15:第三王子との邂逅(アルシオ視点)
そのまま、アルシオはメーテルと一緒に庭を歩く。
メーテルはドレスを着た経験がなかったが、これまで練習してきたので歩き方も慣れてきたみたいだ。
不自然な部分はない。
もともと足腰が丈夫なのもあって、ドレスをモノともせずに、すいすいと庭を進んでいく。
アルシオは王女のお付きの騎士を装い、彼女のあとに続いた。
そうして前方を眺め……急遽メーテルを呼び止める。
「おい……」
できれば見たくないものが、目に飛び込んできたからだ。
「メーテル、ストップ」
声をかけると、彼女はピタッと足を止め、不思議そうにアルシオを振り返った。
「なんでしょう?」
眼鏡を外したメーテルは近視のため、遠すぎるものはよく見えないし、離れた場所の人間の顔も識別できない。
現に、向こうの気配は感じ取っているものの、誰がいるのかまでは把握できていないようだ。
面識がないというのも理由の一つかもしれないけれど。
「気をつけろ、メーテル。前方に第三王子一行がいる」
「……?」
メーテルは目を細めて前を向いた。
おそらく、誰かがいることはわかっているが、ぼんやりとしか見えていないのだろう。
「第三王子、確かアルシオさんが以前『暗い』と仰っていた方ですね……」
「そうだな。まあ、王子の中ではハインリーの次に害がない」
害がないというより、やる気がない。
ハインリーのように、次の王になろうという意思があるのかさえ疑わしい。
ただ、周りに言われるがまま動いている王子だ。
「あちらの方々は、大丈夫そうな感じですか? あちらに殺気はない様子ですけど……」
「王子自身はな。だが、妃や取り巻き――つまり、外野が厄介なんだ」
「外野……ですか……」
第三王子のいる方向を確認すべく、メーテルは再び目を細めた。
「あいつの母親は王女だったから、プライドが山のように高い。そして、息子にも自分と同じであることを求めるんだ。周りも王妃の意を汲み、そのように行動する」
「つまり……?」
「王子自身が無害でも、その周りが有害だということだ。気づかれないうちに、回れ右をして帰るぞ」
「……了解です」
しかし、向こうがこちらを見つけ、声をかけてくるほうが早かった。
「おや! そちらにおられるのは、もしや、ベツィリア王女殿下では!?」
話しかけてきたのは、王子ではなく、その傍らにいたローレンスという老齢の侍従。
(昔からいる、ベテランの侍従なんだよな)
線の細い、モノクルをかけた老人だけれど、声は溌剌としている。
彼は王子の付き人というよりはお目付役で、他国からついてきた妃の忠実な部下だった。
呼び止められたからには、無視もできない。
向こうは三人、こちらは二人だ。
「メーテル……なるべく俺が対応する」
アルシオが、そっとメーテルの前へ出た。
「大丈夫ですよ。私も王女様らしい話し方を練習しましたし」
「建国祭の前に、なるべく危険を冒したくない」
今日の目的は、ベツィリアの存在を緩く周囲に知らしめることだ。
第三王子の執事とやり合うことではなかった。
護衛騎士としてのアルシオが前に出たせいか、向こうの護衛騎士も第三王子の前に立つ。
ガタイのいい、妃と同年代と思われる中年の男だ。
王宮の庭で、静かに騎士同士が睨み合う形になった。




