密
「お二人って、どういう関係ですか?」
以前から気になっていたことを、ハイジは訊いた。
肩書としては、自分は秘書で、副社長はシロ、一番偉いはずの社長がクロである。
しかし、一番偉いはずの人が、だらしない。
モノ忘れは激しいし、発言はいい加減。
そのせいか、この職場では副社長の権限が強いように感じられる。
副社長が、社長と対等か、それ以上に見える。
「私の認識って、あっていますか?」
ハイジは、確認せずにはいられなかった。
だが、そんなハイジの思いとは裏腹に、当の二人は平然としていた。
「あっているはずだ」
「社長って、一番偉い人ですよね?」
「そうですよ。俺が、この場で一番偉いクロです」
「では、副社長とはどういう定義で考えれば?」
「社長の下だ」とクロ。
だよね、とハイジは納得しかけた。が、
「社長を下から支える、頼れる人材だ」
とシロが言うので、また解らなくなってきた。
「えっと…上なのは?」
「社長。けど、下がしっかりしていないと上は崩壊する、砂上の楼閣のようなモノだ」
当然のことのように、シロは言った。
シロが言う事も、理解出来る。
だが、良くわからずこんがらがってきたので、ハイジは「どっちは偉いのですか?」と結論を求めた。
「俺」
「俺」
ハイジが求めた結論は、望む形をしておらず、真っ二つに割れていた。
「俺達の関係、ねぇ…」
ハイジの質問を、シロは、ぼんやりと口にしてみた。
「はい」
「ハイジ」質問に答えたのは、真面目な顔をしたクロだった。「その質問には答えられない。俺達の関係を一言で表せられるような言葉、すくなくとも俺は知らない」
「俺は知っているぞ」とシロ。「幼馴染、もしくは腐れ縁だ」
「けっこう普通ですね」
そうハイジが言うので、クロは少しムキになり、「すごいな、シロ。二つも知っているのか」と言った。「そんな言葉、俺は思い付かなかった」
「なんで不貞腐れているの?」
ハイジは、不思議そうに眉をひそめた。
「ちなみに、御年はどちらが上ですか?」
やっぱりシロの方が上かな、と予想しながらハイジは訊いた。
「同い年だよ」
シロは答えた。
「そうなんですか」
少し意外そうなハイジ。
それじゃあ、とハイジは続けて質問した。
「おいくつですか? なんとなく、私と同じくらいに見えますけど」
その質問に答えたのは、口の端をきゅっと上げてアヒルのような口をしたクロだった。
「え~、いくつに見える?」
「女子かっ! 合コンのノリか」
つっこむハイジ。
そこに、「え~、わからない~」と悪ノリしたシロが割って入った。
「面倒くさっ! え、同い年なんですよね?」
ハイジはつっこんだが、無視された。
「いつも、少し下に見られるみたいなんです」
「え、じゃあ、二十歳とか?」
「あ、シロさんは男役でしたか…てか、疑問形ですけど、答え知っていますよね?」
「え? そんなに大人っぽく見えます?」
「大人っぽく見られて嬉しい、とかどうでもいいです!」
「いや、見えないけど、下に見られるっていうから…ホントはもっと下かなって」
「あ、ひど~い。もっとよく見て」
「気持ち悪っ」
シロも、さすがにキモいなと思い、ここでやめた。
もっとよく見て、と眼をパチクリさせてアピールするクロ。そんなクロの頬に、シロがビンタした。すかさず、クロもやり返した。そして、そのままなんかケンカっぽくなった。
とりあえず仲良し、とハイジは二人の関係に結論付けた。
クロとシロは、ハイジよりも少しだけ年上です。
でも、上だからって関係ありません。ハイジも、やるときはやります。