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第4話 不安

 ヒスイはアオイの心遣いに感謝していた。病院で一人は心細い。見たくない悪夢も見てしまう。それにヒーリングを受けた時からヒスイはアオイに対して好感を持っていたのだ。


(アオイさんがいてくれて良かった。不安感が少し薄れたな)


 ぼんやりとそんなことを考えながらヒスイはアオイの後についていく。通りの脇に立ち並ぶ建物の窓からは薄くランプの光が漏れ、影絵のようだった。


「もう暗いからあまり賑わってないけど…。昼間はね、すごいんだよ。ここら辺なんて屋台でいっぱいでさ!

 そうだ、今度ゆっくり王都を案内してあげる。と言っても私もあまり詳しくないんだけど。今日は"気まぐれ屋"でご飯を買おう」


 アオイはそういうと暗がりにポツンとある一軒のお店に立ち寄った。ヒスイが中をそっと伺うととても繁盛しており、とても良い香りがしていた。ずっと病人食だったヒスイには刺激的な香りだった。


「良い香りだ。今日はカジキの香草焼きだね。うん、とても美味しそうだ」

「アオイちゃん、美味しそうじゃなくて美味しいんだよ!」


奥から気の良さそうな小太りのおじさんが声をかけてきた。


「おっちゃん、カジキとモツ煮、パンも二つ、買っていくよ!」


アオイは振り返るとヒスイに自慢げに言った。


「おっちゃんの料理は最高なんだよ!私が食べたいものは作ってくれないけどね」

「だから“気まぐれ屋”なんだよ。お嬢ちゃんは見ない顔だな」


店主は器用に陶器の皿へ料理をよそってアオイへ持たせた。ほいっとパンも渡す。


「ヒスイと言います。最近、王都にきたばかりです」

「そうかい、これからも贔屓にな」


 そう言うと店主は皿によそった料理をヒスイに手渡した。ヒスイはその人好きのする笑顔を見ていたら急にお腹が減っていたことを思い出した。


「次は我が家へご案内します!」


 アオイは元気にそう言うと気まぐれ屋の重厚な木戸を足で蹴り開けて、小路へ出た。そのまま気まぐれ屋の裏手にある倉庫の前にくると、鍵を開け始めた。  

 土蔵造りの不気味な建物で、その壁は漆喰で塗られていた。乏しい明りでは壁の先が見えず、それがよりヒスイには不気味に見えた。


「さ、入って、入って」


アオイに則されて倉庫の中に入ると広々とした空間が広がっていた。


(騎士団の訓練場みたいな作りだな。剣術や魔法の練習をするのにちょうど良いかも)


倉庫の奥は壁で区画されており、重そうな鉄の扉が付いていた。


(厳つい扉だな。ここがアオイさんの部屋かしら?もしかしたら病院の方が良かったかな)


ヒスイが少し後悔したところで重そうな扉が開いた。


「ようこそ!我が家へ」


 扉の中はとても居心地の良い空間が広がっていた。こぢんまりとしたソファーがあり、その前には暖炉が備え付けてあった。

 

 壁には暖かいタッチで描かれた六英雄の絵が飾られていた。ヒスイが知る六英雄の絵は皆が剣を構えた勇ましいモチーフが多いのだが、この絵は六人が柔和な顔で微笑んでいた。特に目を引いたのは、魔装を身に付けて屈強なはずの魔法戦士が非常に小柄に描かれていたことである。


「暖かい絵ですね」


ヒスイが呟いた言葉に、アオイは嬉しそうな顔を見せた。


「うん、良い絵でしょ。一緒に旅をした友達が描いてくれたんだ」


 そう言うとアオイは『へへへ』とはにかんだように笑った。ヒスイにはその笑顔がとてもかわいらしく見えた。そして、ヒスイはアオイと『一緒に旅をした友達』がうらやましくなり、ちょっと嫉妬している自分に驚いた。


「お風呂とキッチンもあるんだよ。今、お湯を入れてくるから先にお風呂をどうぞ」


 お風呂には魔道具の蛇口がついており、暖かいお湯が出ていた。キッチンにも魔道具のコンロや蛇口まで備えつけられていた。その豪華さにさすがのヒスイも驚いた


「アオイさんは何者なんですか?この家、設備だけなら伯爵の屋敷と同等ですよ」

「私は"なりそこない"だよ」


 ”何の?”と言う言葉をヒスイは飲み込んだ。アオイがとても寂しげな笑みを浮かべていたから。その言葉はヒスイの胸の奥にひやりと落ちた。


「さあ、先ずはお風呂に入ってさっぱりして。病院で身体を洗ってないでしょ」


そう言われてヒスイは悶絶した。


(わ、私臭いかも)


「ご、ごめんなさい。臭いですよね」

「いやいや、全然だよ。むしろそそられる香りかも」


ニタニタ笑うアオイの横をすり抜けながら、ヒスイは風呂へ向かった。




 

「はあ、気持ち良い」


湯船に浸かりながらヒスイは今回の配属命令について考えていた。


(ベルク陛下直々の配属命令が一班長に出ることなんかあり得ない。情報部か…。私に務まるかな?

 アオイさんも謎だ。待遇が良すぎる。騎士階級なのだろうけど、動きがすきだらけだし…。ヒーリングは上手みたいだけど…。一介の騎士の家に高価な魔道具があることも変だ)


とりとめのない考えはアオイによって中断された。


「ヒスイ、寝着を置いておくから着替えてね」

「はい、ありがとうございます」


 ヒスイはもう少し湯船に浸かっていたかったが、空腹感に耐えられそうもなく早々に風呂から上がることにした。脱衣所には清潔なタオルとローブが用意されており、ヒスイは感謝しながら使わせてもらうことにした。

 部屋に戻るとソファーの前に机が用意され、気まぐれ屋の惣菜とともにサラダとパスタが皿に盛られていた。


「簡単な料理だけど」


アオイはワインのコルクを抜くと二つあるグラスの片方へ注いだ。


「ヒスイは飲めるの?」

「はい、人並みには」

「じゃあ、こちらにも」


アオイはもう片方のグラスにもワインを注いだ。


「ようこそ、王都へ」

 

ヒスイはアオイと食事をし、語り合うことに安らぎを感じていた。


(ヒーリングしてもらったせいかな)


 混沌の魔団の話はアオイもヒスイもしなかった。ヒスイはツクミ近衛騎士団長からの呼び出しには、なぜか緊張していなかった。アオイが同席すると言ってくれたことに心底安心していたためだった。

 

「どう、美味しい?」

「はい、とっても美味しいです」


 気まぐれ屋の惣菜はもちろん、アオイの作ったホタテ入りのトマトパスタもとてもおいしかった。パスタはワインと良くあっていた。


「アオイさんはお料理上手ですね。私は野営料理しかできません」

「要は応用だよ。野営料理だって工夫次第では宮廷料理にだってなるよ」

「すごいなぁ。山鳩の丸焼きも宮廷料理になりますかね?」

「大丈夫だと思うよ。そうだ!明日、食べに行こう!ちょっと文句を言ってやりたい気持ちもあったからね」

「文句ですか?」

「いやいや、こっちの話。ヒスイ、疲れたでしょ。今日はあっちの部屋のベッドを使って」

「アオイさんのベッドですよね。良いのですか?」

「あー、私はどこでも寝られるから」


(このソファーじゃ小さくて狭いだろうに…)


 ヒスイはそう思いながら自分でも思いがけない提案をした。


「アオイさんが良ければご一緒しませんか?」

「良いけど。狭いよ」


 ヒスイはアオイのそばで安心したかったのだ。アオイのそばならあの悪夢も見ないのではないかと思ったのだ。


「そうと決まれば、明日はちょっと早いから片付けて寝る用意をしよう」


 アオイはそう言うと料理が無くなった皿をキッチンへと持っていく。


「私もお手伝いします」

「ありがとう、片付けたら布団の準備も手伝ってね」





 アオイのベッドはヒスイが思っていた以上に小さかった。二人で寝るには抱き合う格好になってしまう。ベッドに潜り込んでどういう体勢でアオイを待っていようかとヒスイが思案しているうちにさっとアオイへ脇に潜り込まれてしまった。ふわっと甘いアオイの体臭がヒスイを緊張させた。

 

「アオイさん、今日はありがとうございました。私、不安だったんです。でも今は安心してます。アオイ班へ配属できて良かったと思います」


緊張でコチコチになりながらヒスイはアオイへ今の気持ちを伝えた。


「こちらこそ、よろしくね。私達の仕事は二日後からだ。明日はご飯食べた後に王都を案内するよ」

「ありがとうございます!楽しみだなぁ。…」

「…ヒスイ?」


 その後、アオイの呼びかけにヒスイからの返事はなかった。思いを伝えてヒスイの緊張は解けてしまったのだ。

 この日ヒスイは朝まで起きなかった。暖かい温もりのそばで深い眠りに落ちていた。




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