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おや おや おや?


「昼飯にするか」

 シロが言った。

 その言葉にクロもハイジも異を唱えることはなかった。

 今日は何を食べようかな、あそこのコンビニのパスタ美味しいんだよなぁ、とかハイジは考えていた。

 だから、「ハイジ」とシロに呼ばれた時、一瞬反応が遅れた。

「…あ、はい」

「何を食べるかで悩んでいて周囲への注意が著しく低下しているハイジ」

「うるさいですよ、クロさん」不満気にムッとしてクロに返してから、ハイジは「なんですか、シロさん?」とシロの方に向き直った。

「ハイジは今日、昼どうする?」

「食べます」

「食べないなんて選択肢、ありません」とクロ。

「いや、食べるかどうかじゃなく…」

「そんなワケ無いってこと、百も承知だから」とクロ。

「コンビニで何か買ってこようかなって思っていました」

「2~3軒ハシゴする?」とクロ。

「またコンビニか」

「最近のコンビニは質が良いからな」

「うっせぇんだよ!」「うるさいですよ!」

 二人の会話に横から口を挟んでいたら、クロは、二人に怒られた。

「……最後の怒られるのは、納得いかない」

 クロは、口を尖らせた。



 口を挟むうるさいヤツが黙ったので、ハイジは「それで?」と会話を進めた。

「ああ」シロは、低いテンションで言った。「昼、特に決まっていないなら、一緒にどうだ?」

「…え?」

 まさかの誘いに、一瞬、ハイジは面食らった。

 男の人と一対一で食事をしたことが無いのに、まさかの突然、ランチに誘われた。しかも、うるさそうな人がいる眼の前で。

 ハイジがどう応えようか悩んでいると、クロが、

「え~シロ、俺は?」

 と訊いた。

「お前の分もあるよ」

「ん?」その会話に、ハイジは違和感を覚えた。「あの、お昼って…?」

 ハイジが訊くと、平然とシロは応えた。

「下の喫茶店で俺がバイトしているの 知っているだろ? そこのマスターから、サンドイッチの差し入れを貰った。から、一緒にどうだ?」

「…あ、いただきます」

 一瞬でも変な想像というか妄想を抱いた自分を、ハイジは恥じた。

「変な妄想するなよ、ハイジ」

「うるさいですよ、クロさん!ていうか、していません!」



 シロの持ってきた、大皿に綺麗に盛り付けられたサンドイッチは、どうみても五人前以上はあった。

「あのオヤジ、張りきったな」とクロ。

 クロの言う『オヤジ』というのが誰か、ハイジはなんとなく察しがついた。

「『新人ちゃんに食ってもらえ』だとさ」

「これ、全部ハイジの?」

 驚いた様子のクロに、「そんなワケ無いじゃないですか!」とハイジは声を高くした。

「俺とクロが一人前ずつ食べるとしても、食って半分だよな」

「そんなに食べられません!」



 玉子サンドにツナサンド、カツサンドにハムサンド、トマトやキュウリなどの野菜を挟んだサンド、苺ジャムサンドやチョコサンドもある。

 どれも美味しそうだ。

 実際、どれも美味しい。

 一通り食べてから、ついついもう一つと手が伸びてしまう。

「やっぱ、食べるじゃないのさ」

 ハイジの食欲に、クロは敗北を感じた。

「イイじゃないですか」気恥ずかしさを感じたハイジは、クロを攻めるつもりで「玉子サンドばっかり食べる人に言われたくありません」

「美味しいじゃない、玉子サンド。それになにより、野菜が入っていない」

「野菜が入っていないからって、子供ですか?」

「そういや、飲み物ないな」

 話の流れを無視して、シロが気付いた事を口にした。

 シロのいきなりの発言に、ハイジも、そうだなと思う。

 そして、そういえば、と思い出した。

 だが、それを言っていいのかという躊躇いもある。

 怒られるかもしれない。

 でも、もしかしたら…。

 可能性を信じて、ハイジは言った。

「そういえばシロさん、喫茶店で働いているんですよね?」

「ああ」

「コーヒーを淹れたりもするんですか?」

「まぁ、そりゃあ…」

「ちゃんと挽いた豆で?」

「じゃないと、オヤジがうるさいからな」

「あの…私、インスタントじゃない本格的なコーヒー飲んでみたいです」

 これが、いつも事務所でインスタントのコーヒーを淹れている、秘書という肩書を与えられたハイジからの頼みだった。

「嫌だ」

 あっさりと、シロは断った。

 やっぱり調子に乗り過ぎだよね、と反省するハイジだった。が、

「オフの時までやりたくないし」

 という断った理由を聞いて、おい!と思う。

「オフって、昼休みとはいえ、ここも職場ですよ!」

「職場だけどオフだ、とも言えるぞ」それにだ、とシロは付け足した。「ここを何処だと思っている?」

「職場」

「兼、俺の休憩所だ」

「あなたこそ、職場を何だと思っているんですか?」

 怒りを覚えながらも呆れる、ハイジだった。

 そして結局、いつものようにハイジがコーヒーを淹れた。



「おら、ちゃんと野菜もとれ」

 シロが言った。

 玉子サンドばっかり食べるクロに対し言うシロを、「親みたい」とハイジは思った。

「なんだよ、ハイジ?」と不満気なクロ。

「だって、シロさんが親みたいというか、クロさんが子供じみているというか…」

 可笑しそうに、ハイジは言った。

「だれが親だよ」

「だれが宝息子だよ」

 だれも宝息子とは、とハイジが呆れていたら、「じゃあ、宝息子」とシロが言った。

「コレ、大切なお前に」

 シロは、何かが入ったコップをクロに差し出した。

 なんだ、アレ? と、ハイジは眉をひそめた。

 それは、黒々とした液体だった。

 いや、光の当たり具合では緑も見える。

「…ドブか?」苦い顔をしてクロが訊いた。

「お前を心配するオヤジからだ」

 シロの言う親父が誰か、ハイジには察しがついた。

 つまり、謎の液体は、喫茶店のマスターからの差し入れだった。

 緑黒く濁った液体、それは青汁らしい。

 マスター特製の、色々混ぜた汁。

「なんで俺だけ、そんな罰ゲーム?」

 クロは、心底納得いかないといった表情だ。

「健康のためだ、とさ」

「健康と引き換えに毒を飲め、と?」

「毒じゃない。元はそれぞれ、口にしてイイ食品だったはずだ、たぶん」

「じゃあシロが飲めよ」

「俺は、健康食品に頼る様な食生活はしていない」

「コレを健康食品と言えるシロの食生活も疑いモノだぞ!」



 クロとシロは、マスター特製の青汁を押し付け合っていた。

 お互いに断固として飲みたくなく、相手には飲ませたいのだ。

 飲ませたいのは、マスターも同じだろう。

 食生活もいい加減そうな二人を気遣って、わざわざ青汁まで作ってくれるのだから。

 優しいマスターだな、とハイジは心温まる思いだった。

 しかし、興味本位で青汁に鼻を近付けた時、

「うげぇっ!」

 と危険臭を嗅ぎとった。

「ハイジ!」

「おい?」

「「死ぬな!」」

 二人の声が下の喫茶店まで届くのではないかという位のハイジのリアクションだった。


もうすぐ始まる……ドキドキ…。

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