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死神の血濡れた手  作者: 紫月
第一章 エクエス軍拡編
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9.成り立ちと疑惑

部屋を出て、外で待っていたイングリットと合流した後、学院にあるさまざまな研究室を見て回った。星の動きによる神託だとか、不老不死や賢者の石だとか、中世らしいテーマを扱っている学者が多かった。


「この辺の連中に、イシュタムが死神だと告げたら解剖されるんじゃないか?」


「どうだろうな? 異端審問にかけられて血祭りかもしれんぞ。……そういえばイングリット、この国には宗教はあるのか?」


「はい、エクエス正教という宗教が信仰されています。

大昔、もともと一つだったイーオン法国とエクエス帝国をまとめていたとされる、女神天使セラフィナ様を崇めている宗教です。」


「もともと一つだった? じゃあなぜ戦争なんてしてるんだ? 」


「そうですね……せっかく学院にいるのですし、学者様に伺ってみては如何でしょう? 時間もありますし私の説明よりも詳しい話が聴けると思いますよ」


「ふむ、そうか。なら、さっきの眼鏡君に――」


「いえ、私が探してきます。ミハイルさんとイシュタムさんはここでお待ちください。絶対に。」


断固とした表情でそう言うイングリットは、騎士らしい気迫に満ちていた。


――


イングリットに連れられてやって来たのは、教室のような場所だった。著名な史学者に、この国の成り立ちと戦争に至るまでの流れを授業してもらえることになったのだ。


「……イシュタム、やけに嬉しそうだな?」


「私はこう見えてスクールライフに憧れていてな。美形の男性が漕ぐ自転車の後ろに乗って、潮風につつまれながら、海沿いの街の坂道を下っていくのが夢だった。」


「ずいぶん具体的な夢をお持ちなんですね……」


イングリットと俺は少し引きながらも、楽しそうなイシュタムと共に学者の授業を聞いた。


「いいですか?まず、もともとエクエス帝国とイーオン法国は、“エクイノス法国”と呼ばれる一つの巨大な国でした。

魔法と鋼鉄の力により、ブラエ魔連邦やアルヴァーナ王国とも友好的な関係を築いていたとされています。ですが大きな問題がありました。それは当時の法王エクイノスが類を見ない愚者だったのです。」


「彼にはカリスマ性も知性も品格もなく、外交手腕はその辺の商人の方がまだマシという有様でした。実際に国をまとめていたのは、セラフィナと呼ばれた美しい女性だったのです」


俺はここまで聞いて、展開がなんとなく読めた。イシュタムも同じ考えだったのか、ニヤニヤしながら学者を見つめていた。するといきなり、イシュタムは席を立った。


「なるほどな。法王エクイノスはセラフィナに嫉妬し、内乱を起こしてセラフィナを殺したんだろう。

そして魔法の力を恐怖政治で独占。読めたぞふふ...」


いきなり自信満々に語り出したイシュタムは、ベラベラと喋った後ドヤ顔をしていた。そんなにスクールライフに憧れがあるのだろうか。死神って義務教育とかあるのか?


「いえ、違います。セラフィナが法王エクイノスを殺害したのです。ある日、法王エクイノスはセラフィナの娘エリエナに手を出しました。激怒したセラフィナは、彼を槍で貫いたと伝わっています」


学者は無慈悲に否定すると、歴史的にはよくある事だが、胸糞の悪くなるような話を続けた。


「……クズはとことんクズだな。だが、曲がりなりにも王だ。セラフィナは立場を追われることになる……なるほど、実権を握りたい王派とセラフィナを慕う民で対立し、内乱に。セラフィナはエクエスへ、旧王派はイーオンへ分かれた、というわけか」


「その通りです。さらに、セラフィナ様の娘エリエナは妊娠していたのです」


イングリットとイシュタムは顔をしかめた、もしここにエクイノスがいたなら、間違いなくタコ殴りにしていただろう。


「子は王とセラフィナの血を継ぐ者。御旗に掲げるには最適な存在です。両陣営は血眼になってエリエナの子を探しました。彼女たちを守るために立ち上がったエクエス人さえも。ですが、エリエナとその子、さらにはセラフィナ様すらも忽然と姿を消したのです。ちょうどその頃、国民全員が魔法を使えなくなり、どこからか、彼女達は天使だったのでは無いか、と噂されるようになりました。魔法が使えなくなったのもセラフィナたちの怒りを買ったからだと信じられるようになったのです」


「そして200年前のある日、驚くべきことが起きました」


学者は興奮気味に続けた。


「法王エクイノスが率いるイーオン魔導軍が、エクエスを攻めてきたのです。セラフィナに復讐し、エリエナを手に入れるために。――地獄から蘇ったのです!」


死者が蘇る……! それを聞いて、俺は真っ先にイシュタムを見たが、イシュタムは首を振っていた。


「彼らだけはなぜか未だに魔法を使用でき、そのため私たちは苦戦に次ぐ苦戦を強いられ、今日までなんとか生き延びてきたのです」


情勢は理解できたが、俺はそれ以上に「死者が蘇った」という話が気になっていた。実際に死から蘇った存在を見たことがある身としては、なおさらだ。


教室を出ると、渡り廊下に夕日が差し込んでいた。


「イシュタム、死神は他にもいるのか?」


「当たり前だろう。私一人で魂の回収業務をやるなんて、過労死してしまうぞ」


死神が過労死なんてよく言うものだと思いつつ、さらに問い詰めた。


「他の死神が干渉している可能性は?」


「ゼロではないな。私もすべてを把握しているわけではない……だが、可能性があるなら……」


イシュタムは言い淀んだ。授業中も、時折何かを考え込むような素振りをしていたのを思い出す。


「死神ではない。全知全能の神の使い――天使が関わっている可能性の方が高いかもしれんな」


「天使? 天使がなぜ……」


天使といえば、純粋で勧善懲悪の平和主義者というイメージだ。だが、彼らが干渉する必要があるのか? 戦争を止めようと? それとも止めようとして、失敗したのか?


「今は考えても仕方ないな。とりあえず、イングリット、この辺に宿屋とかあるか? 日も傾いてきたし、今日はここまでにしよう」


俺とイシュタムは、少し遅れて教室から出てきたイングリットと共に学院を出て、近くの村にある宿屋へ向かった。


「――あっ! ミハイルにイシュタム!! イングリットも!」


「おう、お前たちか。無事で何よりだ」


宿にはエドガーとカミラも泊まっていたらしく、俺たちは今日の出来事や戦争の細かい内情を語り合いながら、夜を過ごした。

ーー


翌日。眼鏡君は昨日より更に元気になった状態で

完成したリストを見せてくれた。


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