一話:なんか知らんけど目が覚めたら指名手配班になってな件について
男が目を覚ますと、その視界には青空が映っていた。
「は?」
唖然としながら口を開けたのも束の間、急いで身を上げて辺りを見回すと、辺りには木々に覆われていた。
「いや、意味わからんやん⁉︎」
男は叫ぶ。
ただ、周りには誰もいないようで、その声に驚いた鳥の群れだけがバサっと飛び立っていった。
「ここ、どこやねん……」
男は慣れた手つきでズボンのポケットを弄るが、その行動とは裏腹に彼の服にはポケットがついていなかった。
「……」
違和感を感じたのか、男は自分の体を弄るようにくまなく確認するが、
「――なんやこの服⁉︎」
再び森中に響き渡るような大声を挙げた。
どうやら男が来ているのは都会でよく見る私服などではなく、いかにもそれっぽい見た目をした黒いローブで、このまま変に出歩いていたらすぐさま通報されてしまうような見た目をしていた。
「いや、イカれてるやろこの服のセンスは⁉︎ ていうか、いつ着替えたんや? そもそも昨日なにしてたっけ……」
男は考え込むように顎下に手を添える。
「えーっと、確か暇やったから夕方ぐらいに暇やから散歩に出て、それから……」
彼が状況を整理するようにして必死に思い出していると、突然近くの草木が揺れる音がした。
「ん?」
男は気になり、そちらの方に目を移すと。
「……」
そこから剣を携え、軽装な鎧をきた金髪の少女が現れた。
⚫︎⚫︎⚫︎
「……」
(え、なに、コスプレ? お天道様の下で昼間っから野外でコスプレ? やけに凝った衣装やけど羞恥心とかないんか?)
まじまじと、男は若干引き気味に彼女を見つめていると、
「貴様、一歩動かずに今すぐフードを取れ」
「はい?」
「二言はない。早くしろ」
少女は尋問するように男に詰め寄るので、男は仕方なく被っていたフードを取った。
「はー、ほんまいややわ。人を見た目だけで判断するとかありえへん。今時コンプラとか学ばんの? これやから知見のないガキは嫌いやねん」
「……ふっ、正気か?」
「なんやと?」
嘲笑うように少女は男を睨むので男はすぐさま問いただす。
「いいだろう。ほら、自分の姿を見てみるといい」
すると、少女はそう言って懐の剣を抜き、光る刀身を男の前に出してきた。
「――は?」
当然そこには男の姿が映っていた。
ただ、その姿は男が想像していたものとは完全に乖離していた。
屈強な顔面にはパンクロッカーをイメージするような金髪のモヒカンに、鋭い目つきの右目には剣で切られたであろう古傷。さらによく見てみると傷は一つだけではなく、口、額、頬と様々なところに跡が残っていた。
「貴様、記憶喪失にでもなったのか?」
「ちゃうちゃう! 俺は普通の、しがない関西人や!」
「かんさい? なにを訳のわからないことを」
剣を構え直しながら尋問するような少女を前に、男は黙り込む。
今ここで無駄口を叩けばどうなるか、彼には簡単に想像でしてしまっていたから。
「国際指名手配班、コードネーム"フォックスフェイス"。今ここに、貴様を王国直属騎士隊長、アネモネ・リーネが罰を下す。――覚悟!」
「……」
少女は構えた剣を男に向けると、ジリジリと間合いを詰める。
(わからん、意味わからんすぎる⁉︎ な、なんやねん国際指名手配犯って⁉︎ てか、王国とか騎士隊長とか、頭おかしいんちゃうか⁉︎」
顔には出さないものの、男が内心焦っているうちにも、リーネと名乗った少女は距離を詰めてきていて――
「はぁ‼︎」
「っ……!」
勢いよく、それでいてしなやかにその剣を振るってきた。
「は、本物? あっぶな!」
太陽が反射し、輝きを放つ剣が男を掠める。
間一髪、男は後ろに飛び退くようにして距離を空けるが、どうやらローブの一部が切られてしまっていたようで、黒い布切れが宙を舞った。
(マジもんの剣⁉︎ 普通に銃刀法違反やし、こいつの方が犯罪者やんけ!)
「貴様、それは……!」
「……?」
すると何故かリーネはすかさず男から距離を空け、警戒するようにして剣を構え直す。
(なんや? 今までめっちゃ威勢よかったのに、いきなりどうしたんや?)
「己外道……貴様に人情というものはないのか⁉︎」
「はぁ?」
リーネが罵倒するように大声を出すと、男の方は呆れたように声を上げた。
「惚けるな! 貴様のそのローブの下に隠しているもの、それは魔力爆弾だろう⁉︎ 自分を斬ればこの森……いや、周辺の村まで吹き飛ばそうだなんて、極悪と言わずしてなんというか!」
「……はい?」
(やっばー……ほんま、なにしてんの俺⁉︎ 意味わからんやん! 俺は指名手配班で? 聞いてる感じ極刑で、それでいて自爆テロしようとしてるんか⁉︎ アホやん! 究極のアホやん!)
目の前の少女に告げられた言葉により、男は身の毛も立つような寒さを感じたのか、
「はは……はははははは!」
「なにがおかしい⁉︎」
突如として笑い声を上げた。
「いや、そうやな、その通りや。これが極悪やなかったら世の中に神様なんてもんはいないもんな」
「貴様如きが神の名を出すな!」
「すまんすまん、許してえや。はぁ……それより困ったな、どないしよ」
男は肩をすくめた後、その言葉通りに困ったように立ち尽くす。
(ここで引いたらなんかやばい気がする。とはいえ、こいつの言ってることがほんまやったらそれもそれで終わりやし……)
「いまここでらあんたに斬られたら俺もあんたも、しかも関係ない人までいっぱい死んでしまう。とはいえ? 話聞いてる限り無作為に捕まったらそれはそれで俺が殺される。うーん、なんかええ折り合いとかないん?」
「貴様、なにを言って……」
リーネは憎悪を向けるような鋭い目つきで男を睨みつける。
(ほんまに困った。目え覚ましたら知らんとこで知らん顔になって、いきなり斬りかかられて、挙げ句の果てにはテロリスト認定されて。夢ならとっとと覚めてくれや)
男はぎゅっと手のひらを力強く握るが、そこには確かな痛みがあり、絶望を知らせるように現実ということ嫌でも知らしめてきた。
「あかん、か。はぁ……ほんまに困ったもんや」
「戯言は十分か? ふっ、なにを言ってるかはわからんが、もうすぐ救援が来る。魔術師部隊が到着すれば貴様のその魔法爆弾も無意味になる」
「はー、まじか」
圧のない声で男は言葉を漏らす。
男は理解していないが、魔術部隊が到着するということはつまり、一王国が全ての勢力を投入するということになるので、
「せいぜい余生を楽しむといい。最も、そんな時間を与えるつもりはないがな!」
ガッ、と地面を蹴り少女は再び男に剣を振りかぶる。
「いや、言ってることとやってることがちゃうやん! お前、近くの村ごと俺と心中するきか⁉︎」
「そんなわけ……ないだろう!」
何度も、何度もリーネは剣を振るうが、男は防戦一方ながらもあることに気づいた。
(こいつ、執拗に顔狙ってきとる! 爆弾爆発させずそのままおじゃんにしようって考えか! 野蛮にも程があるやろ⁉︎)
男がどうにかしてその攻撃を掻い潜っているものの、人間には限界があるもので、次第に息は荒くなり、とうとう木の淵に追い詰められてしまう。
「終わりだ。本当なら苦痛を伴って罪を償って欲しかったが、一思いに殺してやる」
「まてまて! えーと、あ! あんなとこに子供が!」
「――なに⁉︎」
「しめた!」
男はリーネが振り向いたのを見過ごさず、背中向けて一心不乱に走り抜ける。
「待て! っ……な⁉︎」
すぐさまリーネも後を追おうとしたものの、即興で仕掛けた自然のトラップに足を取られ、リーネは男の遠ざかる背を見ることしかできなかった。




