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それから  作者: あめふらし3号
番外編2 ―現代―
17/20

対策会議 その2

 

 うるさい彰には人数分の取り皿とコップと、それから冷蔵庫の中から適当な飲み物を持ってくるように言いつけた後、俺はすっかり温まったホットプレートの上に油をひき、おたまで円を描くように生地を入れた。続けて今度はその上に刻んだキャベツと豚肉をのせて、土手のように豚肉で囲んだ中央には生卵を割り入れた。なかなかいい感じだ。生卵が生地の上から落ちないことを確認した後、少し蒸すためにそのままホットプレートに蓋をした。


「おー! マジでナイスタイミングじゃね? お好み焼きなんて暫く食べてねぇから超楽しみなんだけど」

「あれ? 徹じゃん。秀一と一緒に来たのか?」


声のする方を見ると、そこには先程玄関に行った武の他に秀一と徹がいた。この二人の組合せは結構珍しい気がする。そもそもこの二人は普段自分の好きなように動き回っている者同士のため、かち合うといったこともない。


「いやー、俺もびっくりしたんだけどさ、バイト終わりにウラんち行こうと思って歩いてたら偶然コイツ見かけてさ」


コイツ、何してたと思う? と徹が訊いてくるので、またどうせ何かスポーツでもやってたんだろと答えると徹が笑った。


「正解正解! まぁ秀一が何してるかなんて決まりきったことだけどさー、……実際目にするとなんか、ね。あ、ウラ。そろそろ引っ繰り返した方がよさげ」

「げ! やべっ」


呆れたような表情をして語尾を濁す徹に気を取られすっかりお好み焼きのことを忘れていた俺は、徹の最後の言葉にすぐさま蓋を取って大慌てでお好み焼きを引っ繰り返した。どうにかタイミングに間に合ったらしく、うまく引っ繰り返すことができた。……危なかった。タイミングを逃すと、もれなくぐっしゃぐしゃなお好み焼きっぽいものを食べるはめになる。




「……やべ、マジで腹が減りすぎて腹と背中がくっつきそう。なぁウラ、まだー?」

「もうちょいで出来るから黙ってろ。んで秀一、お前は結局何してたんだ?」


 俺が頼んだ仕事を終えてまた右隣で騒ぎだした彰を一蹴しつつ、いそいそと左隣に座った秀一に向かって俺が尋ねると、秀一は事も無げに「あぁ、バスケをちょっとな」と答えた。お前、俺らと10時に約束しただろうが、なんてことは最早言うだけ無駄なので言わない。


「バスケ?」

「そうそう。公園で中学生くらいの子4人相手に派手にやってたよ。……それにしてもさー、秀一ってマジで手加減って言葉知らねぇよな」


正面にいる武の隣に座った徹の話に耳を傾けつつ、いい具合に焼き上がった様子のお好み焼きをとりあえず大きな皿に移して、そこでさらに鰹節と青のりと、それからソースとマヨネーズをかけた。我ながらなかなかうまそうに仕上がった、なんて感慨にふける暇もなくコテで食べやすい大きさに切り分ける。そんでもってすばやく右隣と左隣のやつの皿に装って渡す。こういう時の優先順位は基本面倒なやつから、である。


「あー、なるほどね。なんとなく分かった気がする。……でもま、そこが良いとこでもあるんじゃないか? その中学生たちも世の中にはこんな化け物がいるっていうのがよく分かっただろ」

「そりゃ、仮にも4対1で挑んでるっていうのに全く止めらんなくて、そのまま容赦なくガンガンにシュート決められてちゃ、嫌でも感じただろうねー。お、サンキュ。ほい、これ武の分」


そう言ってしみじみと自分が見た光景を語る徹の表情を見て、俺は徹と武の分のお好み焼きを装った皿を手渡しつつ、なんだかその中学生たちがとてつもなく不憫に思えてきた。……あ、このお好み焼きマジでうまいじゃん。


「……やっぱちょっとかわいそうか。思えば俺と武も前期の体育の授業ではえらい目にあわされたもんな。マジ手加減とか一切なし」

「確かに。毎回体育が終わった後の疲労が半端なくて、その日にバイト入れてなくてつくづくよかったと思ったな」


一応自分では得意であるという自負があるテニスでもって、2対1で戦っているにもかかわらず負けることがなんだかとても悔しくて、あの秀一ばけもの相手についついむきになってプレーしたのが運の尽きだった。こちらが勢いづけば、むこうもさらに勢いづいてくる。まさに悪循環。


毎回授業が終わった後は、ボロボロのヨレヨレになって帰宅した。こんなことは中1の部活に入部したての頃以来のことで、この時ほど大学から自宅が近かったことを感謝したことはない。


「前期の体育は楽しかった。だからその分、後期はかなり物足りなくてな。もう体育は取らないのか?」


それまでずっとお好み焼きに夢中でひたすら黙って食べていた秀一が、ふとそんなことを言った。物足りないって、コイツ後期の体育は確かサッカーを取ったんだっけか。……かわいそうに。もしそこにサッカー部のやつなんかが混じってたら、もう悲惨としか言いようがない。


「取らねーよ、もう。2年になったら実験が週3に増えるらしいし、んな体力残ってねーよ。……分かったから、空になった皿を無言で俺に差し出すのはやめろ。今からちゃっちゃともう1枚お好み焼き作るから、出来上がるまでは台所にある徹が持って来てくれたパンでも食べとけ。でも塩フランクは俺も食べたいから1つ残しといてくれよ。……っておい、彰もさり気なく真似してんな!」


左隣から差し出された皿を戻させたと思ったら、今度は右隣からも皿が差し出され、俺は迷わず右隣のやつの頭を叩いた。






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