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第7話 A級騎士??

 ジャスパの店の外観はボロボロだった。だが中は整理され、きれいに掃除されていた。机や棚に置かれた商品も磨き上げられ、輝いていた。

アオイは二人が『盾の装飾の必要性』について熱い激論をしている間に、店内の武器を一通り物色したようだった。


「これとこれ。私とヒスイの分を買って行くよ。代金は近衛団に請求してね」


 アオイは胸甲をお揃いで選んでいた。ミスリルの丸い板を何重にも重ね左胸が覆われるようになっており、リラのライラックが意匠としてあしらわれていた。


「さすがアオイさん。良い品を選ぶ。これは俺が打ち出したミスリルに光の刻印を施したものだ。ドラゴンの一撃でも壊れない!しかも軽い」


アオイはヒスイをちらっと見てから、ジャスパに注文した。


「私が青、ヒスイが緑…ね。明日までによろしく」


その色がアオイとヒスイに因んでいることに、ヒスイは気が付いた。アオイが自分のことを考えてくれたことが嬉しかった。


「アオイさん、魔剣はどうだ?」

「私にはこれがあるからね」


アオイはそう言うと腰の刀へ愛おし気に触れた。そのしぐさからジャスパもアオイの刀へ気が付いた。


「ああ。師匠の傑作だ…」

「アオイさんの剣ってジンライ様の作品なのですか!!」


 ヒスイが目を真ん丸にしてアオイの刀を凝視するのに耐えかねてアオイは立ち上がった。そして静かにゆっくりと刀を抜いた。


「魔刀、六芒丸。ジンライの傑作だ。この刀には思いが宿っている」

 

アオイが左手に持つ刀身は淡く、虹色に発光していた。ヒスイは感動した。虹色の光の中で刀を構えたアオイはまるで女神のように思えたから。

 ヒスイにはわかった。この刀には何種類もの魔素が絡み合っていることが。六芒丸は人が作り出した刀とは思えなかった。


アオイが刀を鞘へ納めると光は静かに消えた。


ヒスイは何も言えずに呆然としていた。そんなヒスイに笑いかけてから、アオイは元気よく刀をジャスパへ突き出した。


「ジャスパ!明日まで預けるからメンテナンスをお願いね」

「ああ。任せな。これは俺にしかできない仕事だ」


 ジャスパはアオイから六芒丸を受け取り、懐かしそうにその鞘を撫ぜた。そして、店の奥へ愛おしそうに運ぶと、何本かの魔剣を抱えて戻ってきた。


「ところでヒスイさん。魔剣はいらんか?師匠のほどじゃないが…、『矢切丸』と同じ魔法を施した刀もあるぞ」


『矢切丸』という言葉へヒスイは興味を示した。六芒丸から受けた衝撃から立ち直ったらしい。動き出した。


「え、『矢切丸』ってジンライ様が命をかけて作り上げたという…??」

「ああ、あのころの師匠は全盛期だ。どんな魔法でも『俺の魔剣でぶった斬れる』なんてな。天狗になっていた…。そんなある日、ふらっとやって来たアオイ、…ゴフッ…ゲぇ」


急に腹を抑えて黙り込んだジャスパへヒスイは続きを促す。


「で?で?どうしたんですか??」


「……た、旅人、工房にやってきた旅人と喧嘩になって。その旅人が光矢でジンライ師匠の刀を何振りもぶっ壊したんだ」


アオイは遠くを見るような目をして、ニヤッと笑ったようだった。


「師匠はそれから、来る日も来る日も炎の前で槌を振るい続けた…そして矢切丸は完成した…。あれは師匠が命をかけて打ち上げた魔刀だよ。あの刀は旅人が放った特大の光矢を真二つにしたんだ。なあ、アオイさん?」


なぜか少し慌てたアオイは、ぶっきら棒に返事をした。


「し、知らないよ。そんな刀…」


ジャスパもそれ以上は言わなかった。でもどこかうれしそうな顔をしていた。


「ところでヒスイさん、魔剣はどうだ?これが矢切丸と同じ刻印の剣だ」

 

 ヒスイは目をキラキラさせてジャスパが抱えている魔剣を見つめた。


「へぇ。ジャスパが腕もみないで魔剣を売るなんて珍しいね」


ジャスパはアオイの顔を不思議そうにみると肩をすくめた。


「アオイさんの相棒なんだろう。なぜ、腕を疑う必要がある?」


アオイはその場で大きく背伸びをしてから、ヒスイとジャスパを交互に見て言った。


「ありがとう、ジャスパ。でもヒスイに、ここの魔剣はいらないよ」


 予想外の返答にヒスイとジャスパは顔を見合わせて、お互いに悲しそうな表情を浮かべた。

 




 なごり惜しそうなジャスパに見送られて二人は店を後にした。その後、ヒスイはアオイおすすめの服屋で、機能的でおしゃれな服を選んでもらい、購入した。


本当はうれしいはずなのにヒスイのこころはあまり晴れやかではなかった。どうしてもジャスパの魔剣が脳裏にちらつく…。


「明日、王城には買った服をきていこうよ。あれ?元気ないね…」

「すみません。とても良いものをいただいたのはわかっているのですが、魔剣…」


ヒスイのがっかり顔がおかしくてアオイは笑ってしまった。


「うん、ヒスイは魔剣が大好きだっていうのは良くわかったよ。でもね、ヒスイには相応しい装備があるんだ」


思いがけない言葉にヒスイは思わずアオイの手を取って握ってしまう。その行動にもアオイはヒスイの素直さが表れているようでおかしかった。


「えっ、それはどういうことでしょう?」

「それはまだ秘密!さあ、今日は気まぐれ屋で飲み会だ!」


二人は仲良く家へ帰ると戦利品を片付け、夜の街へと繰り出した。初めての二人での夜のお出かけは楽しかったようで………。





窓から明るい日差しが差している。小鳥が美しい声でさえずっている。気温も心地よくさわやかな朝のはずなのだが…。


「頭痛い…」


 気がつくとヒスイはアオイのベッドで寝ていた。お酒は弱い方じゃない。でも昨日の酒は効いた。隣でアオイがおへそをまるだしにして、熟睡している…。


(アオイさん、どのくらい飲んだんだろう…。お店のお酒、まだあるかな…)


 余計な心配をした所でヒスイは大事なことを思い出した。あわててアオイの肩を揺さぶった。


「アオイさん、起きて!王城に行かなきゃ!」

「王城?今度にしようよ。頭痛いし、気持ち悪い…」

「そうはいきません。お願いアオイさん、起きて!!」


 ヒスイに渋々起こされたアオイは、おもむろに左手を突き出すとヒーリングをかけた。その効果は抜群でヒスイは驚いた。


(本当にすごい!二日酔いが治っちゃった…。)


 アオイも自分にヒーリングをかけたのか、先ほどとは打って変わってすっきりした顔をしている。


「ほらほら、着替えてすぐに出発しよう!なんたって遅刻しそうだからね!」


二人は朝食もそこそこに、家を出た。今日は門兵もすんなりと二人を通した。おっちゃんは、アオイを見て怯えていた様だったが二人は気にしない。アオイは手をひらひらと振って挨拶していた。

正門を抜けると若い近衛騎士が二人を待っていた。


「ご案内を仰せつかっております。こちらへどうぞ」


 とても丁寧な物腰で対応された。ヒスイは若い騎士の後ろ姿を負いながらも、昨日はまったく気づかなかった王城の廊下の石壁と高い天井の堅牢さに感動していた。


「こちらでお待ちください」


若い騎士に案内されたのは国王との謁見の間に通じる控えの間だった。

その事実をアオイから聞かされたヒスイは完全に怖気づいていた。しばらくして何かの合図があったのだろう。若い騎士は扉の前に立つと、


「アオイ・コイアイ様、ヒスイ・モエギB級騎士をお連れしました」


 大きな声で叫んだ。すると扉が内側からゆっくりと開いた。ヒスイはその中の様子に再び驚愕した。

千人は入れそうな広い部屋だった。そこに上級騎士が両側に列を作って立ち並び、敬礼している。その奥には絢爛な装いの文官が揃っていた。奥には王座があり、ベルク国王が座っている。その両隣にはツクミ近衛団長とサジタリアス宰相が立ち並んでいた。


「ヒスイB級騎士、こちらへ。———ヒスイ・モエギ」

「ヒスイ、ほら」


 ヒスイはアオイに合図されて、やっと自分のことだと気が付いた。そしておそるおそる、ベルクの前に進み出た。

ヒスイが目の前で膝まずくのを待ってから、ベルクは朗々たる声で叙任を宣言した。


「ヒスイ・モエギをA級騎士へ任じる」


続けてベルクは発令した。


「使者として魔国への渡航を命じる。諸侯には目的の達成のために、最優先で協力することを義務付ける」


(A級?魔国への使者?何?何何??)


「ヒスイ、前へ」


 ヒスイがカクカクしながらベルクの前へ進み出ると、ツクミが一振りの刀をベルクへ渡した。


「矢切丸を下賜する」


 ベルクは矢切丸を鞘から抜き、刀身を確かめると再び鞘に納め、ヒスイへと手渡した。


「はい、ありがとうございます」


 ヒスイはベルクから矢切丸を受け取り、捧げ持った。もう、どうしてよいのかわからなかった。アオイに助けてほしかったが、当のアオイはすました顔で見ている。助けて、と口で言って見せたが、目で怒られてしまった。


「魔国への使者の件、仔細はツクミ近衛騎士団長から指示を受けよ」


 そう言うとベルクは颯爽と踵を返し、謁見の間を後にした。


「これにて解散とする」


 サジタリアス宰相の言葉で居並んだ文官、騎士達が場を後にした。

誰かに質問する暇すらなかったことに、その時になって気づいた。ヒスイは泣きたいのをぐっとこらえながら矢切丸を抱きしめていた。そんなヒスイにツクミが声をかけた。


「ヒスイはこっちへ」


 案内された部屋は普通の会議室のようでヒスイはやっと一息ついた。それから事の重大さに足ががくがくと震えていた。


「ど、どうしよう…」


矢切丸を抱えてヒスイは逃げたいのをグッとこらえていた。でもなぜか、アオイの背中を見ていると、この役目をアオイひとりに背負わせてはいけないと思ってしまうのだ。



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