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自●の表現が含まれてますのでご注意ください!!
ジル様から婚約破棄されて2日が経つ。
両親は元々私達に期待していないため、姉さんと私直属の使用人達しか姉さんの様子を見なかった。
使用人に1日中の姉さんの状態を聞いても部屋すら入れてもらえないらしい。
私も一度は様子を見ようとノックしても姉さんは「一人にしてほしい」と、それしか言わなかったもの、状態なんて分かるわけないじゃない。
でも一日食事を抜いても、2日間も水を飲んでいなかったら危険だ。
私は使用人に頼んでグラス1杯分の水を用意させる。そしてその水を姉さんの部屋まで届けるつもりだ。
使用人は主人の手を煩わせるわけにはいかないと止めていたが、今は主人とかそんなことを気にしている場合じゃない。
「姉さん、私です。」
3回ノックしてみたのだが、姉さんの返事はない。
「飲んで少しでも気が落ち着いたらいいと、水を持ってきたの。」
理由を話しても、姉さんの返事が返ってこない。
あんなに泣いていたから疲れて眠ってしまったのだろうか、私は「入りますよ」と念の為に伝えてドアノブを回す。
⋯だが、部屋の中の様子は私の予想以上の事態が起きていた。
「⋯⋯⋯え?」
カーテンは閉め切っていて、床には置物や写真立てが割れてガラスの破片が散らばり、勉強机の椅子は倒れ込んでいる。
そして、その椅子のちょうど上には
「⋯⋯ねえ、さん⋯⋯⋯?」
姉さんは部屋の天井に吊るされているシャンデリアのすぐ下に立っていた。
蝋燭に火は灯しておらず、腕木にはギチギチと丈夫な縄が通されている。
⋯いや、違う。
姉さんは立っていない。縄はシャンデリアの腕木だけ吊るされていない。
姉さんは⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「あ、あ⋯⋯!いやあああああああああ!!!姉さん!!姉さぁぁん!!!」
姉さんの首にはチョーカーのように赤く腫れた曲線。
そして焦点の合っていない目。
薔薇が美しさを保っているはずが、重さに耐えきれずに萎れていくかのように頭から項垂れている。
目元には泣いた跡のように赤色の肌があらわになっている。
私は涙が止まらなくなり、持っていたグラスを放して姉さんの元に駆け寄る。
思考回路がぐちゃぐちゃになっても、冷静になるためにしっかり呼吸するつもりで勉強机の引き出しを漁る。
紙類を切るためのナイフを取り出して、シャンデリアの体に通じる縄をノコギリのように切ると、姉さんの体は零れ落ちるように倒れ込む。
すると数人の使用人は私の悲鳴に気づいて慌てて駆け寄ってきた。
焦った様子だったが彼らも事の惨状に気づいたのか、使用人達も冷静でいられなくなるほど気が狂っていく。
大切なものが一瞬で消えたことに涙を流すメイドに、必死に姉さんの体を震わせて意識を取り戻そうとする執事、病院にいち早く通報しろと促す執事と何人もの使用人が絶望した。
「そんなっ⋯!ホワン様!ホワン様、聞こえますか!?」
「おい!誰か早くホワン様に心臓マッサージしろ!」
「チェン様、大丈夫ですか!?」
使用人達は私の心配もしているが、私はショックで次の言葉が出てこない。
当たり前だ。姉さんは誤解が生まれてから破棄に至るまで必死に感情を殺して相手を信じ続けた結果、誰もそんな彼女に手を差し伸べるようなことはなかった。
両親が不機嫌そうに部屋を覗いていると、「面倒事を増やしやがって」と毒を吐いた。
いくら子供に関心が無いとはいえ、実の子供が自ら命を絶ったことに何も感じないことに私は苛立ちを募らせていく。
⋯なぜ、この世は姉さんを幸せにしてくれないのだろうか。
ミサキが転生したことで何か人生に転機が起きて、姉さんが幸せになれる世界線があったはずなんじゃないのか。どれだけ足掻いても、どれだけ努力しても、姉さんがこの『ゲームの世界の悪役令嬢』だから幸せになれないのか。
⋯意味が分からない。
数日後に慌てて行われた姉さんの葬式。
姉さんは公的に『聖女を弄んだ悪女』と称されたため、姉さんの遺体は罪人共通の墓地へ送られた。
私や専属の使用人達が悔やんで泣いても両親はおろか、かつての同級生達は出席しなかった。
胸の中で何かが空いていて、世界がモノクロームになる幻覚が見えてしまいそうだ。
頭が重く感じながらも、誰もいなくなった姉さんの部屋に足を運んでみる。
姉さんが死んだことでこの部屋はおそらく、母がドレスや宝石やアクセサリーを収容する巨大なクローゼットに変わっていくのだろう。
使用人達は忙しそうに姉さんの私物や家具を片付けている中、私は姉さんの勉強机の引き出しに手をのばす。邪な理由はない。せめて姉さんが大事にしている写真などは大切に保管しようと思って、引き出しを開けてみると。
「⋯これは?」
引き出しの中には、白と黄色の2通の手紙。
白の封筒には「両親・使用人・同級生へ」と書かれている。
そして、黄色の封筒には「私の妹 チェンへ」と書かれていた。
姉さんは自殺する前に、部屋で引きこもっている間に遺言書を書いたということか?
でも何故、姉さんは私だけ違う手紙に書いたんだ?
私は使用人と両親の目を盗んで、いそいそと自室へ走り込む。
窓の外に誰もいないことを確認して、私は黄色の封筒から手紙を取り出した。
手紙の内容は次の話に書きます。




