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婚約者に「リリアを見習え!」とほかの女の名前を出されたので、素直に見習うことにしました

【番外編】婚約者に「リリアを見習え!」とほかの女の名前を出されたので、素直に見習うことにしました…のその後

掲載日:2026/09/03

本編のその後のリリアのお話です。

まだ本編をお読みでない方は

https://ncode.syosetu.com/n3852mr/

より読み始めて下さればと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 ヒューバートの家に遊びに行ったのは、本当にただの気まぐれだった。

 確かにマリアベルという婚約者がいるのに…とは思ったが、そういうものなのかと軽く流してしまった。

 この判断が大変にまずいものだったのだと、リリアは翌日から実感する事となった。


 翌日学院に登校してすぐ、変化は現れていた。

 前日まで普通に挨拶を返してくれていた人たちが、みな目を合わせずそそくさとその場を立ち去る。

 一緒にお茶をしていた殿方たちも態度が一変した。


「ご…ごめんなリリア!昨日の件を知った父上が、君との交流をよく思わなくてさ!リリアは可愛いけど所詮男爵令嬢だろ?やっぱ同じくらいの身分のやつと仲良くしたほうがいいって!な?」

「…俺の実家も同じような判断だ…。リリアとの時間は楽しかったが…仕方ないだろう。高位貴族が男爵令嬢とどうにかなるなんて実際あり得ないからな」

「でもホント残念だよねー、もう少しリリアと遊びたかったのに!ヒューバートも立ち回りが下手すぎるよね!あ!もしさ、今後婚約とかで困るようだったら声かけてよ!しばらくは話すのまずいけど、卒業する頃くらいならほとぼりも冷めてるだろうし。結婚は無理でも…愛人くらいにはできると思うから。僕たちキスもまだだったしね!」


 上から侯爵令息のジーク、騎士団長嫡男のハルバード、宰相閣下嫡男のダルタニアンの言葉である。

 言いたいことだけ言って自分のもとを去る彼らの背中を見つめながら、リリアは気が付けば涙を流していた。


 男爵に引き取られるまで、リリアはずっと貧しい生活をしていた。

 母一人子一人の生活でただでさえ貧しかったのに、母が病にかかり薬代を稼ぐためにリリアはずっと働きづめだった。

 同年代の子たちが恋愛を楽しんでいる姿を見ていつも羨ましかったし、もし自分を好きになってくれる人が現れて、母と自分を救ってくれたらなんてよく妄想した。


 そんなリリアのもとに現れたのは、自分を妊娠した母を捨てた男爵だった。

 前妻が亡くなったので…というなんともな理由であったが、母とリリアを男爵家に受け入れてくれたので、リリアは満足する事にしたのだ。


 父と母に昔どんなことがあったのか、母は父をどう思っているのかなどは気になったが、リリアはあえて何も気にしない事にした。

 気にして、調べて、知ってしまったら。

 父だけでなく母も嫌いになってしまうかもしれない。

 そんな二人の血が流れる自分も…。

 考えたらいけないのだ。

 考えない考えない考えない。


 学院で令息たちにちやほやされている時も、きっと無意識に考えないようにしていたのだ。

 ずっと恋愛をしてみたかった。

 平民の時には考えられないような高貴な殿方たちに好かれ、甘い言葉をかけられている。

 その事実だけを見て、マリアベルのような人たちの事を考えるのを放棄していたのだ。

今この時の楽しさを感じていたい。

 お姫様のような自分に浸っていたい。


――でもその結果が今である。



 

 周りから人が去り、独りぼっちでお昼を食べること数日、今日も変わらず一人で昼食をとりながら、リリアは自分がいかに無責任な行動をしていたのかと思い知っていた。

 というのも独りぼっちになってから、リリアは一人でいる寂しさは感じていたが、特定の誰かと一緒にいられない事が辛いといった気持ちは一切湧いてこなかったのである。


 思えばヒューバートに対してもリリアは不誠実だったのかもしれない。

 彼は少なくともほかの殿方とは違い、婚約を破棄してもいいという意志まで見せてくれていたのに…彼の言葉を聞いてもリリアには戸惑いしかなかったのだ。


――自分が悪かったのだ。

――見たくない、知りたくないと目をそらした父と母のような、どうしようもない事をしたのだ。

――だからこうして一人でいるのは、正当な罰なんだ。


 まるで味のしない昼食を、機械的に口に運ぶ。

 しかし、その日は意外な人たちに声をかけられたのである。


「昼食中にごめんなさいリリア様、少しお時間よろしくて?」


 顔を上げるとそこには、三人の令嬢が立っていた。

 

「あの…」


 まだ貴族の顔と名前がわからないリリアが戸惑ってただ見つめていると、事情を察しているのか向こうから名乗りをしてくれた。


「わたくし、バートン子爵令嬢のエレノアと申します。一通り貴族の名前を憶えてからでかまいませんが、こうして声をかけられたとしても身分の低いものから名乗りをするのがマナーですよ」

「-っ!申し訳ございません!私リリアと申します!無作法でごめんなさい!」

「そういう時は家名も名乗るものです。…まあそれは追々学ばれてください。それよりも、私たちあなたに協力して欲しいことがございますの」

「協力…ですか?」

「ええ。わたくしと後ろの二人には共通点がございましてね?あなたに懸想していた令息どもの婚約者ですの」


 エレノアの言葉に、リリアは一瞬硬直したのち、どっと罪の意識が襲ってきた。

 泣くつもりなんてなかったのに、気が付けば涙があふれる。


 リリアは心を込めて、本気で謝罪した。


「―本当に…申し訳ございませんでした!私、本当にバカで、何も知ろうとしなくて、あなた方を傷つけて…罰ならいくらでも受けます!」


 言葉を重ねるのも違う気がして、リリアはそれだけ言うと深く頭を下げた。

 放っておいたらそのままずっと頭を下げ続けそうな様子に、エレノアは小さくため息をつくとリリアに顔を上げさせた。


「言葉での謝罪は結構です。あなた…別に彼らとは会って会話したとか、どこかに出かけたとかその程度なのでしょ?でしたら謝罪より協力いただける方がよっぽどありがたいですわ」

「えっと、私は何をしたらいいのですか?」

「私共のバカな婚約者様たちをね、追い詰めたいのです。そのためには証拠が必要でしょ?あなたなら何か知っていると思いましてね。何でもいいのです、あなたと会っていた時の彼らの事を教えてくださいな」


 そういって笑う三人の令嬢を見て、ああこれが貴族なんだなとリリアは思った。

 

 その後リリアの話した内容がどう役立ったかはわからないが、令息三人はそれぞれ様々な理由で婚約を破棄され、それが理由で爵位を継げなくなったり分家に養子に出されたり色々あったようだ。

 中にはリリアと行ったデートコースで不貞が見つかった令息もいるとの話も聞こえてきて、そもそも彼らはリリアとの事がなくても婚約を破棄されていたのかもしれない。


 時が経ち、卒業を間近に控えたリリアのもとに、エレノアが4枚の釣書を持ってきた。

 ヒューバートとの一件以来、結婚を諦めていたリリアにとっては青天の霹靂であったが、エレノアはそんな事も気にせず淡々としたものだった。


「リリア様のおかげでわたくしたちも不幸な結婚をせずに済みました。この釣書をどうするかはあなたにお任せしますが、どの殿方もいい方々だとわたくしが保証します。興味がありましたら卒業後にでもお会いになってみてください」

「――っ…でも…私なんかが…皆さんにご迷惑をかけたのに…」


 そう釣書に感謝しつつも答えるリリアに、エレノアはさらに続けた。


「その4枚の釣書、わたくしも含めみな婚約を破棄した者から一人ずつ用意させていただきました。マリアベル様もたくさん悩んで選んでくださいましたよ。みな貴女を許していますし、幸せにしております。あなたももう進んでもいいと思いますよ」


 その言葉に、リリアは全身の力が抜ける感覚がした。

 ずっと張り詰めていた何かが急激に溶けていくような気がする。


 もらった釣書を抱きしめながら、平民時代に夢見た恋人同士の時間というものを、今度こそ叶えたいとリリアは思ったのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや評価をいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
なんだかんだあったとはいえ、リリア嬢も「貴族令嬢」の一員になった以上、「恋人同士の時間」を夢見るよりも、「家族として家を共に支え合える相手との時間」を大切にしていくほうがいいかと。 リリア嬢が途中から…
ラストシーンでリリアの目から、とめどなくあふれ出てくるものの描写があってもいいかもしれないし、なくてもいいかもしれない。 たぶん、この流れから言えば、胸が詰まる可能性は非常に高く、喉もきゅっとしまり、…
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