないのですか?」
「野球選手になりたい子供がみんな野球上手なワケではないだろう」
そう言われ、なんとなくハイジは理解した。
素質はなかったけど好きな気持ちは嘘じゃないから、草野球のチームを作った。それと似ているのかもしれない、と。
「え、俺よくわからないけど? ひょん ひょん 言っていた辺りから」
クロが言ったが、「話を進めるぞ」とシロは無視した。
「ハイジは、こう思ったはずだ。というか、思っている前提で進める」とシロ。「『カグラがクロと同じなら、何らかの特殊な能力を持っているのではないか』と」
「あ、はい。それは、少し思いました」
「『悪』に惹かれた男・カグラは、他人よりも悪意が欠如していた」
この世界は平和だな、と思うハイジ。
「意味分かんね」と理解を諦めたクロ。
「俺も詳しくは知らない。だが、事実として、その生まれながらの欠如を埋めるかのように、カグラは『引きつける力』を持っている」
「「へぇ~」」
なんとなく でいいや、クロとハイジは「そういうこと」として理解した。
特にカグラ本人から説明もなかった。
それよりもと、クロ達を呼び出した本来の目的である「悪の組織の存続」について話をしたがっている。
しかし、カグラが口を開こうとすると、「あ、ねぇねぇ」と邪魔が入った。
邪魔者は、耳や首、手首や指など至る所にアクセサリーを身につけて髪の毛も脱色させている、どこか軽薄そうな男だった。
「貴子ちゃんだよね?」
「あ、はい…」苦い顔をして、男に応えるハイジ。
「俺、覚えてる?この前、授業一緒だったじゃん。今度メシ行こうってハナシ、考えてくれた?」矢継ぎ早に喋る男は、少し声をひそめ「この人達みたくモサい人より、ぜってぇ楽しいから」というと、「じゃ、連絡ちょうだいね」と言い、嵐のように去って行った。
「……なんだ?」
動揺した様子のカグラ。
あきらかに不愉快そうな顔をしたシロは、ムスッとして口も開かない。
「あの、すいませんでした」
場を乱したことを謝るハイジに、クロは「なぁ」と問い掛けた。
「貴子って、誰?」
「私だよ!」
「不愉快だな」
シロが言った。
しかし、言葉とは裏腹に、顔は笑っている。
なにか悪い事を考えている顔だ。
「…あの…シロさん……?」
「どうした、シロ?」
クロが訊くと、シロは「ちょうどいい機会に恵まれた」と答えた。
「なんの機会?」
「ハイジも気になってしょうがない、カグラの能力を実演する機会だ」
「いや…私、不本意ではありますが、ちょうど意識が他に逸れたトコでした」
「ハイジ。さっきのやつは、お前のカレシか?」
シロが訊くと、嫌そうな顔を隠すことなく「現在も未来も、その可能性はゼロだと御分かりいただけているかと?」とハイジは返した。
「つまり、彼の不幸は、俺達とは無関係だ」
「何を考えているのですか?」
「俺には分かるぜ」自信あり気なクロ。「アレだろ、どんなに気を揉もうと俺達の心配する想いは届かない、悲しい現実だ」
「ま、あながち間違いではない」
「嘘ですよね!」
疑うハイジだが、シロは、「イェーイ」と喜ぶクロからのハイタッチに応えていた。
「カグラ」
シロは、アゴしゃくって「やれ」と命令した。
「そんなことをして、何になる」カグラは渋った。
だが、「能力の証明だ」とシロは言う。
「それに、安物のアクセサリーで光り輝こうとする小物に『モサい』と言われて、お前も面白くないだろう?」
別に、とカグラは思った。が、やれ、というシロに抵抗するのもまた面倒だと判断した。
はぁ~、と一つ溜め息をつき、カグラは動いた。といっても、傍目には、席に座ろうとしている男の方に、右手を軽く上げただけにしか見えない。しかし、それなのに、男は転んだ。座ろうとした椅子が、後ろに引かれたからだ。
ハイジは、驚いた。
物体を引く能力。
それがカグラの持つ力か。
「「くははははっ」」
ハイジは、カグラの能力を理解すると同時に、転んだ男の姿を見て高笑いするクロやシロのことを、この人達の方が悪の組織向きだな、と思った。
カグラの性質は難しく考えないでください。
考えられると、私が困ります。
なんとなくでここは許してください。




