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第25話 半身

 王都からアルカディアを班長とする15名の"情報部"の精鋭がバールミン領都を目指していた。だが、領都前の関所で思わぬ足止めをくらった。


「なぜこんなに時間がかかっている?」


 アルカディア達は商隊を装っていた。パスは情報部が運営する実在の商会のものである、ある意味で本物だ。疑われるのはおかしい。


「パスの確認にかなりの時間をかかるな」

「アルカディアさん、大丈夫でしょうか?」

「我々には疑わしい所は何もないはずだ。時間はかかるだろうが、関所は何事もなく通れると思う」


 もしかしたら賄賂を渡せば存外、通れたのかもしれない。だが真面目なアルカディアの性格が賄賂に嫌悪してしまったのだ。班はここで三時間の足止めを喰うことになる。





アオイが目覚めたのは昼を過ぎたころだった。アオイが目覚めたことにヒスイはすぐに気が付いた。静かに傍らに寄り添う。


「ヒスイ…」

「気が付きましたか」


 ヒスイはそっとアオイの手を握った。冷たい手はいつものアオイの温度ではなかった。


「痛みはありますか?」

「うん、やられちゃったね」


 ヒスイはアオイの手を握りしめていた。


「ヒスイ、ずっと居てくれたんだ」

「はい…」


 ヒスイはアオイの顔を覗き込んだ。


「とても安心できたよ。こんなに良く寝たのは久しぶりだ」


 アオイはヒスイの手を握り返しながら言った。


「心配かけたね」


 ヒスイの目から涙がこぼれた。


「本当ですよ。もう、離れるのは嫌です。アオイ。ずっと一緒が良いです」


 アオイはヒスイの頬に手を触れた。ヒスイは、その手に自分の手を重ねた。


「もうすぐ、光の使い手が来ます。それまでの辛抱です。アオイ、何かほしいものはありますか?」

「ああ、何でも良いから甘いものが飲みたいな」

「わかりました。ちょっと待っていてくださいね」


 ヒスイは屋敷の庭に李が実っていたのを見つけていた。ヒスイは両親に構われた記憶がほとんどない。だが、幼いヒスイが風邪を引いた時に、母が李の果汁に“はちみつを入れた飲み物”を作ってくれたことは鮮明に覚えていた。


(そうだ。アオイにあれを作ってあげよう)


 ヒスイは屋敷の庭で李を摘むことにした。ヒスイは棚にあった籠を手に持つと、庭へ向かった。





 ジュールは苛ついていた。ディスターブから謂れのない叱責を受け、カップを投げつけられた。額の傷がズキズキと痛んだ。


(畜生、なぜ俺がこんな目に合う!!)


 それは偶然だった。屋敷の庭先で李を摘んでいるヒスイを、ジュールが見つけてしまったのだ。


(あいつは!!)


 忘れもしない!ジュールにとてつもない屈辱を与えた小娘の片割れ!ジュールは風魔法を使って周辺を探知した。すぐにもう一人の気配も見つけた。


(何だ?魔素がほとんど残ってないじゃないか!小娘、俺が殺してやるぞ!)


 ジュールはヒスイに見つからないように屋敷の敷地に入ると、アオイを探知した場所へ忍び寄った。そして空気の弾丸を作り出すと窓を壊して部屋に飛び込んだ。





 アルデイの屋敷は手入れされていた。庭木もきちんと剪定されている。ヒスイは鈴なりになっている李を捥ぎ、籠に入れたところだった。


(魔法?アオイのいる部屋!)


 ヒスイはすぐに気配を察して駆け出した。だが、ジュールの方が一瞬早くアオイの元へたどり着いた。


「アオイ!」

「動くな!」


 ジュールはアオイに剣を突きつけながらヒスイへ言った。


「この前の屈辱を晴らしてやる」

「やめて。お願い。やめてください」

「ははは、こいつが苦しみながら死ぬのをそこで見ていろ!」


 ジュールは抵抗できないヒスイに真空刃を放って、右腕に傷をつけた。ヒスイが右手に持っていた李が床に落ちた。


「やめろ!ヒスイに手を出すな」

「なんだ、お前。俺に命令するのか?気が変わった。先ずはあいつを裸に剥いて、辱めてから殺してやる。その後にお前だ」


 ジュールはそう言うとヒスイの周りに風の渦を作り出した。その風の魔法でヒスイのシャツが破れて下着が露わになる。そして、その肌から血飛沫が飛んだ。


「やめろ!ヒスイ!」

「アオイ、私は良いから動かないで!」

「そうだ!お前も動くなよ!!これはどうだ?」


 ジュールの風魔法は更に強さを増した。ヒスイの服はズタズタに引き裂かれ、その肌も切り刻まれていた。


「あああっ」

「やめろ!!」


 それは突然だった。アオイの右手が暗く、暗く闇に包まれた。そしてジュールは唐突に壁へ叩きつけられ、そのまま貼り付けられた。


「う、動けない!」


 ジュールは心の底から恐怖を覚えた。アオイは宙に浮かび、ジュールを見下ろしていた。アオイの傷はきれいに消えていた。


「ば、化け物、く、くるな」


 ジュールにとって、アオイの姿は“憤怒した悪魔”のように感じられた。それは美しさ、儚さ、畏怖の権化であった。そして、


 ジュールが最後に感じたのは暗い闇に包まれ、身体全てが押しつぶされる感覚のみだった。ジュールには痛みを感じる暇もなかった。

 




「ヒスイ!」


 アオイはぼろぼろになったヒスイに駆け寄るとヒーリングを行った。ヒスイの傷は瞬く間にきれいに消えていった。


「ヒスイ!」


 アオイは強くヒスイのことを抱きしめていた。


「アオイ、痛いです…」

「うん、でも…」


 アオイはヒスイの存在を確かめるように強くその身体を抱きしめた。


「アオイ、闇の魔素が戻ったんですね」

「うん」

「身体の傷も元に戻りましたね」

「うん」

「アオイ、痛いです…」


 ヒスイもアオイの存在を確かめるように強く抱きしめ返していた。その時、ヒスイはアオイと重なったような感覚に囚われた。一瞬の感覚だったが、ヒスイはスガル平地でアオイの姿を見た時と同じ気持ちになっていた。

 

「ヒスイ、とっても刺激的な格好だね」


 ヒスイの胸は魔装で隠れていたが、下半身はほとんど覆われているものが無く、裸同然だった。


「や、や、見ないでください!」

「うん、傷が残らなくて良かった…」


 アオイはヒスイに近くと優しくそっと抱きしめた。


「ヒスイ、本当にありがとう。そして心配をかけたね」

「アオイ、何度も言います。ずっと一緒が良いです」


 二人は互いの半身を見つけたのだろうか?ちょうど外は雨が降り出していた。





 屋敷にあった服に着替えて二人はベッドに腰掛けた。


「あれは闇の魔法ですか?」

「そう。かなり高度な魔法だから私も集中しないと使えない。高高重力で対象を押しつぶす」

「…」

「私の闇の魔素のほとんどはルークから譲渡されたものなんだ。悲しい、悲しい業に染まった魔素。だけど私は大切なものを守るためになら使うことは躊躇わない。ヒスイにも宿っている。だけど使う、使わないはヒスイの自由だと思う」

「はい。私ももし同じ事があったら大切なものを守るために躊躇なく使うと思います」


 ヒスイはアオイの顔を覗き込んだ。


「アオイの苦悩を半分もらうと言った事。本当ですから」


 ヒスイの言葉にアオイは嬉しそうに、ただ黙って頷いた。


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