第5話 「……言い直す意味ありました?」
かなり遅れたうえに内容も短く実もないようなものになってしまいましたが更新です
呼び出しの電話をしてから数十分後……俺の――というか人の頼みをほぼ断らない和馬は、第2音楽室にその姿を現した……ご丁寧に朝井たちを引きつれて。
そもそもどうして気づかなかったんだよ俺……和馬の居る所にハーレムありだというのに、わざわざ自分の首を絞めてどうするよ?
しかも、電話した時は朝井と早乙女さんしか居なかったらしいのに、どこで会ったのか小路原先輩と大多喜までもを引きつれ、フルメンバーと化していた。俺へのいじめだろうか?
おそるおそる、それぞれの顔色を(こっそりと)確認してみる。
朝井と早乙女さんは俺を発見すると『和馬との下校を邪魔しやがって』とでも言いたそうに、ものすごい嫌そうな顔をした。
小路原先輩は久賀先輩を見据えている。大多喜にいたっては状況がわかっていないのか、俺を見て和馬を見て、久賀先輩を見て――を繰り返していた。
「ちょっとどういうことよ?」
「っ!?」
朝井と早乙女さんの視線をスルーしながら、ここからどう説明しようかと悩んでいたところに、柊さんがいきなり近くでそう言った。反射的に大きく跳び退いてしまい、視線を集めてしまった。
ごめんと小さく謝ると、呆れたように溜息をついてから口を開いた。
「あたしたちは瀬野を呼べって言ったでしょ。どうしてオプションまで来るのよ」
「誰がオプションですって?」
俺のあの反応をスルーしてくれるのはありがたいけど、どうしてそう挑発的な物言いなんだろうか。沸点の低い朝井がキレるじゃないか。
こうなるんだったら、和馬1人だけを呼び出せばよかったな……一応これもそのつもりだったんだけどなぁ。適当に理由をつけて朝井は来そうだし、結局意味はないのかもしれない。
反応した朝井に、またも呆れながら柊さんは向き直る。
「悪いけど、瀬野以外のあんたらのことよ。用があるのは瀬野だけだし」
「あなた、それが人にものを頼む態度ですの?」
「そうね。和馬、こんな勝手な奴らの頼みなんて聞くことないわ。帰りましょ」
「そもそもあんたらに頼んでないっての。何度も言うけど用があるのは瀬野だけなの!」
バチバチと火花を散らす柊さんと朝井&早乙女さん。
どうしてこうなった。
「莉奈も琴海さんも落ち着いて。オレはここに喧嘩しに来たんじゃないんだから。悠斗も、そんなつもりはないんだろ」
「当たり前だ。誰が好き好んで面倒なことを起こすか」
俺が喧嘩大好き人間かなにかと思ってるのか? こんなにも平和主義者だというのに。
とりあえず、なんだかんだで場が落ち着いた(?)ところで、そろそろ呼び出した本題を説明しないとだ。
じゃないと話が終わらない上に、意味のない争いが始まりそうだ。そしてそれの被害に遭うのは、高確率で俺なんだ。早く回避することに越したことはない。
「で、とりあえずお前を呼んだ訳をザックリ言うとだな……」
「待ってくれ佐々木君。その説明は演劇部部長の僕が説明するよ」
俺の言葉を遮って、久賀先輩が前に出た。
それを見た小路原先輩が、いつになく視線を鋭くして久賀先輩を見据えた。
……え、なにその反応?
「演劇部? 演劇部は去年に廃部になったはずよ」
「まだ廃部にはなっていませんよ。明後日の勧誘で立ち直らせます」
小路原先輩の言葉に、俺は思わず久賀先輩に視線を移す。が、先輩はそう即答した。しかもなんか、声が低い。
「そのために、瀬野和馬君の力をお借りしたいんです」
「後輩に無理やり手伝わせてまで存続させたいの? 諦めて貴方は生徒会活動に専念してくれないかしら?」
「どこかの誰かさんが仕事を放り投げて遊んでいなければ、後輩の手を煩わせるような手段をとらなくても済みそうだったんですがね」
なぜか……久賀先輩と小路原先輩の間に、重苦しい空気が流れ始めた。
っていうかこの2人、実はあんまり仲良くなかったのか。そんなのでよく生徒会が成り立ってたな。土台ぐらぐらじゃないか。
「これが修羅場ってやつかな?」
「いや、違うだろ。つかお前、なんで嬉しそうなんだよ?」
「見てる分には楽し――面白いじゃない」
「……言い直す意味ありました?」
まあ……同意できる部分は少なからずある。
俺も、和馬のことで朝井と他の女子が争っているその真ん中に本人が居る。って光景を面白おかしく眺めていたからな。
……だけど、そう思えるのは自分が完全なる部外者の時だけだ。少しでも巻き込まれる可能性があったのなら、楽しめるどころか面倒なことに引きずり込まれてしまう。そして傷つくのは自分だけなんだ。
だからそう言う修羅場に出会ったら、俺はまず距離を置くことから始め、遠くで眺めて「自分無関係デスヨ~」的雰囲気を醸し出している。
……まあ、巻き込まれる時はそれでも巻き込まれるんだけどな。
「あの、先輩、落ち着いてくださいよ。べつにオレは無理やり手伝わされるわけじゃないんですから。な、悠斗?」
不穏な空気に足を踏み入れたのは、やっぱり和馬だった。
小路原先輩を落ち着かせようと前に出て……どうしてそこで俺に話を投げるんだろうかこいつは。
内心でうなだれそうになりながらも、俺は頷いた。
……それにしても、朝井といい小路原先輩といい、演劇部は一応瀬野にだけしか話はしていないはずなのに、よくも本人置いてけぼりで話そうとするな。
「とにかく、まずは話を聞いてくれませんか? じゃないと話が進まないんで」
まったく話が進もうとしないからだろうか、だんだん面倒になってきた。
「悠斗くん、面倒くさがっちゃダメだよ?」
「お願いだから脱線させるようなこと言わないでくれませんか!?」
というか、どうして俺の内心がわかったんだ。お前も同じこと思ってるんじゃないだろうな?
楠木のせいで脱線しそうになった場をなんとか落ち着かせ、ようやく久賀先輩が説明し始めた。
……ただ頼むだけの短い話だったはずなのに、どうしてこんなに時間と気力を使ったんだろうか。妙に疲れたよ、俺は。
そうして説明された和馬が、口を開き――、
「わか――」
「そんなの手伝えるわけないじゃない」
なぜか和馬を差し置いて朝井が答えていた。
しかも否定だ。
「瀬野に聞いてるのに、どうしてあんたが答えんのよっ!」
それに反応して、柊さんが怒ったように言った。
ああ……なんか初めに戻った気分だ。思わず頭を抱えたくなった。
「いや、手伝うよ」
再び睨みあう朝井と柊さんを止めたのは、和馬のその一言だった。
予想外だったからなのか、朝井はともかくとして柊さんまで驚いている。
「困ってる人が居て、それを見て見ぬフリなんてできないからな」
「そうか。助かるよ、瀬野君」
和馬の言葉に、久賀先輩は安堵の息をもらしていた。柊さんも、少し嬉しそうな表情だ。朝井はまあ……別にいいか。
とりあえず、これで一件落着だろう。和馬が手伝うことになったんだ。たぶんこれで、演劇部も再建されるはずだ。
「仕方ないわね。和馬がそう言うなら、手伝ってあげるわよ」
「そうですわね。わたくしたちにも、なにかできることがあるかもしれませんし」
「別にあんたたちには頼んでないんだけど……まあ、手伝うなら無下にはしないわよ」
朝井と早乙女さんも、仕方なくという風に頷いていた。
もうツッコむのも疲れたのか、柊さんも2人の言葉に賛成的だった。
とはいえ、小路原先輩だけが苦い顔をしていた。そんなに久賀先輩に仕事を押し付けたかったんだろうか。というか、今日で生徒会の見方が変わってしまった。
そして大多喜は――どうしてか楠木を凝視していた。意外そうな、どこか驚いているような、そんな目で。
どうしたんだろうか?
「それで悠斗。お前はどうするんだ?」
「は?」
とにかく、もう仕事は終わったんだ。と思っていた矢先に、和馬がなぜかこっちに話を振ってきた。
「オレに手伝えって言っておきながら、悠斗はなにもしないのかよ?」
「そんなことはないけど……そこんとこどうなんだ、楠木?」
俺個人としては、手伝えと言われなくても手伝う気でいるんだけど、ここはボランティア部部長の意見を聞いておこう。
「もちろん、手伝うよっ。それがボクたちの活動だしね」
「だとさ」
「えっと……どういう意味? どうしてその子の許可が?」
いつもの俺なら即決していることを、楠木に聞いていたからか、和馬が不思議そうに首を傾げていた。
まあ、正直言って楠木に聞いても即決には変わりなかったから、聞く必要もなかったと言えばそうなんだけどな。
「こいつ、ボランティア部の部長なんだ。で、今朝それに入った」
「ボランティア部?」
なぜかこの場に居た全員が首を傾げた。
……なにこの反応。変なこといったか、俺?
「そんな部活こそ、この学園にはないと思うのだけど……大多喜さん、わかる?」
「い、いえ……わたしも覚えがないです」
「え?」
小路原先輩と大多喜の言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。
いやまあ……ボランティア部ってすげーマイナーな部活なんだろう。生徒会が全部把握できないほどに、この学園には部活動があるんだから。
「いや、僕もそんな部活は聞いたことないな」
まさかの久賀先輩もご存じなかったようで。
俺はすぐさま楠木に詰め寄った。
「おい楠木……どういうことだ?」
「あれ、言わなかったっけ? まだ正式に登録されてないって」
「聞いてないから! てかそれならあの部室はなんだったんだよ?」
「空き教室ってたくさんあるんだよ。だからその一室を借りてるんだよ。正式に登録されるまでの仮部屋だけどね」
いいのか、それは?
たしかにけっこういっぱい空き教室はあるけども。
「そもそもお前、俺が入らないと廃部になるって言ったよな。廃部どころか設立すらしてないのはどうなんだよ?」
「………………テヘッ☆」
「散々溜めた挙げ句それか!?」
たしかに可愛いとは思うが……なんかよけいムカついたぞ。
「えっと……それで、悠斗はどうすんだ?」
部活なんてものがなかったと明かされて、もう一度和馬が問いかけてきた。その表情は困惑と驚きの両方の色が見えた。
お前はそんなにも、俺が女子と話しているのが驚きか?
けどまあ……今のこの状況で俺が楠木に怒鳴っていても仕方がないし、乗りかかった船には乗らねばならんだろう。
演劇部の方も、今は存在しないらしいボランティア部の方も。
「……手伝うよ。ついでにこいつも一緒にな」
グイッ、と肩を掴んで、楠木を前に出す。
それを見た和馬が、目を見開いた。俺が女子に触れたのを驚いてるんだろうけど、校内でそんな反応しないでほしい。
「そ、そんなわけでボクと悠斗くんは手伝うから、泥船に乗ったつもりで期待していいからね。瀬野くん」
そんなことを言われて安心できる奴が、果たしてこの世に居るのだろうか。
まあ……とにかく、これで演劇部支援部隊は整った(ということにしておこう)。あとは明後日の新入生勧誘で成果を出せればいい。
そう思うことで、俺はやっと一息つけたのだった。