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第13話 出立

 出立の日、二人は朝早く日の出前に起き出し、旅装を整えていた。

 アオイは紺色の短パンに白シャツ、青色の胸甲をつけて腰に二振りの刀。その上から黒いジャケットを羽織る。ヒスイはグレーの短パンに白シャツ、緑色の胸甲をつけて腰に魔刀を差した。上にはアオイとお揃いのジャケットを羽織った。胸甲もジャスパの店で買ったミスリル製だ。


「よし、行こうか」


 ヒスイはアルカディアが作った詳細な『旅程マニュアル』を見ながら荷物をチェックしていた。


「はああ、金さえあれば大丈夫だって」


 アオイは能天気なのだ。だがヒスイが一生懸命なのに気が引け、しぶしぶ手伝いだした。そこへフセルニアがアルカディアを伴ってやってきた。


「お二人のご武運、心より願っております」


 フセルニアとアルカディアは直立するときれいな敬礼を見せた。アオイとヒスイも答礼する。


「見送りありがとう。わざわざ来てくれたの?」


 アルカディアがちらちらとヒスイを見ていた。アオイからするとアルカディアの思惑が手に取るようにわかる。フセルニアからも目線を送ってきた。アオイは気乗りしなかったがアルカディアに協力することにした。


「フセルニア、ちょっと良いかな?」


 声をかけて、フセルニアを別室へ連れ出した。


「アオイさんも案外お人好しですね…」


 フセルニアにはそう言われたがアオイは悪い気分ではなかった。———まあ、あの二人ならそうなっても良いかな。

 しばらくしてから部屋へ戻るとヒスイに怒られた。


「もうアオイさん、出発できないじゃないですか!!チェック終わらせますよ」


 理不尽である。ヒスイのことを思ったのにこの仕打ちである。ぶつぶつ文句を言いながら荷物のチェックを終えるとアルカディアが二頭の“ガモウ鳥”を引いてきた。


「こいつらを連れて来てくれたの?」

「はい、ツクミ団長が粉骨しました。駿鳥です」


 ガモウ鳥には沓も装着されていた。早速アルカディアが荷物をガモウ鳥にくくりつけた。


「本当にありがとう。ずいぶん楽になるよ」


 ガモウ鳥は優秀な動物だ。大きな飛べない鳥である。長距離の移動の際に兵士や商人がよく使う。その力は強く、大人二人くらいなら半日の走行にも耐えられた。

 そして、アオイはアルカディアから身分証を受け取った。騎士階級がD級になっていることを確認してアルカディアへお礼を言った。アルカディアは照れながら笑っていた。

 

「それじゃあ、行ってくるね」


 二人がガモウ鳥に跨ったところでフセルニアから包みを渡された。


「ベルク陛下からです。後で開けてください」


 アオイはそれが武器だとすぐに分かった。短剣のようだが…。


「伝言です。『アオイ、壊すなよ』」


 フセルニアは生真面目にちょっとだけベルクの声色をまねながら言った。


「うん、色々ありがとう。ベルクとツクミにお礼を言っておいて」


 アオイの言葉にフセルニアは大きく頷き、敬礼した。横でアルカディアもそれに続く。


「アオイさん、ヒスイ、無事な帰還を待っています」

「うん、行ってくるよ」

 

 ブレス歴506年春、アオイとヒスイは魔大陸へと旅立った。己の宿命を解き放つために。





 ブレス歴506年春、王都近郊

 

「ヒスイ、このまま街道沿いにバールミン侯爵領までだね!」


 アオイとヒスイは二頭のガモウ鳥に跨り、街道を進んでいた。


「はい、10日ほどで関所に着くはずです」


 ガモウ鳥の乗り心地も悪くない。旅の出だしは順調だった。


「アルカディアから何かもらったの?」

「いえ、何も」

「じゃあ、告白されたの?」

「え?何のですか?」


 アオイはアルカディアに期待するのをやめた。

 初日の旅程は順調だった。予定よりも少し早く最初の宿場であるベンネル村に着き、こぢんまりとした大浴場付きの宿も確保した。アスラ王国では風呂付き、酒場付きという宿が一般的だった。

 二人は宿の隣の家畜小屋へガモウ鳥をつなぐと宿の部屋へ落ち着いた。ベッドが二つあるだけの部屋である。一休みしてベルクの贈り物を開けてみることにした。


「これ!!竜の宝剣だ!!」


 それは複雑な刻印を刀身に施した短剣だった。“竜”の力を引き出し、竜を従えることができるらしいが…。————嘘だ。そんなことができるわけがない。

 

「ヒスイ、晩御まで散策しようか…、あれヒスイ??」


 アオイが目をやるとヒスイはベッドに胡坐をかいて竜の宝剣を分解し、なかごをのぞき込んでいた。


「ちょっと、だめだよ。壊しちゃ…」

「アオイさん、この短刀すごいです。この茎尻から伸びる印紋が刀身全体にまで魔力を循環させていて……」


 アオイにはヒスイが何を言っているのか全然わからなかった———わかったのはヒスイを放置するとずっと竜の宝剣で遊んでしまうということだ。

 アオイはヒスイを無理やり連れ出すことにした。宿の食堂に行くと小規模な商隊が数組情報交換をしていた。


「俺達は魔石を運んでいるんだ。質の良い魔国産を買い付けて運んでいる」

「バールミン領には性能の良い魔道具を作る工房がたくさんあるからなぁ。あと、最近、森林地帯に賊がでるって噂だ。護衛はいるのかい?」

「ああ、使い手を二人雇っているよ」


 アオイとヒスイは聞こえてくる会話に耳をそば立てていた。


「賊ねぇ。使い手の二人って彼らかな?」

「そうみたいですね」


 二人の視線の先にいたのは少年だった。


「ありゃダメだね」

「ありゃダメです」


 使い手なのだが所作が隙だらけだ。


「不思議なんです。アオイさんは一見すると彼らより隙だらけです。どういうんです?」

「ふふん、強者が身につける極意ってやつよ」


 アオイがそんな極意を身につけているはずはない。ただズボラなだけだ。


「それよりも賊の話も気になるし、商館に行ってみようよ」


 二人でベンネル村を散策することにした。アオイはちょっとだけ少年たちの視線が気になった。





 ベンネル村は小さな村だ。数刻も歩くと行くところが無くなってしまった。商館にも行ったが有益な情報は無かった。

 特にすることも無くなったので、宿に戻って二人は風呂へ入ることにした。風呂は小さかったがほかの客はいなかったのでゆっくりすることにした。


「ヒスイはスタイルが良いなあ。」


 脱衣所で服を脱ぐヒスイをみてアオイがしみじみと言った。実際、ヒスイは素晴らしい身体をしている。容貌とあわさり女神像のようだった。


「や、や、やめてくださいよ。アオイさんだって素敵じゃないですか!」

「ヒスイより胸は大きいけどねー」


 ヒスイはアオイの裸体を見て、きれいだなと思った。そんなヒスイへアオイはそっと近づくと、後ろから抱きしめて、


「洗いっこしようか?」


 耳元で囁いた。ヒスイはアオイのすべすべした肌の質感に感動しながらも赤面した。


「や、や、いやですよ。私、先に入っています」


 湯船に入るとここ数日の疲れが溶けていくようだった。


「はあ、大きいお風呂はのんびりできて良いね」

「私、アオイさんの家のお風呂も好きでしたよ」


 この水質は美肌、筋肉疲労、リュウマチ、神経痛などに良いそうだ。二人は思う存分身体をのばして身体を休めた。しばらくして。


「アオイさん!」

「うん、わかってるよ。こりゃ覗きだね。殺意が全くない」


 湯船に入りながら二人は人の気配を感じていた。


「殺っちゃいますか?」

「ヒスイは何て物騒なことを言うんだよ」


 本当に殺しそうな顔をしているヒスイを宥めていたアオイは驚くべき提案をした。


「見せつけてやろうぜ!」

「な、な、なに言っているんですか!ダメです!絶対にダメです」

 

 アオイはニヤっとヒスイに笑いかけると、人の気配がするドアの方に向かって全裸で立ち上がった。

 ヒスイが慌てて押さえようとしたが間に合わなかった。————次の瞬間、鋭く容赦ない殺気が、“覗き”へまっすぐ向けられた。



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