表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モサモサ眼鏡なのに王女様(♂)の影武者なんて無理です!  作者: 桜あげは 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

11:第二王子VSモサモサ眼鏡

「ふん、兄上は留守と聞いたが……侍女が残っていたのか。全員出掛けたんじゃなかったのか?」

「……!」


 彼の言葉で、メーテルは相手に当たりを付けた。ハインリーの弟王子の誰かだ。

 そして、彼が連れている侍女の制服は臙脂色。


(臙脂色は第二王子の侍女……だったはず)


 普段は別の棟で過ごしているため、第二王子の侍女たちは遠目に見たことしかない。

 接触したのは、今回が初めてだ。


「カイル様、いかがいたしましょうか」


 侍女の一人が第二王子に尋ねる。


「ふん、侍女など捨て置け。今のうちに部屋を荒らすぞ。そこに積まれた書類も破り捨ててやれ!」

「なっ……!」


 メーテルは焦った。


(部屋を荒らすって、どういうことですか? 私、掃除をしたばかりなんですけど!)


 それに、書類の破棄なんて言語道断だ。


(今朝、ハインリー様が一生懸命確認していたものですのに!)


 書類がなくなって困るのはハインリーだけではない。

 それに関わった多くの人が迷惑を被ることになる。

 第二王子なのにそんなこともわからないなんて……。


(クズですね)


 ぶわっと殺気を纏ったメーテルは、ゴミの入った籠をガサゴソ漁りながら、カイルたちの前に立ちはだかる。


「なんだ、侍女。そこをどけ」

「いいえ、退きません。ハインリー様の留守中に、お部屋を荒らしたりはさせません」

「生意気な……おい、この女を押さえておけ」


 命令された侍女たちが、メーテルを拘束しようと近寄ってくる。

 しかし……。


 その瞬間、メーテルは籠の中から、先ほど捨てた毒蛇の死骸を引っ張り出した。

 それを侍女たちのほうに向けてブンブンと振り回す。


「キャアアアアッ!! へ、蛇!? なんで!?」

「嫌ぁぁぁぁっ、こっちに来ないでぇっ!」

「や、やめて! 服に血が、血が付きましたわぁぁっ!!」

「…………!!」


 室内は阿鼻叫喚状態になった。

 侍女の一人は、あまりの恐怖に白目を剥いて倒れている。


 真顔で毒蛇を振り回しながら、メーテルは逃げ出す侍女たちを追う。

 それを見たカイルは狼狽え始めた。


「お、おい、その蛇……! やべえ毒を持ってるやつじゃないか! やめろ、近づけるな!」


 先ほどの威厳に満ちた横柄な態度はどこへやら。

 へっぴり腰で逃げだそうとしている。


「あら、よくご存じですねえ。もしや、備品の箱に蛇を入れたのはあなたですか!?」

「知らん! 向こうへ行け! 毒が飛んだらどうする!」


 カイルは涙目だ。


「大丈夫ですよぉ……毒獣に比べれば可愛いものです」

「毒獣なんて、王宮にいてたまるか!」


 メーテルはいつまでも出て行かないカイルに向けて毒蛇を投げつける。

 蛇が当たった瞬間、いい悲鳴が上がった。


「く、くそ、私をこんな目に遭わせるなど不敬な! あとで兄上に苦情を入れてやるからな!」


 捨て台詞を吐き、王子は我先にと部屋から逃げ出す。

 そのあとを、気絶した侍女を引きずった三人の侍女たちが慌てて追っていった。

 メーテルは片手で毒蛇を握ったまま、侵入者が去る様子を見つめる。


「……淑女らしからぬ行いをしてしまいました。蛇を振り回すなんて、イレイネスの悪ガキのような所業です。おっと、ガキは上品な言葉ではありませんね。侍女らしく口調を改めなければ」


 扉を閉め、蛇を籠に戻す。

 少し蛇の血が飛び散ってしまったが、部屋は荒らされずに済んだ。


(モップで水拭きしましょう)


 それにしても、どうしてカイルはハインリーの不在を知っていたのだろう。


(それに、侍女が全員出掛けたことも知っていました)


 どこかに、侍女たちがカフェに行ったことを知らせた人がいたのだろうか。

 それとも、侍女の中に内通者でもいるのだろうか。


 考えていると、またしても扉が開き、今度はハインリーが入ってきた。

 若干、余裕のない表情を浮かべている。


「あ、ハインリー様……お帰りなさいませ」


 表情を取り繕い、メーテルは彼を出迎えた。


「ただいま、メーテル。ここへ来る途中でカイルとすれ違ったのだけれど、何もされなかったかい? 彼がここへ来るのは、私への嫌がらせをするときくらいなのだけれど……」


 そう言って、彼は部屋を見回す。


(あ、まだ蛇の血を拭けていません。まずいです)


 しかし、メーテルが動くより、ハインリーが血痕を見つけるほうが早かった。


「メーテル、どこか怪我したの? 床に血が落ちているけど……」

「あ、いいえ。これは私の血ではなくて蛇の……」

「蛇?」


 言い逃れが苦手なメーテルは、気まずい表情を浮かべながら、ごそごそと再び籠から毒蛇の死骸を引っ張り出す。

 そして、ハインリーに見せた。


「……一応、退治はしたんですけど」


 ざっくりと、毒蛇を退治するに至った経緯を説明する。


「……というわけで、備品の箱を確認していたらこの蛇がいて、飛びかかってきました。咄嗟に近くの羽ペンでブスリと……運良く命中してよかったです」


 若干無理のある説明だが、ハインリーは一応納得してくれた。


「なるほど。メーテル、次から備品を確認する作業は私がするから、君は安全な仕事だけをするように」


「何を言っているんですか。ハインリー様が箱を開けるほうが駄目じゃないですか」


 思わず言い返してしまった。彼は第一王子で守られる対象だ。

 だが、口に出してしまってから、ハッとする。


「す、すみません。私ってば、偉そうに……」


 そんなメーテルの様子を見て、ハインリーはくすりと微笑む。


「いいんだよ。私を心配してくれたんだよね」

「はい……」


「他に危険物はなかった?」

「………………」

「あったんだね?」


「怪しい贈り物や、脅迫文などが……あ、ラブレターは何も仕込まれていないのを確認して、机の上に置いています」


「またラブレターか……困ったね。どう考えても私の婚姻は、こういった手紙で左右されるようなものではないのだけれど」


 メーテルは黙って頷く。その通りだった。

 ハインリーは何もなければ次の国王になるだろう。

 その妃がラブレターなんかで決まるわけがない。

 にもかかわらず、ハインリーは何度かもらっているようだ。


(侍女たちにも人気ですからね。優しい方なので)


 大変整った見た目や、次の王位に最も近いことなども人気の理由なのだと思う。


「カイルたちには何もされていない?」

「ああ、ええと、蛇を持ったまま追いかけたら、皆さん驚いて逃げて行かれました」

「ぶふっ……メーテル、面白すぎ……」


 思わずといった様子で、ハインリーが吹き出す。珍しい光景だ。


「ごめんね、まさかそんなことになっていたなんて。君が無事でよかったよ。弟にはあとで抗議しておこう……ところで、他の侍女は?」

「あ、その……」


「正直に話していいよ。君が告げ口したとは言わないから」


「王都のサロンでお茶会だそうです。私も帰っていいと言われたのですが……」


「そんなところだと思った。私が留守にすると、すぐこれだ」


 ハインリーは慣れている様子だ。


「止められなくてすみません」


「大丈夫、元々彼女たちには期待していない。機嫌を損ねずいてくれれば、親も満足するだろうからいいんだ」

「えっと……」


 それだとハインリーの負担が増えるばかりではないのだろうか。


(侍女とは……)


 メーテルは若干遠い目になる。


「それにね、メーテル。アレを止めるのは、新人の騎士の娘には難しいよ。侍女長は侯爵家の人間だし、下手に動かないほうがいい……さて、煩いのがいないうちに、仕事を片付けてしまわないと」


(……ハインリー様……今、「煩いの」って言いました)


 彼も、あの侍女たちには思うところがたくさんあるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ