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第1話 ……どこからツッコめばいい?

 巻き込まれると書きはしたものの……普段書いた事のない内容だからどう書けばいいのかがわからないです……。

目を覚ます。

 それと同時に、どこからかピピピッ、ピピピッ、と音が鳴り始めた。

 俺は起き上がって、机に近づいて音源を手に取った。画面を操作して、アラームを解除する。

 時刻は7時半。相変わらずいつも通りの時間に起きたなと、なぜか自分で呆れてしまう。幼馴染のあいつは、今ごろ起こされている頃だろうな。

 そんな事を思いながら、素早く制服に着替え、顔を洗うとリビングに向かう。

 リビングには髪の長い女の子が1人、テレビを見ながら朝食をとっていた。


「おはよう、小向こなた。母さんは?」

「おはよう兄さん。お母さんなら、もう仕事行ったよ」


 まだ眠そうな目をこすりながら言った。

 この子は俺の妹で、その名を小向と言い、今日で中学2年生になる。少し感情に乏しい印象を受けてしまうけど、それは俺が原因だから、罪悪感を覚えてしまう。

 まあ、物静かだけどいい子なんだ。可愛い自慢の妹だ。あいつのハーレム要員にもならないでいてくれるし。学校でも、優等生らしいから、兄としても鼻が高い。


「穂波お姉ちゃんも、もう仕事行った」

「まあ、時間が時間だしな」


 と、小向の言葉を聞きながら、自分の朝食の用意に取り掛かる。と言っても、パンを焼くだけなんだけどな。

 うちは、父さんに母さん、姉さんに俺に妹の5人家族である。まあ、いたって普通の家庭だ。家だって普通の一軒家。ローンだってまだまだあるよ、きっと。

 で、父さんは仕事が忙しく、家に居る事は滅多にない。母さんも、パートとかで忙しい日は多い。まあ、そんなことにはもう慣れたんだけどな、俺は。

 中学生である小向は、少し寂しいようだけど。


「兄さん、時間大丈夫なの?」

「ん、まあ……大丈夫」


 答えたところでパンが焼き上がり、俺はパンを口にくわえると、鞄を持ち上げた。


「それじゃ、俺は行くから。戸締りはきちんとな」

「うん。行ってらっしゃい」


 妹に見送られ、俺はパンをくわえながら家を出た。

 どうしてこんなやって家を出るかって?

 早く出ないと巻き込まれるからだよ。幼馴染どもハーレムにな。




 パンを歩きながら咀嚼する事20分。俺の通う『私立平嵜ひらさき学園』に着いた。

 もちろん、登校中にはなにもなかったよ。パンくわえながら走ってたら、角で美少女と激突、そのまま恋に発展――なんてのは、都市伝説だし、なによりも脇役で有名な俺に起こるはずなんかない。そんな事が起こりうるのは主人公かイケメンに限定されるはずだ。

 というか、角で女性とぶつかるとか、俺としては(いろんな意味で)命にかかわるから、そんな事は望むわけもないんだが。

 で、なにも朝からあいつらにエンカウントしたくないから、という理由だけでこんなに早く家を出たわけじゃない。ちゃんとそこには理由があるのだよ。

 今日――4月7日は、平嵜学園の入学式がある。ちなみに始業式は、先週の4日だ。

 始業式の準備は在学生がやるものだと思っていたけど、それは少し違くて、主だった作業は生徒会が主体になって行う事になっている。一般生徒がやる作業なんていったら、せいぜい掃除ぐらいだろう。

 ちなみに、俺は生徒会に入っているわけじゃない。なら、どうしてこんな時間に来たのかというと――単純に、そうただ単純に手伝いに来ただけなのだ。

 要するにボランティアってやつだ。

 昔から、そういう裏手の仕事とか、雑用が好きなんだ。俺は。

 変とか言うなっ!



 自分のクラスに荷物を置くと、俺は入学式の会場である、講堂に向かった。

 講堂には、すでに多くの生徒会の人が集まっている。俺はその中で、副会長を探した。

 なぜ会長を探さないかというと、会長が女子生徒だからである。なんで女子生徒だとダメかというと……まあ、それはまたの機会に話すとしよう。


「副会長、おはようございます」


 視線をめぐらせていると、副会長はすぐに見つかった。近づいて声をかける。


「ああ、佐々木君か。来てくれて助かるよ。生徒会はいつも人手不足だからな……」

「すいません、入る気はないですね」


 俺を歓迎してくれる副会長。

 名前は久賀くが誠司せいじといって、3年生の先輩だ。黒縁メガネが特徴の……一目で副会長とわかってしまうような、そんな雰囲気を出している。

 去年から、なにかと生徒会の手伝いをしていたから、先輩の僕の印象も悪いものじゃない。他の生徒会の生徒は知らないけど。

 人手不足というのは、この学園のほとんどの行事を、生徒会が取り仕切っているからだ。テンプレよろしく、学園の校風は自由。だから、行事を生徒主体――つまりその生徒を取り締まる生徒会が仕切るのは当然だろう。

 まあ、取り締まるとかいっても、別にお堅い人が居るわけでもなく、生徒会の信用自体は悪くはないから、反発も少ない。


「あら、佐々木君ね。いつも手伝ってくれてありがとう」


 と、話しかけてきたのは生徒会長の小路原こじはら麗華れいか先輩。

 綺麗な髪をまっすぐ背中まで伸ばし、一挙手一投足までもが美麗であるこの美人な先輩も、いわずもがな我が幼馴染のハーレム要員の1人である。

 うん、こんなに綺麗な人に好かれるとか、リア充マジ爆発しろよ。別に羨ましいとか思わないけどさぁ!

 とりあえず、少し距離を保ちつつ、俺は先輩に挨拶をしておく。

 下手な事で印象悪くするのも、どうかと思うからな。


「おはようございます。えっと、あいつならまだ来ませんよ。今頃は家で朝食食ってるだろうから」

「そ、そうよね……朝も早いし……」


 早いとはいえ、もう8時だ。

 登校している生徒もちらほら居るだろうに。

 俺とは話すことはもうないらしく、会長はあいつの名前を呟きながら、俺から離れていった。相変わらず、俺の扱いは雑だ。


「あの、さ、佐々木くん。おはようございます」


 と、次に話しかけてきたのは、今年も同じクラスとなった生徒会役員の大多喜おおたき優香ゆかだ。

 彼女を一言で表すならば、大和撫子だろうか。ポニーテールが印象的な大多喜は、基本的に誰にでも優しく、誰にでも敬語を使う。一見、守ってあげたくなるような美少女だけど、芯はしっかりしていて、言いたい事はズバリと(しかもそれは正論)言ってくる。

 一度、怒った大多喜を見た事あるけど、あれはトラウマものかもしれないな。

 あ、もちろんこの子も、あいつのハーレム要員の1人だよ。

 ちなみに、彼女は街の神社の巫女さんである。

 もう一度言う。

 巫女さんだ。

 いや、俺が巫女萌えなわけじゃない。普通は居ないだろ、巫女さんなんか幼馴染に一度誘われて(仕方なく)付いていったけど、舞なんてものも初めて見たぐらいだし。……そしてその後の出来事は思い出したくもない。

 とまあ、そんな大多喜が話しかけてくる理由も、会長と同じだろう。


「おはよう。あいつならまだ来てないよ」

「そ、そうなんですか?」


 例によって、少し間を空けつつ間髪入れずにそう言うと、大多喜は首を傾げた。

 なぜかは知らないけど、話が伝わっていないのかもしれない。まあ、それはそれで別にいいんだけど。

 大多喜がなにかを言おうとすると、会長から招集がかけられて、俺たちはとうとう、入学式の準備に取り掛かることになった。

 最後になにを言おうとしたんだろうな、大多喜は?

 初めの内に感じていた疑問は、作業終了時にはサッパリと消えていた。




 生徒会と俺が入学式の準備をしている間、他の生徒はなにをやっているのかというと、普段通りの授業を行っている。

 入学式は午後からで、在校生は午前放課だからである。準備に携わった人は、授業なんてほぼ受けないも同然なんだから、いっそのこと在校生は休みにしてほしい。

 それなら俺は今、休み時間に自教室の扉の前で立ち尽くす事はなかったのに……。

 入ったら、きっと居るんだろうな。当たり前だけどさ。

 諦め、溜息をつくと、俺は扉を開けて自分の席に向かおうとした。

 主人公なら、自分の席は窓際一番後ろとか、そんな感じだろうけど、俺みたいな脇役に与えられる席は、教室のど真ん中という、逃げ場0の最悪な場所である。

 そして――、


「あ、悠斗。どこ行ってたんだよ」


 どうしてお前が俺の席に座っている。

 うなだれそうになるのを必死にこらえ、その男子生徒を軽く睨む。

 長らく待たせたが、俺の席に座っている男子生徒――瀬野せの和馬かずまこそが、テンプレ主人公を絵に描いたような俺の幼馴染である。

 しかもご丁寧に、周りには女子が2人も居る。

 和馬が俺に気づき、話しかけてきた瞬間に殺意のこもった視線を向けてきたツインテールの少女が、俺と和馬の幼馴染である朝井あさい莉奈りな。昔から和馬のことを好いていて、でも素直になれないといった典型的ツンデレだ。

 ああ、ちなみに、あいつは俺のことをほとんど意識していない。無視するか、今みたく睨むぐらい。俺に向けられる言葉も、ほとんどが「死ね」である。それぐらい、あいつは俺のことを嫌っているんだ。理由はしらないけど。聞く気にもならん。

 もう1人は、長い髪にウェーブがかかった少女。クラスメイトの早乙女さおとめ琴海ことみだ。彼女はまあ……説明するなら『お嬢様』だろうか。どうしてこんな普通な私立校にそんな人が居るのかというと、中学時代に和馬が彼女を助け――なにをしたのかは知らない――て、その時に惚れられたかららしい。要するに、追いかけてきたんだ。一学生である和馬を。

 ちなみに、早乙女さんも俺のことを朝井ほどではないけど嫌っているようだ。俺がいったいなにをしたというんだろうか。誰か、教えてください。

 でだ……しょうじき、自分の席あそこに行きたくないんですけど……、


「突っ立ってないで、こっち来いって」


 はい、ダメですね。逃げ場なしっす。

 ここで無視したら、あとでいろいろと面倒になりかねない。

 しかしだ。

 しかしながらだ。

 あそこに行ったら、俺は高確率で持病が発生してしまうわけで……俺としては、できればそれは避けたいのだ。こんな教室の真ん中で、あれがバレるのは嫌すぎる。バレたらきっと、これからの学園生活で白い目を向けられるのは明らかだし。

 来いと手招く幼馴染。

 来るなと殺気立てる美少女が2人。

 ここで俺は――男の友情をとることにした。渋々な。


「先週言っただろ? 入学式の準備手伝うって」

「そうだっけか?」


 和馬の言葉を聞いて、忘れてたのかよと、小さく溜息をつく。

 1メートルほどは距離を置いているから、聞かれることはないだろう。

 なんでこんなに離れているかって? 詳しくはまたの機会に話すとするよ。少し長くなるから、たぶん。


「和馬さん、佐々木さんが登校していることもわかりましたし、あちらに行きましょう?」

「え? あ、オレはまだ悠斗と話を……」

「行くわよ和馬」


 早乙女さんが、座ったままの和馬の左腕に抱き着くように掴み、立ち上がらせた。

 反対側に居た朝井が、それに対抗するように右腕に抱き着く。

 当然のごとく、2人の視線が火花を散らした。


「莉奈さん、なにをしていらっしゃるのかしら?」

「あんたこそ、なに和馬の腕に抱き着いてんのよ?」

「ちょっ、2人とも、腕! 痛いんですけど!? 悠斗、見てないで助けっ――!」


 悲鳴をあげながら、美少女2人に引きずられていった。

 とりあえず合掌はしといてやる。あとは知らん。

 空いた席に座ると、どこからか視線を感じた。なんとなく後ろの扉の方を向くと――サッ。扉から生えていたなにかが引っ込んだ。けど、髪みたいのが見えてるですが。ついでに、大多喜が視線を逸らしていた。


「莉奈、琴海さん、ちょっと……マジで腕痛いから!」

「離れなさいよ~!」

「こっちのセリフですわ!」


 反対側からは、和馬の悲痛な叫び(?)が聞こえてくる。

 それにしても、こんな騒がしいことになっているにもかかわらず、他のクラスメイトは普通にしているんだよな……ある意味ですごいよ、君らは。

 とりあえず……どこからツッコめばいい?

 本日何度目になるかわからない溜息をついて、横から視線を感じ、反対側からは悲鳴を聞きながら、俺は頭を抱えるのだった。

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