坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたのは
サブタイトル欄に入りきらなかったので、正式なものをこちらに
『坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたのは、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描きたかったからであって、それ以上でもそれ以下でもなく、何をしたかったのかと問われると、やはり屏風に上手に坊主の絵を描きたかったのであり、そこに細かい理由などはないのだから、下手に叱って屏風に上手に坊主の絵を描いた坊主の才能を否定せず、坊主に屏風に上手に坊主の絵描かせてやって、その才能を伸ばしてあげて』
「何する?」
クロが訊いた。
「何するか?」とシロ。
「……………」
「特にやることもないよな?」
「ああ、ない」
「……………」
「仕事は?」
「ない」
「……………」
「しりとりでもする」
「そんな最終手段に出るほど退屈でもねぇよ」
「……………」
「テトリスは?」
「気分じゃない」
「……………」
「じゃあ、白地のパズル」
「どんな時でも却下、一人でやってろ」
「……………」
ハイジは、二人の会話をずっと黙って聞いていた。
しかし、すぐに耐え切れなくなった。
「絵はぁ?」
思わず声を荒げた。
「絵を描かんかい!」
突然 怒声を上げたハイジに、クロとシロは驚いた。
「どうした、ハイジ?」
「御乱心、御乱心っ!」
慌てふためく二人に、「絵は?」とハイジは訊いた。
「え?」
「は?」
「なにか絵を描かなければいけないような事はないのですか?」
そう言われても、とクロとシロは顔を合わせる。
「ないよな?」
「ああ」
「そんなことはないはずです」ハイジは主張する。「迷いネコのビラを描いてみるとか、ストーカーの似顔絵を描いてみるとか、何かあるはずですよ」
「いや、何も無いはずですよ。なぁ、シロ」
「ああ。少なくとも、俺がペンを持つような事はしばらくない」
「もう少し仕事をちゃんとしてください!」
ハイジが怒鳴った。
「仕事が無いなら無いで、探す努力をしましょうよ」ハイジは、ダメな上司二人を説得していた。「こんなことをしますって書いた広告を配るとか…」
「そんなこちらから条件を提示するようなマネ、俺はしたくない」とクロ。
「俺も、だ」とシロ。「来た仕事は受ける。選り好みはしない」
「選り好むもなにも、仕事が無いって言っているんですよ!」
ハイジが、また怒鳴った。
あまりにもハイジが怒鳴るので、「どうした?」とシロは訊いた。
「何かあったのか?」
「いえ…どちらかというと、何も無いからです」
はて、とクロとシロは首をかしげた。
はぁ~、と深く息を吐き、ハイジは「お二人は、御存じですか?」と訊いた。
「何を?」とシロ。
「今回のサブタイトルです」
「さ、サブタイトル? ……って、なに?」
「アレだよ」知らないというクロに、シロが教えた。「『坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたのは、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描きたかったからであって、それ以上でもそれ以下でもなく、何をしたかったのかと問われると、やはり屏風に上手に坊主の絵を描きたかったのであり、そこに細かい理由などはないのだから、下手に叱って屏風に上手に坊主の絵を描いた坊主の才能を否定せず、坊主に屏風に上手に坊主の絵描かせてやって、その才能を伸ばしてあげて』ってやつ」
「おぉ、スゴイなシロ」クロは、シロの滑舌の良さを褒めた。「もっかい言って」
「『坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたのは、坊主が屏風に上手に坊主の絵を描きたかったからであって、それ以上でもそれ以下でもなく、何をしたかったのかと問われると、やはり屏風に上手に坊主の絵を描きたかったのであり、そこに細かい理由などはないのだから、下手に叱って屏風に上手に坊主の絵を描いた坊主の才能を否定せず、坊主に屏風に上手に坊主の絵描かせてやって、その才能を伸ばしてあげて』」
「はい、ハイジ」
「え?」クロからふられ、ハイジは言ってみた。「『坊主が屏風に上手にびょうず…』」
「…で、ソレが何?」
「だから、サブタイ」
いじられたらいじられたで腹が立つが、なかったことにされるのもムカつく。だからハイジは、「神の啓示のようなモノです」と半ば自棄になって言った。
「何をするのか、すればいいのか、そういう御告げだと思ってください!」
「てことは、ハイジは神の使い?」クロが驚いた。
「そうです!」
「おい、嘘つけ」
話が脱線して来たので、一度シロがしめた。
「つまり、ハイジは、なんとなく今日は絵を描きたい気分なんだな」
「まぁ、それでいいです」不愉快な解釈だが、ハイジは納得した。「それじゃあ、絵を描いてくれますか?」
「……いやだ!」
クロは、眉をひそめて言った。
それにシロも「ああ」と首肯した。
「ハイジが言えなかった文言を解釈すると…」
クロが言った。
「シロさんが言ったことを解釈すると…?」
「自由にさせてあげろ、ってことだ」
そのクロの主張に賛同し、シロも頷いた。
そして、二人は堂々と胸を張って言った。
「「俺達は、描かない自由を選ばせてもらう!」」
「……ダメな人達…」
もう絵なんか描かなくていいや…。
どうでもよくなったハイジだった。
くぅ~!