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第22話 激突

 ガモウ鳥は隠れ家に預けて行く。ここから領都までは徒歩である。三人は街道を進まずに森の中の小道を歩いた。三人の武器はアサインが背負った籠の中に隠した。


「こんな小道ですが、森の管理人や狩人が使う道です。武器は見つからないにこしたことはありません」


 何度か農夫にすれ違ったが怪しまれた様子はなかった。アサインは二人を水車小屋の近くまで案内した。


「このまま、水車小屋から地下道へ入ります。その先は領都です。見張りが付いていると思った方が良いです」


 地下道は王族のための隠し通路であった。


「ディスターブに知られる前に領都に入りたいね。善は急げだ!行こう!」


(強行突破というだろうな)


 ヒスイは一応アオイに聞いてみた。


「アオイ、どうします?」

「地下道は一本道、出入口はひとつずつ。強行突破だ!」

「アオイならそう言うと思いました」

「でもそれしかないでしょ?」


 アオイはヒスイを覗き込むようにして言った。確かにこの状況ならば突破するしかないだろう。


「ミニレムで敵兵の相手をさせます。ベガスに居たら厄介ですので、力は温存しましょう。バレるまでは静かにですよ」

「うん、頑張るよ」

「それじゃあ、急ぎましょう」


 水車小屋は領都へ流れこむ小川の辺りにあった。


「本当は夜になるのを待ちたいけど、急ごう」


 小屋は複数の兵士が警備していた。


「アサインさん、ミニレム、小さいゴーレムなのですが…。こいつで小屋の周りの兵士を無力化します。制圧したら小屋の中に光の玉を放ちますので見ないようにしてくださいね」


「わかりました。わかりましたがヒスイさん、ゴーレムなんか持っていたのですか?」


 ゴーレムと言えば普通は組み立て式だ。


「ヒスイはね。すごいんだよ」


 アオイが得意げに語りだしたので、ヒスイはあわてて止めた。


「はい、これです」


 ヒスイはそう言うと石塊からミニレムを作り出した。


「なんと!!すごいですね!こんなの初めて見た」


 驚くアサインへアオイが自慢する。


「どうよ。すごいだろ。かわいいし」


ヒスイは苦笑せざるを得ない。


「地下道の入口を確保したら、ミニレムを先行させて地下道を制圧します。その後、出口の兵数を確認。20名程度なら私が先行して突破します。もっと兵数が多いようならアオイが先行します」


(本当ならアオイに魔素は使わせたくない。歯がゆいなぁ…)


 ヒスイは自分の力の無さを悔しく思った。


「その後は情報部の拠点で合流です」


 アオイが示した場所はアサインが良く知る場所だった。


「“気まぐれ屋”。食堂ですね」


 アサインが騎士団の仲間とよく行く居酒屋兼食堂だった。


「うん、『アマノの忘れ物を受け取りに来た』と伝えて」

「もし、敵兵を突破できない時は着替えをした農家に戻ること。よし、それじゃあ行くよ」

 

 三人はお互いに頷き合った。



 


 水車小屋までヒスイが先行した。何気ない風を装い、自然に近づく。動きがカクカクしていたので兵士達から見ると怪しかっただろう。


「おい、お前。止まれ」


 兵から声がかかるがヒスイは気にしなかった。手にしていた籠を示して、


「お兄さん達、お酒は要らない?安くしておくけど」


 笑いかけながら言った。


「お前が釈をしてくれるなら買ってやっても良いぞ」


 数人の兵が下卑た笑いを浮かべながら近づいて来た。その手がヒスイの腕を掴もうとしたその瞬間に、


「ミニレム!」


 三体のミニレムを出現させ、周囲にいたすべての兵を瞬く間に制圧した。

 ヒスイに近いていた兵は何が起きたのかわからないまま、短剣で首筋を切られて絶命した。そのままヒスイはミニレムを入口に突進させると、扉をぶち抜いた。


「アオイ!」


 すかさずアオイが光弾を小屋の中に打ち込んだ。閃光。すぐに小屋の中が騒がしくなる。小屋に五人居たがアオイとヒスイによってすぐに制圧され、拘束された。


「アサイン、これが入口だね」

「はい!こちら、魔刀です」


 アオイは六芒丸を受け取ると地下道への扉を両断した。そこへの階段が現れた。


「ミニレム!」


 ヒスイはミニレム三体を先行させた。ほどなくして、


「地下道の安全を確保しました」

「よし、走るよ」


 三人は地下道を駆け抜けた。すぐに出口だ。だがアオイとヒスイは浮かぬ顔をした。


「すごいのがいるね」

「はい、禍々しい気を感じます」

「ヒスイ、アサインを連れて情報部に接触して。何が何でも…だ。私が切り込む」


 何か言いかけたヒスイの言葉に被せるように、


「お願い、ヒスイ。私のわがままを聞いて」


 アオイらしくない頼み方をされて反対できなかった。ヒスイは言いたかった言葉を飲み込んだ。これでしばらく会えないかもしれない、という予感が拭えない。


「わかりました。“気まぐれ屋”で必ず会いましょう」

「わかった。じゃあ、行くよ!」


 ヒスイはミニレムを扉に体当たりさせた。扉がひしゃげ飛んだ。その瞬間、ミニレムはその全身を焼かれ、弾け飛んだ。


「アオイ、気をつけて!黒騎士です!」


 アオイは前方をレジストしながら弾けた扉から飛び出した。そこへすさまじい爆風が襲う。だが、アオイのレジストは破られない。

 アオイはそのまま黒騎士に駆け寄ると一気に六芒丸を抜き放ち、下段から切り上げた。


「でや!!」


 裂帛の気合い!滝の水をも押し返せそうな、抜き上げ。しかし、その一撃は魔剣、魂喰によって止められた。刃と刃がぶつかり、不気味な火花を散らす。


「ブエノス!」

「アオイか!!」


 アオイは左手に魔素を込めてブエノスへと放った。無数の光矢がブエノスへ襲いかかる。


 ブエノスは魔剣を一振りすると闇のオーラが大蛇のように這い出でて、アオイの光矢をすべて吸収した。だが、アオイはその一瞬にブエノスの懐へ入り込むと六芒丸に光をまとわせ、ブエノスの胴へ叩きつけた。ブエノスは吹き飛ばされて地面へ叩きつけられた。


「ヒスイ、今!抜けて!」


 ヒスイはミニレムで囲んでいた兵士を薙ぎ倒し、アサインとともに駆け抜けていった。


「アオイ、待っていますから!」


 ヒスイは振り向かない。真っすぐ前を見ていた。アオイはその言葉に頷くとブエノスに向き直った。ブエノスはゆっくりと立ち上がる。


(寝ていてくれても、いいんだけどな)


 アオイは唇をかんだ。ヒスイがいなくなって安堵したのと同時に心細さが胸に押し寄せる。


「久しぶりだね。ブエノス。魔剣のせいで人相が悪くなったんじゃない?」

「そうかもしれない。この魔剣を手にしてから物怪となった。魔素を封じているお前とは違う。人相も変わるというものだ」

「私は闇の魔素を封じたわけじゃない。眠ってしまっただけ。闇の魔素が目覚めればブエノスと同じかもね」

「ヒスイを捕らえたかったが…。お前がいるのなら難しい。だが、ここでお前には死んでもらう。闇霧はもらい受けよう」


 ブエノスは魂喰に"魔素"を込めるとアオイへと切り掛かった。アオイは六芒丸で魔剣を受け流したが魔素を奪われ、目眩を覚えた。


(くっ、これはやばいな)


 アオイは後に飛び、ブエノスの間合いから外れた。そこへ兵達が矢を射掛けてきた。アオイは矢を六芒丸で叩き落とすと雷撃を作り、兵へぶつけた。雷が炸裂して数名の兵が倒れる。

 しかし、その隙をブエノスがつく。ブエノスは炎をアオイへ向けた。炎は蛇のようにブエノスから放たれ、アオイの右足に絡みついた。アオイはすぐにレジストしたが右足に激痛が走る。


(ヒーリングする余裕はない)


 アオイは六芒丸を鞘に戻し、居合の構えをとった。魔素を込める。そして、


「うおー」


 気迫を込めて六芒丸を抜き放った。六芒丸から放たれた光の濁流は幾重にも刃となってブエノスへ迫った。


 ブエノスはこの攻撃を魔剣で止められないと判断した。魂喰を逆手に取ると地面に差し込んだ。そこから闇の粒子が怨霊の形となって光に迫った。光と闇はぶつかり合う。そして砕け散った。それは光と闇の粒子となって辺りに散った。

 粒子は周りを取り囲んでいた兵達を鎧ごと貫き、あるいは頭を砕き、命を奪っていった。

 ブエノスもまた、光の刃を弾ききれていなかった。光刃はブエノスの身を引き裂いていた。致命傷にはならなかったが、ブエノスは立っているのがやっとだった。


「さすがだな、アオイ」


 アオイもまた、闇の魔素を受けて身体を血に染めていた。それにブエノスに焼かれた右足が痛々しい。


「ブエノス、悪いけど私はここで死ぬわけにはいかない。ここは通してもらうよ」


 アオイは闇霧を抜くと魔素を込めて自身に闇を纏った。ブエノスはアオイが見えなくなった。


「あの傷ではそう遠くまで行けまい。魔素もつきかけている。ヒーリングもかけられないだろう」


 ブエノスはゆっくりと歩きだすと生き残っていた兵に言った。


「ディスターブに連絡を。アオイを狩り出す」


その言葉は冷たくあたりに響いた。その冷たさに命令を受けた兵は身震いをした。


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