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それから  作者: あめふらし3号
本編
7/20

7.


 獣は俺が自分の名前を言うや否や、首筋から顔を離してその姿を人間のものへと変化させた。そして羽織っていたぼろぼろのマントのフードをばさりと取り去ると、そこには相変わらず焦げ茶色の髪をした金色の瞳を持つ見目麗しい少年の姿があった。しかしながら俺は自分の持つ記憶とのずれに、思わずその姿を凝視してしまった。けれども、そこにいたのは紛れもなく中学生ぐらいかと思われるような年頃の少年であった。


「……あれ? お前って前からそんなだったっけ?」


前世の記憶の中では何となくもっと大人であったような印象があったのだが、今目の前にいるのは目つきこそ悪いもののまだ幼さが残る、どこか可愛らしい少年である。途端につい先程までの所業も忘れ、押し倒された状態のまま「そっかそっか。そうなのか」と笑い混じりにその頭を撫でたのが気に障ったのか、獣は即座にぱしりとその手を叩き落とした。そして目の前で見る間に成長していき、ちょうど俺と同じ年頃の大学生ぐらいの青年になった。俺は驚きのあまり目を見開く以外に無かった。


前言撤回だ。

全くほんの少しも可愛くない。


正直直視出来ない。というかしたくない。吉川とはまた別の、えも言われぬ色気に似た何かを醸し出す美形である。思わず顔を背けたところで、俺はそれまで何故忘れていられたのか不思議なくらい、強烈な現実を思い出した。途端に鼻を突く悪臭に堪らず鼻と口とを手で塞ぐ。その一部始終をじっと見ていた獣はふと周囲に目をやると、ぽつりと一言「消えろ」と言った。その後、一体何をしているんだという目で見ていた俺の鼻と口とを塞いでいた手を無理やり引きはがした。


何をするんだと文句を言おうと開いた口は、けれども言葉を口にするよりも先に塞がれてしまった。呆然としている間にその手は乱暴に俺の着ていたシャツを胸の上までめくり、露わになった素肌に両手が這い回る。これは何なんだ。新手のイジメか。あまりに執拗な口付けに段々と息苦しくなってきた頃に漸く解放され、息を切らしながら思い切り空気を吸い込んだ時、はたと気がついた。悪臭が全くしない。


首を動かして周囲を見ると、驚くことに一つの死体も見当たらなかった。血などが飛び散っていた地面も何の後も残っていない。まるであの惨たらしい光景が幻であったかのように、今はもう何も無かった。当然のことながら俺は何もしていないし、そんな力も持っていない。だがそれは獣も同じはずであった。その身体能力は恐ろしく高いものの、魔術の類は一切使えなかったはずである。だが先程獣がぽつりと呟いた『消えろ』という発言。多分あの一言が引き金となって、この状況を生み出すことを可能としたに違いない。しかし残念ながら、俺が冷静に思考を働かせることが出来たのはここまでだった。




「え、ちょ、何してんのお前! わ、馬鹿馬鹿。脱がすな!」

「あぁ? お前が存在感薄すぎるから俺がわざわざ印付けてやってんだろ、この恩知らず。おら、下半身がまだだろうが。黙って転がってろ」


 俺が色々と考えている間に事は着々と進んでいたようで、俺の上半身は既にマーキング済みだった。泣きたい。そして俺が気づいた時というのはちょうど下半身に魔の手が伸びようとしている時で、必死に抵抗したものの、情けないことに獣の方が俺よりも力が強かったため、あっさりと脱がされてしまった。しかもひたすらに喚いていたら、「うるせぇ。これでも食ってろ」とこれまたあっさりと脱がされてしまった下着を口の中に詰め込まれそうになり、すぐさま口を噤んだ。


……何だろう、この鬼畜プレイ。


最早諦めの境地に近かった。だがこの獣の鬼畜っぷりはこんなものでは済まされず、口こそ噤んだもののどこまでも抵抗を続ける俺に対して、獣がふと顔を上げて言った。


「あんまり暴れるようなら真っ裸で手足鎖で繋いで一生監禁するからな。そんでもって毎日精液吸い取って、種が無くなるまで吸い取って、それから根元縛って出せないようにしてヤリまくって、十分溜まったらまた根こそぎ吸い取ってやる」


誰か助けて下さい。




***




 ぺろりと駄目押しでもうひと舐めするとやっと満足したようで、長い間いたぶられ続けた俺の体が漸く解放された。しかしながら、ここまでくると諦めを通り越して開き直りの境地である。身の倦怠感に引き摺られてか、怒る気力すら湧いてこない。見上げた先の空にはちょうど月が顔を覗かせていて、何だか無性に切なくなった。


俺は一体何をしているんだろう。


上体を起こして自分の体をちらと見れば、すぐさま獣によって付けられた印がいくつも目に入った。全体的かつ局所的に付けられたようで、場所によっては立派な痣と化している。とても数日では消えそうにない。俺は心の中で深い溜息を吐きつつ、体は機械的に脱がされた下着と服を身に付けた。


「お前にも利点があったとはな」


そんな俺の様子をすぐ横で座って見ていた獣が、自分の両掌をぺろぺろと舐めながら続けて言った。


「最高に美味かった」


そう言って挑発的な目を俺に向けながら、舌先で自分の掌に付いていた白い滴をぺろりと舐め取った。


この鬼畜野郎、もう嫌だ。

誰になんと言われようが、俺は今すぐ帰りたい。


俺が思わず立ち上がって距離を取ろうと後ずさると、すかさず獣が俺の足首を強く掴んだ。俺は思わずこけそうになったのを何とか持ち堪え、いきなり何をするんだと獣へ目を向ければ、獣は胡坐を組んだ状態で下から俺を見上げるような角度で、既に精神的に瀕死の俺に止めの一言を言った。


「また飲ませてくれよ? あるじ




―――――俺にとって二度目の旅はこうして始まった。






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