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リクアへの旅立ち

チェンが家族との縁を切り、一人暮らしした場所は海の見える村だった。

白くキラキラとした砂浜とアクアマリンのような美しい海が窓からの景色に広がっていく。

だがこの世界は海はとても異質なもので、海には【水神族(すいじんぞく)】という種族が住んでいる。



水神族とは、主に水辺に暮らす人と龍神の血を持つ人間で、基本的には水属性の魔術を得ている。

逆に、水属性以外の魔術を使うことができるのは珍しい。

ゲームとして、この世界は主に海に関係しており、クエストの小ネタで登場する人魚伝説やヒロインの装備や着せ替えで使うドレスの種類も豊富。そして攻略対象の一人も水神族が含まれている。



シナリオでは、聖女であるヒロインは水神族が栄える海底の国リクアにいる魔物を攻略対象たちと共に倒すということがRPGでの内容。

魔物はいわゆる世界を破滅に導く悍ましい存在で、水神族の王族ですら倒すのが困難。そこで魔物を倒すには浄化の力を持つ聖女が必要なのだ。

フレイル王国の王族達は自国で信仰するアンネル教の聖女は女神の生まれ変わりだという言い伝えにより、ヒロインのリリスは聖女の力を持っていることから、彼女に魔物の討伐を命じる。

そしてリリスは婚約破棄のイベント後、学園を卒業して攻略対象のジル達と討伐のために旅をするということ。

最終章では魔物を倒して世界は平和になると安堵したリリス達は王国に戻ると、王国は燃え盛る炎が広がり、かつての学園の者達が殺害され無惨な状況になっていた。彼らは王に状況を尋ねると、リリス達が旅をしている間に恐ろしい悪魔の姿をした女が突然やって来たらしい。

悪魔は何者なのかと思っていると、灰色の空から聞き覚えのある声がした。

一同が顔を見上げるとそこには、ジルに婚約破棄されたホワンだった。

ホワンは皮肉にも、黒いフィッシュテールドレスの似合う姿が酷く美しく

ルークやアラン、ジンは恨めしそうに彼女を睨んでいる中、ホワンはジルに愛とも憎しみとも言える表情でジルとリリスに顔を向ける。

彼女曰く、ホワンは婚約破棄を宣言された後、両親から勘当され、これからは妹のチェンと二人で暮らすことを決めていた。だがある日、チェンが行方不明になりホワンは何月もかけて捜索した結果、チェンはアンネル教の教徒達による集団暴行が原因で死んでしまった。

教徒達曰く、ホワンは聖女リリスを苛んだ公爵令嬢の顔を被った魔女。そしてチェンはその悪女の妹なら妹も公爵令嬢の顔を被った魔女であると判断し、姉が待つ家に帰ろうとするチェンを拉致して魔女狩りのように死ぬまで甚振っていたらしい。



理不尽で自分勝手なアンネル教の教徒によって愛する妹まで失ったホワンは、両親も学園の関係者も、アンネル教も、その宗教を信仰する王族も、そして無自覚に自分の婚約者を奪ったリリスも、冷酷で無関心な顔で婚約破棄を宣言したジルを恨み、悪魔に全てを捧げたということだ。

ストーリーでは魔物はボスの一つに過ぎず、真のラスボスはホワンだったのだ。

しかしゲームの構造上、ホワンはリリス達によって倒されてしまい、悪魔と契約した代償でホワンは消滅した。



これがストーリーの主な内容。

恐らくあの女は、婚約破棄イベント後、ホワンがシナリオより直ぐに死んだことになっても

アンネル教の聖女補正が故に、誰彼構わず慕われることを夢見ていたのだろう。

聖女=女神という論理が正しい乙女ゲームの世界こそが、彼女だけが幸せになるハッピーエンドだろう。

勿論チェンは、復讐相手にそのようなことを許す権利など認めていない。

復讐のためなら、ゲームのシナリオに反してでも実行する覚悟があるのだ。

チェンは復讐の一つとして、リリスの前世をもっと細かく調べるために能力を発動させた。

だが聖女の力が強力なのか、いつもみたいに映るのかと思いきや、淡いパステルカラーのモヤがかかって見ることができなかった。

いつもなら映像のように映し出されて、そこから前世の相手がどんなことをしていたかがはっきり分かるはずなのに、リリスだけ初めて前世を見ることができないことに、チェンは疑問に思った。



「もしかして、アンネル教が何か関係しているのかしら⋯?」



アンネル教の聖女は信仰元の女神アンネルの生まれ変わりという言い伝えの下、ヒロインは女神同様に信仰される。だとすると、何故神域にいる神達はあんな女をヒロインとして転生させたのだろうか。

だがチェンは、一つだけある方法を思いつく。

ゲームのシナリオでは魔物の討伐には聖女が必要。

でもその聖女というのはあくまで浄化の力を持っていることが優先であって、アンネル教の聖女が必ず必要だとは一切明記されていないし、もう一つ思い当たる節がある。

フレイル王国ではアンネル教が存在するが、海底の国リクアには深海の女神メーラによるメーラ教も存在する。メーラ教は女神メーラの慎重な判断によって聖女が選ばれる。そして聖女も教徒と同様女神を信仰する立場なのだ。



聖女を女神として信仰するアンネル教と、教徒ど同様に聖女も女神を信仰するメーラ教。

どちらも異なる教えから、チェンが思いついたのはメーラ教の聖女になることだった。

女神に聖女として認められるにはリクアに蔓延る災いを打ち消さなければならない。いわゆる、メーラ教の聖女になるために必要なクエストをクリアしなければならないということ。

リリスが学園を卒業して、ジル達と仲睦まじく、贅沢な生活を謳歌している間に魔物を倒すストーリーを解決することだ。



目標が決まったチェンはリクアに旅立つために、荷物の入った鞄や身分証⋯そして淡い黄色の日傘を準備した。

この日傘はかつて姉が愛用していたもの、つまり形見である。幼い頃は淡い黄色に白いフリルが施された傘は女性心をくすぐるデザインでチェンが密かに欲しかったもの。姉はそんな妹に「同じ物を買うことはできないけど、私が使わなくなったら使ってもいいよ」よ優しく宥めた思い出がある。

そして、姉が故人になったことで必然的にこの日傘はチェンが任意で使うことになった。



「⋯やっぱり今でも姉さんが使ってた傘、可愛くて好きだな」



この傘が姉そのものだと思ったチェンは決して壊さないよう傘袋に黄色の傘を入れた。

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