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第14話 アオイって呼んでよ

 アオイとヒスイが風呂に入る少し前、ガムとジムは食堂にいた女の子の話で盛り上がっていた。


「可愛かったなぁ、良い身体していたよね」

「髪の長い方が好みかなあ。ガムは髪が短い方だろ?」


 思春期の日常会話である。二人は駆け出しの傭兵である。まだ実戦経験は無い。今回、護衛の仕事はガムの父親のコネだった。

 普通、任務についた傭兵は無用なトラブルを避ける。悪い評判がたつと、次の仕事に差し障るからだ。だが二人は駆け出しでコネ、しかも思春期の情熱に突き動かされてしまった。しかも失敗して隊長に怒られムシャクシャもしていた。


「ジム、ちょっとだけ覗いてみないか?」


 こうして二人は女風呂に忍びこんだ。すぐにガムは風魔法で風呂場を確認した。どうやら女の子二人だけらしい。脱衣所のドアはジムが地の魔法で開かなくした。ガムの風魔法で気配を消しながら風呂の前に来た。ここまでは完璧だ。

 風呂から女の子達の話声が聞こえてくる。ガムは静かに隙間を開けた。二人が湯船に浸かっているのが少しだけ、見えた。


「くそ、よく見えないな」

「ねえ、僕にも見せてよ」


 二人で隙間に顔を押し付ける。身体は見えないが、女の子達の顔は見えた。桃色にそまった肌がとてもきれいだった。


「きれいなひとだ…」

「おい、ジム。髪の短い方が立ち上がるぞ!」


 二人は息をするのも忘れて凝視した。そして、ガムとジムは女の子の裸を見たはずだった。しかし、





 悲痛な絶叫が風呂場にひびいた。


「うおー、目が痛い!!」


 アオイは光の玉を作り出し、強烈に光らせた。そして満足げにヒスイを振り返った。


「見せつけてやったぜ!」


 ヒスイはすぐに転がっている二人に近づくと魔法で体を砂に埋め、動けないようにした。目は見えないように厳重にタオルで縛った。


「アオイさん、びっくりしましたよ。本当に見せるのかと思いました」

「ふふん、そんなに簡単には見せないよ」


 アオイは嬉しそうにニヤニヤしながらヒスイに言った。


「ヒスイ、あいつらに鉄弾をぶち込もうとしただろ」


 アオイはヒスイの頬に手を当てながら優しい声で聞いた。


「そ、そんなことしません。そんなことしたら風呂がこわれちゃう!」

「だよね。あんなに魔素を込めたら宿ごと吹っ飛ぶよね」


 アオイは人差し指をヒスイに突き付けた。ヒスイに逃げ場はない。ヒスイはあとずさる。

 とうとう壁際まで追い詰められた。ヒスイはもう逃げられない…。アオイは人差し指をヒスイの唇に当てた。

 ヒスイは唇に触れたアオイの指先が熱く感じた。


「あんなことをする悪い子には罰を与えよう」

「な、な、な、何するんですか?」

「ずっと気になっていたんだよね。ヒスイ、私のことアオイさんって呼ぶよね。アオイって呼んでよ」


ヒスイの顔を真っ赤にして、頭をぶんぶん横に振った。


「だ、だ、だって恥ずかしい…」

「鉄弾ぶち込もうとしたくせに??」

「わ、わ、わかりました。わかりました。アオイさんのことはそう呼びます!」

「わかって無いじゃないか!何て呼ぶって?」

「アオイさ…。あー、わかりました!アオイ!これでよいですか?」

「うん、これからはアオイって呼んでね」


 アオイは満足気にヒスイの唇から人差し指を離した。


「もう、アオイ。そろそろ服を来ましょう。湯冷めしちゃいます。そして…、着替えたらこいつらを殺ります」

「はーい、ヒスイ。わかったよ」


 満足げなアオイの嬉しそうな声があたりに響いた。





 真っ暗だった。何も見えない。そして、心臓の音以外は何も聞こえない…。


「本当に申し訳ありませんでした!!」


 ガムとジムはアオイ達の部屋へ連れて行かれ、正座させられていた。頭はヒスイが魔法の鉄で覆っていた。


「どっちから死にたいですか?」


 ヒスイが矢切丸を抜き、ガムに突きつけた。


「ヒスイ、きっと聞こえてないよ」


 舌打ちをして、ヒスイは耳だけ鉄の覆いを解呪した。それから改めて矢切丸を突き付けた。


「アオイさ…、アオイの裸を見ようなんて死に値します」


 アオイはため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。


「ちょっとヒスイ、その物騒なものをしまってよ」

「だけど…」

「君達、反省した?」


 ガムとジムはコクコクと首を何度も上下させた。


「よし、選択肢を与えてあげよう。死ぬか、下僕になるか」

「アオイ、ぬるくないですか?じわじわと痛ぶられながら死ぬか、死にたくなるくらいの苦痛に苛まれる下僕か?どちらか選びなさい!」


 ガムとジムは震え上がった。この髪の長いお姉さん(ヒスイ)の目が本気だったからである。


「お、お助けください。出来心だったんです」

「そ、そうです。出来心だったんです」


 ガムとジムは必死である。命がかかっているのだ。


「そうね。じゃあこうしよう。君達は今日から下僕だ。ガムには魔素の使い方を教えるので習得して。ジムはヒスイに教わって魔道具の勉強をして。ヒスイの助手が務まるくらいになってもらう。期間は1週間。期待値に達しなかったら嬲り殺します」


 アオイは二人を見下ろしながら言い放った。


「質問は許しません。とりあえず二人は隊長さんに私達の同行を認めてもらって来て。はい、駆け足!」


 ガムとジムは訳がわからないまま、食堂へ駆け降りていった。





「アオイ、今のはどういうんです?」

「ああ。噂通りなら賊が出るらしい。二人の護衛だと商隊は全滅しそうだからね。ガムは風の使い手だ。集団戦で風の使い手の力は戦局を大きく左右する。だから商隊を守れるくらいになるように鍛える。

問題はジムの方だ。これから受け取りに行くでしょ、竜の魔装。あれ、修理しないとならないんだよね」


 竜の魔装は六英雄、“鉄王ジンライ”が造り“名もなき魔法戦士”が身に着けて戦った鎧だ。ヒスイは壊れているという話を聞いたことがなかった。


「あれ、私が壊しちゃったからね」


 ヒスイはもうアオイに色々質問することをやめた。


「と、ともかく竜の魔装の修理には“地の使い手”が必要なんだ。だからヒスイに頼るしかない」

「ジンライ様の傑作を私が修理!!」

「ヒスイくらい地の魔法を使えればできるよ。ヒスイは信頼しているんだけど、問題は一人じゃ難しいってことなんだ」


 アオイによると————竜の魔装は高重量、高硬度、高対魔素性を付与したレアメタルに重力操作を組み込んだ鎧で、製造には多層的な魔法操作が必要だという事だった。

 とにかく『多層的な魔法操作』に地の使い手が“二人”必要らしい。

 

「で、ジムはどういうんです?」

「あの子の魔法は強力だった。ドアを閉じていた魔法はちょっとすごかったよ。私も解呪に結構な魔素を使った。それでね。あの子を仕込んでヒスイの助手にできないかな?」


 ジンライの傑作である“竜の魔装”。修理するのにたくみな地の使い手の手助けがあれば心強い。しかし、あの子で良いのか?という思いがヒスイにはあった。


「あいつ、ジンライに似ているんだ」


 ヒスイの嫌そうな顔にアオイはあわてて訂正した。


「顔や性格じゃないよ。魔素の使い方がジンライに似ているんだ。普通、地の使い手は物質を魔素で覆うだろ?」

「はい、それ以外の方法を私は思いつきません」

「ジンライは魔素を物質に練り込むんだ。矢切丸に魔素を練りこんだように」

「本当ですか?本当にそんなことができるんですか?普通の物質に??」

「ジンライはやっていた。あの子、ジムもね」


 ヒスイは心内で感動していた。


(矢切丸のように魔素を物質に練り込むことができたら、魔法の幅を広げることができる!

 鉄であれ、石であれ形を自在に変えることができる。画期的な魔素の使い方じゃないか!)


「わかりました。私もジムと一緒に学びます」


 ヒスイはグッと矢切丸を握り締めていた。


「私もジンライのやり方を知っていただけで、魔法を教えられる訳じゃないからね」


 ヒスイはアオイや黒騎士の力量を目の当たりにしていた。だからこそ、もっと強くなりたいと心の底から思うのだ。


「私は力がほしいです。アオイの相棒に見合うだけの力が」———じゃないとアオイを支えるどころか、私の宿命も乗り越えられない…


「ヒスイ、私の苦悩を半分もらってくれるって言ったよね。嬉しかったんだ。ヒスイとならどんなに辛いことも乗り切れると思った。

 でもね、ヒスイが辛いことも乗り越えないとダメなんだ。ヒスイの苦悩も半分、私がもらう」


 ヒスイがゆっくりと上げた顔に迷いはなかった。ただ前を向く瞳があった。


「それじゃあ、食堂に行って商隊の隊長さんに挨拶してこようか」


 二人は食堂へ降りて行った。これからの話をするために。


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