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死神の血濡れた手  作者: 紫月
第一章 エクエス軍拡編
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8.飽くなき探究心

領主との話を終えたあと、エドガーの案内で、まずは馬を借りるため騎士団の詰所へ立ち寄った。


「お前たちを案内するのは癪だが、領主様の命令だ。命だけは守ってやる。おい、イングリッド! カミラ!」


「「はっ!」」


「この二人も連れて行く。青髪がイングリッド、赤髪がカミラだ。」


「イングリッド・ホークです。」


「カミラ・ヴェインだよ!! よろしくね!」


イングリッドは深窓の令嬢のようで、カミラはお転婆娘といった感じだった。エドガーのような壮年の渋い騎士が連れ歩くには、いささか不似合いなほどの美人騎士たちである。


「俺はミハイル・ブラディミールだ。よろしくな」


「イシュタムだ。可愛らしい護衛がついて嬉しいぞ」


「それで、ミハイル、まずどこに向かうんだ?」


「領主様が教えてくれた、錬金術師や科学者、占星術師が集まる学院に行きたいんだが、場所は分かるか?」


「はいはーい! カミラ分かるよ! 裏門から出て南東に4時間ぐらい進めば行けるよ!」


「ありがとうカミラ。エドガー、そういうことだ。馬の用意を頼む」


「言われなくても」


騎士三人組が鎧や武器の支度を始めるのを眺めながら、そろそろ自分も武器が欲しいなと考える。もっとも、ライフルが出来上がるのは当分先だし、剣や槍の経験はない。となればクロスボウあたりを借りるのが無難だろう。


「ミハイル、武器より先に服装じゃないか?

私たちはいまだに来た時の格好のままだ。さすがに目立ちすぎるぞ」


「確かにな。俺の軍服はともかく、お前のドレスは旅には不向きだよな」


「エドガー、騎士団の詰所に余っている装備や衣服があれば貸してもらえないか?」


――


エドガーが持ってきてくれた騎士団の備品らしき黒いチュニックに身を包み、ナイフとクロスボウを腰に下げて裏門を出発した。


「ミハイル、黒騎士みたいで格好いいじゃないか」


「茶化すなよ……そういえば、もう馬には慣れたのか? 前と比べたら全然怯えてないが」


「ああ、どこかの誰かさんの悪戯のおかげでな? まったく、お前は騎士道を学んで女性への接し方を鍛え直した方がいいんじゃないか?」


「悪かったから、そう怒るな」


じゃれ合っていると、カミラが近寄ってきた。


「二人ともずいぶん仲が良さそうだけど、恋人なの?」


「そんなわけないだろ。見ろ、この俺を見る殺人的な目つきを……」


「……聞いたか? カミラ。女性の外見を揶揄するこんな男をお前はどう思う?」


「仲良いんだね!!」


先を行くイングリッドとエドガーを尻目に、俺たちは言い合いながら学院へと向かった。


――


荘厳な宮殿のような外観の学院に到着すると、俺たちを迎えたのは燕尾服を着たやつれ顔の老人だった。俺はこの時点で嫌な予感がしてきた。中世の学者というのは、得てして傲慢で面倒なものだ。知識や発想は確かに凄いのだが、人間性が腐っているというか……。まあ、ここは異世界だし、大丈夫だろう。


「そうだ、ミハイル。伝えるのを忘れてたんだが、俺とカミラは近くの村の穀物量の調査も領主様に頼まれている。先にそっちを済ませてくる。その間イングリッドを残すから、何かあったらこいつを頼れ。終わり次第合流する」


「まあ、どうせ俺の調べ物も時間がかかりそうだし、ちょうどいいな。じゃあまたな」


「またねー!!」


二人が去ったあと、俺は案内役の老人にグレースの紹介状を見せ、イングリッドとイシュタムと共に学院の中へと進んでいった。


「綺麗な場所ですね。装飾も豪華ですし、壁に飾ってある絵も著名なものばかりですわ……」


「ん? 今、“ですわ”って言いませんでした?」


「……気のせいでしょう」


「ミハイル、さっさと学者を探せ。観光に来たわけじゃないんだぞ?」


「……執事さん、この国の資源に詳しい学者に話を聞きたいんですが」


そう伝えると、どこからか眼鏡をかけた青年が現れた。


「君! 資源! 資源について知りたいのかね? ということは私の学派に入りたいのかな? うんうん、君の深層心理に眠る飽くなき探究心は、今すぐにでも私の学派に入り研究をしたいと願っているね!」


うわ。


俺はこういうタイプが一番嫌いだった。こちらの話を聞かず、一方的に謎の論理をぶつけてくるインテリは大抵ろくなことをしない。だが知識だけは本物で、馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだ……。


「ミハイルさん、私怖いです」


イングリッドは護衛のくせに眼鏡学者に怯え、逆にイシュタムは楽しそうにしていた。変人や狂人が好きそうだしな、お前。


「私は領主様の命令でやって来た異国の研究者だ。この図面の物を製造するのに君の力を貸してほしい」


俺はライフルのことを包み隠さず話した。殺人に手を貸してほしいと言っているようなものだが。


「構わないよ。私の知識は活かされるためにある。使われない知識など貯める意味がないからね。私についてきたまえ……研究室に案内してあげよう」


――


研究室はとにかく汚く、さまざまな鉱物資源が並べられているせいで独特の匂いが漂っていた。イングリッドは秒で退室し、イシュタムですらしかめっ面を浮かべる。だが俺は、この研究気質な部屋を嫌いではなかった。


「とりあえず、俺が知っている資源と君が知っている資源の情報を擦り合わせたい」


俺は効率を考えて、鉄などの鉱物資源から綿花などの天然資源まで、とにかく書き殴った紙を見せた。


「このリストにない物をすべて教えてくれないか? 書き漏らしもあるかもしれないが……よろしく頼む」


眼鏡の青年はレンズをクイッと押し上げ、紙を見つめて興奮し始めた。


「やはり! 君は資源に興味がおありみたいですね! それにかなりの知識量……ただ者ではありませんね! 分かりました、友よ! 三日……いや、一日で! 君が所望するリストを作り上げてみせましょう!」


大袈裟に騒ぐと、彼は急に黙って棚から大量の本を取り出し、紙を見ながら「あーでもない、こーでもない」とブツブツ言い始めた。


「ミハイル、この部屋……卵が腐ったような匂いがするのはなぜだ?」


1秒でも早く部屋から出たそうなイシュタムと共に、俺は一旦研究室を後にした

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