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第23話 焦燥

 何人の兵士を倒しただろう。ヒスイにはわからなかった。アオイに出会っていなかったら、すでに弱音をはいてあきらめていただろう。ヒスイはアオイが使っていたという矢切丸をギュッと握った。

 ヒスイとアサインはなんとか兵士の囲みを抜け、領都の路地を走っていた。


「ヒスイさん、こっちです」


 アサインは領都を知り尽くしていた。尾行を考慮して回り道をしながら気まぐれ屋を目指す。


「尾行は無いようです。このまま最短で気まぐれ屋まで行きましょう」


 ヒスイは焦っていた。一刻も早く、情報部に接触したかった。アサインを送り届け、アオイの元へ戻りたい。ヒスイは強く、強く思っていた。そんなヒスイをアサインは窘めた。


「ヒスイさん、ダメだ。万一がある。遠回りします」

「…わかりました」


 ヒスイはアサインの正しさがわかっていた。だから悔しい。

アサインはヒスイを伴い、路地裏を回る。どのくらい走っただろう。ほどなくしてヒスイは既視感のある看板を見つけた。王都でアオイと一緒にお酒を飲んだ店と同じ看板。ヒスイはもどかしい思いで扉を開けた。


「いらっしゃいませ!」


 猫獣人のウェイトレスが元気に声をかけてきた。


「アマノさんの忘れ物を受け取りにきました」


 ヒスイはウェイトレスに目的を告げた。一瞬、ウェイトレスは鼻をぴくッとさせたが、すぐに、


「仰せつかっています!こちらにどうぞ!」


 ヒスイとアサインは奥の個室へ通された。すぐに、中年の男性がやってきた。


「情報部B級騎士のエリオットです」

「A級騎士のヒスイです。こちらはバールミン領B級騎士のアサインさん」


 ヒスイはアサインを紹介したが、たぶん店の常連らしいアサインをエリオットは知っている。頷きあっただけだった。


「アマノ女医から概要は聞かされています。ところでアオイさんは?」


 ヒスイはバールミン領都へ潜入した経緯を説明した。そして、


「私はこのまま、アオイと合流します」

「ダメです、ヒスイさん。アオイさんの居場所はわかるのですか?」

「魔素を辿ればわかります」


 ヒスイは自分が無理を言っているとわかっていた。声がだんだん小さくなる。


「アオイさんが魔素を隠蔽して潜伏している可能性もある。何よりヒスイさんが見つかるリスクが高いと思います。心配なのはわかりますが、アオイさんの到着を待たれた方が良い」


 ヒスイはエリオットの正論に反論することができなかった。


「それに昼には王都から騎士が15名到着予定です。それからなら、色々選択肢があると思います」

「わかりました。ここで待たせてください」


 ヒスイは頭を下げると用意された椅子に座りこんでしまった。


「では食事と飲み物を運ばせますので、お待ちください。」


 ほどなくして料理が運ばれてきたがヒスイは食べようとしなかった。じっと壁を睨みつけていた。


「ヒスイさん、少し食べましょう。いざと言う時に力がでませんよ」

「はい」


 ヒスイは力なく頷くとサンドイッチに手を伸ばした。


「アサインさん、私は待つしかできないです」

「いつでも出られる準備はしましょう」


 アサインは自分の妹くらいの歳のヒスイに優しく話かけた。


「そうですね。私、着替えますので向こうを向いていてもらえますか?」


 ヒスイはそういうと農家で着替えた服を脱ぎ、いつもの動きやすい服装となった。そして、その上からアオイとおそろいの緑色の胸甲をつけてジャケットを羽織った。


(アオイ、どうか無事でいて…)


 ヒスイは待つことしかできなかった。ヒスイは時間が過ぎていくのを止められない自分に腹が立っていた。





 アオイは白くて薄気味の悪い部屋にいた。アオイはここがスガル平地の呪いの部屋だと気づいた。


「ルーク、私に何を言おうとしたの!呪いを解呪してはいけなかったの?ねえ、ルーク!あの時、何を言おうとしたの!!答えてよ!ルーク!」


 部屋にアオイの声が響くだけでだれも答えない。そして…。


 アオイは足を動かすが足元の泥沼が邪魔をして前に進めない。そして泥沼はどんどん深くなりアオイを沈めようとする。


(早く行かなきゃならないのに!ルークが死んじゃう。ルーク!)


 アオイが絶叫すると同時に全身を激痛が襲った。


「痛っ!」

「目が覚めたか?」

「ここは?私はどうなった?」


 アオイは見覚えのないベッドに寝かされていた。


「私はどのくらい寝ていた?」

「夜明け前だ。アオイは八時間くらい寝ていた」

「あなたは?何故、私の名前を?」


 男は被っていたフードを脱いだ。男は60歳くらい、精悍な顔立ちをしていたが、肩口から右の腕がなかった。


「アルデイ…」


 男は六英雄の一人、竜騎士アルデイだった。


「闇の魔素を感じたので来てみたらアオイが倒れていた」

「ありがとう。助かったよ」


 アオイは力なく答えた。


「アオイ、まだ闇の力が戻ってないのだな。こんなにやられるなんて…」

「うん、右手が軽いよ」


 アオイのその声色はとてもせつなく響いた。


「アオイは闇霧を右手に持つからな」


 アオイは眼を瞑った。


「ブエノスが相手か?」

「そう。アルデイ、お願いがあるの」

「なんだ?アオイの頼みなら何でも聞くぞ」

「すごいお願いしたらどうするのよ…」

「おまえはそういう事を言わない」


 アオイはかすかに笑った。それは自嘲の笑い方だった。


「気まぐれ屋に私の相棒がいる。ヒスイっていうの。私がここにいる事を伝えてほしい」

「わかった。ヒスイ。アオイの相棒をここまで連れてこよう」


 アオイは安堵した表情を見せた。


「ありがとう。アルデイが一緒なら安心だ」

「アオイ、俺が戻るまで大人しくしていろよ」

「うん、どのみち動けないからね…」


 アルデイはアオイの額に手を置いた。もうその時には、アオイは眠っていた。アルデイはアオイが眠っているのを確認すると静かに部屋を出ていった。




 

 仮眠するように進められたが、ヒスイは一睡もできなかった。もうすぐ、朝になる。ヒスイはすぐにアオイの元へ駆けつけたかった。だがそれが出来ない自分に忸怩たる思いだった。


「アオイ…」


 その名を何度、呟いただろう。ふと、店の雰囲気が変わったことにヒスイは気づいた。


(もう店は閉まっているのに…)


 ヒスイは変に胸騒ぎがした。


「エリオットさん、何かあったのですか?」


 ヒスイはエリオットに声をかけたが返事はなかった。ヒスイは矢切丸を抜くと仮眠していたアサインを起こした。


「アサインさん、何か変です」


 アサインはすぐに起き上がり、剣を手にした。


「エリオットさんが、店の外で話をしていますね。相手は手練です」


 ヒスイはそっと扉に近づくと話し声に聞き耳を立てた。


「アオイを預かっているとヒスイに伝えて欲しい」

「それはどういうことですか?」

「文字通りの意味だ」


 ヒスイは戦慄した。


(アオイを預かっている?こいつがアオイを捕らえているというのか!!)


 ヒスイは扉を蹴破ると地面に手を当て、ゴーレムを生成した。ミニレムではない。ヒスイ、本気のゴーレム。ヒスイは問答無用で巨大なゴーレムの突きを叩き込んだ。


「ほう、ジンライのようだ」


 しかし、アルデイはその攻撃を左手でいなした。ゴーレムは体勢を崩して倒れる。すかさずヒスイは矢切丸をアルデイへ袈裟に振るった。その斬撃はヒスイの怒りをはらんだ必殺の一撃だった。その刃はアルデイの右手を切り飛ばした。

いや、袖が切られて舞った。


(右手が無い!)


 ヒスイが気づいた時、ヒスイはアルデイから腹に、魔素そのものを叩き込まれて動けなくなっていた。いや、動けないはずだった。これはアルデイの奥義だった。普通は動けるはずはないのだ。


「アオイを返せ!」


 それはヒスイの魂からの叫びだった。動けないはずのヒスイの身体が振るえた。そしてヒスイは立ち上がったのだ。


「ゴーレムの一撃といい、立ち上がった胆力といいアオイが相棒に選ぶだけはある」


 アルデイは呟くとヒスイに語りかけた。


「刀を納めてほしい。アオイに頼まれた。お前に迎えに来てほしいそうだ。俺が案内する」

「あなたは何者ですか?」


 アルデイの答えはここに居た騎士達を戦慄させた。


「竜騎士アルデイという」



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