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第2話 「うん、見なかったことにしよう」

 2話目ですがさっそく迷走しております。

 というか……まったく悠斗が巻き込まれてない……このままじゃ題名詐欺になってしまう(笑)

 結局なににもツッコまずに、頭だけ抱えていたら授業は終わり、放課になってしまった。

 いや、べつにそれはいいんだ。むしろ喜ぶべきだ。だってこれから俺は和馬たちから解放され、入学式の片付けとかそういう仕事が待っているんだから!


 ――などと思っていた時期が、俺にもありました。


「オレも入学式の片付け、手伝うよ」


 放課後、俺が昼飯を食べに行こうかと席を立とうとしたその時、朝井と早乙女さんと大多喜を引きつれた和馬の、血迷った言葉を聞かされた。

 思わず反射的に「いや、帰れよ。マジでお願いしますから」とか言いそうになったけど、そこはググッと堪えました。さすがに、そんな事言ったら面倒な集中砲火が来そうだからな。

 ……まあ、俺がなにも言わずとも集中砲火の未来は変わらないんだけどさ。


「いや……べつにいいって。せっかく午前放課なんだから遊び行けよ」

「せっかく和馬さんが手伝ってくださるというのに、その好意を受け取りませんの?」


 オブラートに「帰れ」と言ったら、なぜか早乙女さんに責められた。

 うん、わかってたことだけどね。和馬の周りに居る女性は、和馬の意見が絶対だと思ってるから。

 その横に居る朝井は……もう、言葉にするのも面倒だな。とりあえず、俺を殺さんとばかりの睨みをきかせている。そんなに嫌いなら来なきゃいいのに。とも思うけど、和馬あるところに朝井ありだからなぁ。

 まだ言葉にして罵ってくれた方がいいのに。あ、俺がMってことじゃないからな?

 無言で終始睨まれるよりも、なにか言葉にしてくれた方がいいって、それだけの話です。


「生徒会はいつも人手が足らないですし、ここは手伝ってもらうのもありと思うんです」


 と、大多喜。言葉に詰まった。

 たしかにそうだろうよ。今朝も副会長がそんなことを言っていたしな。

 それに、俺がなにを言おうと説得力はないんだよな。俺こそ生徒会に関係ない人間なんだから。

 それなら現生徒会役員である大多喜の方が説得力がある。

 だから俺は、諦めたように小さく溜息をついた。


「手伝いたいなら、好きにすればいいだろ。そもそも、どうして俺に言いに来るんだよ?」

「なにも言わずにオレが手伝い始めたら、お前絶対に嫌がるだろ?」


 どちらにしても嫌がりますがね、俺は。

 それを口に出さずにいると、ふと視線を感じた。まあ、その視線の先は俺じゃなくて目の前に居る和馬こいつなんだろうけど。

 だから視線はスルーして、俺は席から立ち上がる。


「俺は学食行くけど、和馬たちはどうすんの?」


 とりあえずそう聞いておくことにした。なにも言わずに行くのもなんだし、ここで誘わないのは、友達としてどうなんだろうか。

 まあ……俺の事情を知っている和馬ならちゃんと断って――、


「そうだな。オレも学食行くよ」


 えええええええええーーーーっ!?

 おまっ、そこは断るとこだろぉー!?

 とは言えずに、あんぐりと口を開けて絶句していた。


「みんなもそれでいいよな?」

「和馬のことだからどうせこんなことになると思ったわよ。あたしは別にかまわないわ」

「まあ、和馬さんがそう言うのなら、わたくしもそれでかまいませんわ」

「えっと……わたしもご一緒させてください」


 和馬の問いかけに、即座に頷く女子たち……。ちなみに朝井は俺に死ねと視線で訴えており、早乙女さんは渋々頷き、大多喜は恥ずかしそうにしていた。

 ああ、やべぇ……これって軽く詰んでね?

 いや、まだだ。まだ大丈夫だ。和馬のハーレムたちは必ず、和馬の近くに席をとるはず!

 ならば俺はそれを逆手に取り、和馬から離れればいいだけ――なんだけどこいつ絶対「一緒に食おうぜ」とか爽やかに言ってくるよなぁ……やっぱり詰んだかなぁ、俺の人生。


「ってことで、悠斗。学食行こうぜ」

「あぁ……うん、行こうか……」


 諦めてそう言うと、和馬が肩を組んできて歩きはじめる。俺はその流れに逆らえずに、力なくついていくのだった。

 そして背後からは殺気、サッキ、さっき……。

 もう、俺のライフは0ですよ……。




 平嵜学園(うちの学校)の学食は、まあ、食券形式だ。どこにでもあるような。

 食券を買うために和馬から解放された俺は、「食べたいの決まらないから、和馬たちが先に買ってくれよ」と適当なことを言い、最後尾に並ぶことに成功した。

 これであいつらが席をとったら、俺は不自然にならないような距離の席をとればいい。

 完璧だ。

 完璧すぎて笑えてくらぁ。


「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」


 ……殺気こもった睨みを向けられながら、朝井が吐き捨てるようにそう言ってきた。

 こいつが口を利くなんて珍しい。とか頭の隅で思いながら、俺は顔を逸らして俯いた。

 チラリと視線を戻すと、朝井はもう俺には目も向けず、和馬の腕に引っ付いていた。

 まあ……若干心に傷を負ったものの、俺の計画は順調に進み、俺以外は食券を買って、その料理を持ってテーブルに座っていた。

 これである程度の距離をとれれば問題はない。今日は午前放課であるから、いつもは賑わうこの学食もほとんど人は居ないしな。

 券売機を眺め、今日はオムライス(350円)あたりにしようかなと、財布の中身を見て、思わず絶句した。


「ぉぅふ……」


 そして思わず変な声が出た。

 現在残金――105円なり……なにも買えねえじゃん……。

 購買のパンって、1個いくらだっけなぁ……。


「購買行ってくるから、俺にかまわずに食っててくれ」

「金なかったんなら貸すぞ?」

「いらん」


 和馬に借りたら、さらに面倒なことになりそうだ。


「食券すら買えないほどの貧乏人が、どうして和馬さんの幼馴染なんですの?」


 ほら……なにも言わずにもこんなにも言われるんだからな、俺は。

 しかも、俺には聞こえるというのに、和馬には聞こえていないという謎現象。意味わからん。


「あのっ、佐々木くん。よかったらわたしのお弁当分けますけど……」


 と言ってきてくれたのは、唯一弁当持ちだった大多喜。


「気にしないでいいよ。ちょうどパン食べたくなったし」


 だが、俺はそれを丁重に断った。自分で学食行こうって誘っときながら、このセリフは違和感すぎるけどもな。

 まあ、こうやって俺を憐れんでそう言うだけでも、和馬の中で好感度は上がるだろうな。人の悪口言うやつよりも、人を助けようとするやつの方が好印象なのは間違いないだろうしな。

 そんなわけで、俺は学食から退避。想定外だけど、和馬たちから離れるという目的は達成できたな。しかも、かなり自然に。

 これで適当な所で昼食を済ませて、時間になったら講堂に向かえばいい。それから手伝いを始めれば、完璧じゃないか。


「きゃっ……」


 そんな事を考えていたからだろうか。

 廊下で誰かとぶつかってしまい、ドサリと重い物が落ちる音がした。

 見ると、ぶつかったらしい亜麻色の髪の少女と、その少女が持っていたらしいダンボール箱が廊下に落ちていた。


「あ、悪い」


 そう言って、俺は少女に手を差し伸べる――ことはせずに、落ちたダンボール箱を拾う。

 なんで少女に手を差し伸べないのか? 誰が好き好んで地雷に足を突っ込むよ?


「ご、ごめんなさい……前方不注意でして……」


 と、立ち上がった少女は……小さかった。小柄ともいう。

 どうして同じことを2回も言った。大事だからですね、わかります。いやいや、大事かこれ?

 俺もそんなに身長は高い方じゃないけど、軽く頭1つ分はあるからな。

 まあそれはいいとして、この時間帯に居るってことは、2年か3年だろう。

 童顔であるけど……それで同い年と思わない方がいいよな。最近はかなり幼く見える年上の女性とか居るし。

 そう思って、俺は胸にある校章に視線を向ける。この学園では、校章の色で学年がわかるのだ。

 ちなみに、1年が青、2年が緑、3年が赤だ。

 で、少女は緑だから俺と同じ2年らしい……が。俺は胸の校章に視線を向けたことを後悔した。

 なんていうかその……身長には見合ってないんじゃね? ってぐらい、出るとこが出てた。なるほど、これが世に言うロリ顔巨乳か。と、思わず納得できてしまうぐらいに。しかも見た感じ、ぽっちゃりとしているわけでもない感じがする。俺の主観だけども!


「あ、そのダンボール箱……」

「ああ……はい」


 言われて、ダンボール箱を抱えていることを思い出した。また落とさないように、そっと手渡す。

 ニコリと微笑む彼女は、まぎれもない美少女だった。右側に結られた亜麻色の髪――これがサイドテールというやつか――が少しだけ揺れる。

 こんないかにもヒロイン(?)みたいな女の子と脇役の俺が、どうして廊下でぶつかるなんてイベントを起こしてしまったんだ? 普通は和馬が起こすようなものだろ。

 なにより驚きなのは、今手渡した際に、ゾワリとした感じというか……鳥肌が立つような感じがまったくしなかった。

 女性相手なら、近づくのでさえ遠慮したいのに、今この少女と向かい合っていても、なにも起きない。

 これはもしかして……俺にも春が来るのか!? なんてことは絶対に思わないからな!


「悪かったな。ちょっと考えごとしてて……」

「ううん、ボクもこれ運ぶのに集中しすぎてたから、おあいこだよ」


 一瞬、少女の一人称に反応してしまった。

 今の時代……女性の一人称が『ボク』でも不思議はない時代だ。が、世には男の娘というものも存在する。

 目の前の少女に恐怖心や苦手意識が芽生えないのはもしかして――、


「いや、それ以上は考えるなそれは考えちゃダメだろ人として!」

「え! なにが!?」

「べ、べつに、なんでもない……」


 思わず声に出してしまっていたらしい。

 初対面の人に変人の烙印を押されるとこだった。……もう遅いかもしれないけど。

 というか、なんでそんな発想にいったんだよ。それならこの少女のこの豊満な胸はどう説明する気なんだよっ! 男ならわざわざ大きくしないだろ、たぶん!

 って、なに変なこと考えてんだよ俺はぁっ!


「それ、運ぶの手伝おうか?」

「だいじょうぶだよ。軽いし」

「軽い!?」


 思考を切り替えるために言ってみたら、少女の答えに声が裏返ってしまった。

 いや……さっきから描写はしてないけどさ、このダンボール箱、男の俺が抱えてもかなり重かったんだぞ? 俺が力がないと言われればそこまでだけど、この小柄な少女が持ったら、顔が隠れるほどなんだ。

 それを軽いと? マジかこいつ……。


「えっと、じゃあ俺はこれで……」

「うん、またね」


 手を振って……少女が去っていった。

 もう一度言う。あの少女、重いダンボール箱を片手で支えながら、俺に手を振ったぞ。

 こんな俺がまともに話せる女子だから、嬉しくは思うんだけど……あの馬鹿力(?)はなんなのだろうか。


「うん、見なかったことにしよう」


 その方が賢明だろう。今後のためにも。……俺自身のためにも。





  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *





 その後、つつがなく入学式が終わり、後片付けも何事もなく終了した。

 ……まあ、手伝うと言った和馬以下2名と会長は、ほとんど作業もしてなかったけどな。大多喜はしてはいたけど、作業に身が入っていないようだった。

 だからまあ、ほとんど副会長が仕切っていました。

 なにはともあれ、ようやく俺は下校することになった。

 もちろん、前を行くのは和馬とそのハーレムたちだ。というか会長。仕事を副会長に押し付けて自分は先に帰るって……それはどうなんだ。

 口には出せずに、視線で訴えかけてみるけど……当たり前だが気づくわけもない。楽しそーに和馬と喋っておられる。

 ちなみに、和馬を中心としてその左に会長。右に早乙女さん。朝井と大多喜は少し後ろを歩いている。

 俺? 俺はもっと後ろでトボトボ歩いています。このままフェードアウトしたって気づかれない自信がある。

 そろそろ離れようか。そう思った矢先、前方に変化があった。


「それでは、私はこっちなのでな。和馬君、また明日」


 と、初めに会長が居なくなり、


「もう少しお話していたかったのですが……今日は少し用事がありますの。和馬さん、また明日ですわ」


 と、次に早乙女さんと別れ、


「わたしはこちらですので。みなさん、また明日です」


 と、大多喜までもが帰ってしまった。

 いや、帰ることはいいんだけどさ……残されたのは、俺と和馬と朝井である。

 朝井は他の女子が居なくなったのをいいことに、和馬の隣を歩く。典型的ツンデレである朝井は、自分から和馬に引っ付こうとはしないんだよな。あくまで他のやつへの対抗心で引っ付くだけだから。まあ、『今は』って言葉が頭に付くんだが。

 で、完全に忘れられているので――本音は朝井に睨まれたくないので――、エスケープしようとべつの道を行こうとしたら、


「悠斗、どうして離れてんだよ。お前だけ仲間外れみたいになってんじゃんか」


 和馬に見つかってしまった。そして案の定、朝井に睨まれた。

 そのまま仲間外れにして結構ですよー。と言うわけにもいかない。

 仕方なく、俺は少し駆け足で和馬の隣に行った。向かいで睨んでる朝井は気にしない。気にしたら俺の命がいくらあっても足りない。


「ねえ、和馬。これから買い物に付き合いなさいよ」

「べつにいいけど……あ、それなら悠斗も一緒に行こうぜ」


 俺を無視するかのごとくの話題に、無理やり俺をブッ込みやがったよ……さすがだな。俺にとっては迷惑この上ないけど。

 朝井の方はあえて見ない。見てはいけない。


「な、なんでそいつも?」

「久しぶりに3人で遊ぼうぜ」


 こいつ……たまにわざとじゃないかって思う時があるんだけど……そこんとこどうなんだ……。まあ、和馬のことだから、すべてが天然なんだろうけど。


「お、俺は遠慮しとくよ。やることもあるし」

「そっか。じゃあ、2人で行くか」


 その言葉に、朝井は嬉しそうにしながらも、まったく逆の言葉を小さく呟いていたりしていた。


「おにいちゃーーーーーーんっ!」


 と、その時、後ろからそんな声が聞こえ「だぼぉおぅっ!?」背中に強烈な衝撃を受けて前に吹っ飛んだ。

 何事かと、痛む身体を起こしてみると、さっきまで俺が居た所には、セーラー服を着たポニーテールの少女が和馬の腕に抱き着いていた。

 瀬野せのあかり――それが彼女の名前だ。そしてまあ、名字で気づいただろけど、和馬の妹である。自他ともに認めるブラコンだ。ちなみに、俺の妹の小向の親友(らしい)。

 とりあえず、和馬妹が俺にドロップキックでもしたんだろうな。吹っ飛ぶ瞬間、少し鳥肌が立った(きがした)し。


「ゆ、悠斗、大丈夫か?」

「あぁ……もういつものことだからな……」


 正直言って背骨が砕けると思ったけどな。慣れって怖い。


「お前みたいなゴミクズがお兄ちゃんの周りに居るからそんな目に遭うんですっ!!」


 とても元凶が言うセリフとは思えない。そしてゴミクズってひどいよね?

 前に『まだ言葉にして罵ってくれた方がいいのに』とは言ったけど、言われたら言われたで傷つくよ。

 ちなみに、どうしてこの子にまで嫌われているのかは、俺はまったく心当たりがない。


「こら灯。悠斗にそんなこと言うなよ」


 和馬よ……言動の前に行動についてなにか一言あるべきじゃないか?

 気に入らないからって、即蹴りは女の子としてどうなのよ?


「だって、あれがあたしを視姦してくるんだもん」

「「それはない」」


 俺と和馬の言葉が奇跡的に重なった。からだろうか……和馬妹と朝井にすげー睨まれた。俺がいったいなにしたと?

 和馬が俺を庇ってくれるのは、理由を知っているからだ。


「灯、兄さんに乱暴しないで」

「ぁぅ……ごめんなさい、小向」


 いつの間にか居た小向。そしてその小向に頭を下げる和馬妹。

 ……なんかもう、ツッコむ気も失せるわ。

 しかし、小向は俺のことを嫌っていないのに、どうして俺のことを嫌いな和馬妹と仲が良いんだろうか。今世紀最大の謎かもしれない。言いすぎか。


「それじゃあお兄ちゃん、帰ろ~? 莉奈さんと小向も~」


 俺以外の名前を挙げて、和馬を引っ張って歩き出した。和馬も抵抗する素振りはなく、朝井も並んで歩き出した。


「兄さん、ちゃんと後で湿布貼っておきなよ?」


 と、小向だけ俺に声をかけて先に歩いていった。




 なんかもう……小向の優しさに涙が流れそうになった。

 ここで一緒に行ってくれればもっとよかったんだけどな!

 とりあえず、悠斗がどうして女性を避けるのかは次回あたりにでも書こうかと思います。

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