1.引かれたトリガー
道が見つけられなければ
作るのだ。
ハンニバル・バルカ
ー1990年代 どこかの国の、ありふれた戦場ー
息を吸って吐き、引き金を引く、
また息を吸って吐き、引き金を引く、
俺が、誰かが右手の人差し指を動かす度に、
世界から命が消えていく。
大気が砲撃により振動する
隣で銃座についていた味方は
弾薬補給の間に頭を撃ち抜かれて屍になっていた
常人なら怯えて足が竦むのだろうか?
仲間がやられた憎しみで怒りで奮起するのだろか?
乾いた銃声と金属が擦れる音が、耳障りだった。
弾が切れたら、慣れた手つきでライフルに弾を込める
綺麗な真鍮の黄金色を、血と脂で汚し、
またひたすら同じ動作を繰り返す。
〜
どれくらい時間が経っただろうか
未だに銃声と砲撃音は続いていた
塹壕陣地内は酷い有様だった。
泥まみれの死体、断末魔、血と硝煙の香り、
この世の地獄とは正にこの事だろう。
「くそくらえだな」
ミハイルは自身が設計したライフルを見つめる。
俺は祖国で画期的と評された兵器を
設計、開発してきた軍の技術士官だった。
軽量で歩兵でも持ち運び可能な重機関銃、
重装甲で走破性も火力もある戦車、高高度からの爆撃が可能な戦闘機など、侵略してくる敵国から祖国を守る事だけを考えてひたすらに研究開発に時間を費やした。
そしてそれらは俺の目論見通り、
敵を蹂躙する事が出来た。
だがそれが良くなかった
ミハイルは破壊されて炎上している重戦車に目をやる
圧倒的な兵器は結果的に第三国の恐怖を煽り、
余計な敵を作り、戦況を悪化させる事に繋がった、
祖国はというと、俺が開発した兵器の初陣の戦果に未だに固執し、それをプロパガンダに利用し、若者や技術者を戦争へと巻き込み、血で血を洗う泥沼の戦場を作り出した。
俺は結果的に守りたかった人達を
戦場に送り込んでしまった。
国を守るために、愛する人を守るために
全ての知識を兵器開発に注ぎ込み、
何年も何年もかけて、ようやく完成した兵器が産み出したのは死体の山だった
「こんな事ならトラクターでも設計してた方がマシだったな...」
瞬間、轟音と共に俺の身体は
いつの間にか砲撃で吹き飛ばされていた。
「カハッ....」
吹き飛ばされた身体は地面に叩きつけられ
バカみたいな激痛が走り、
まともに息すらできなくなった
「うっ...はぁ....ぐっ...」
胸の苦しさを紛らわそうと
手を動かした瞬間、気付いた、
身体の半分が無くなっていた
その瞬間助からないだろうと本能が告げていた
段々意識が薄れていく中で
俺は不思議と安堵していた......
地獄のような戦場から解放され、
自分が犯した罪から逃げられる事に
....来世では、平穏に生きたい...
「平穏か...ふふふ残念だったな」
謎の声が頭に響くと同時に
ミハイルの意識は途絶えた。
〜しばらくして〜
死んだ筈のミハイルは真っ暗な部屋で目を覚ます
「うっ......どこだここ..まさか、あの世か?....参ったな、教会に通っておくべきだったな...」
部隊には信心深く神を愛し、
十字架を大切そうにいつも握りしめてた奴もいたが、そいつは味方の誤射で背中から撃たれて真っ先に死んだ。あの地獄の戦場で信仰心なんてもんは
無くなってしまっていた。
「....ま、天国ではなさそうだな」
考えを巡らせていると
ヒールを履いているような
独特の足音が聞こえてきた。
「起きたか?ミハイル・ブラディミール」
暗闇の中から一人の女が歩いてきた
足音の主は彼女で間違いないだろう。
女は綺麗な黒髪で凛とした顔立ちをしていた
だが赤い瞳と黒いドレス姿が
人間では無い事を主張していた。
「おはよう、私は死神のイシュタムだ」
「...死神.....?」
「そうだ。お前は砲撃により四肢が吹き飛び、失血により死んだ。ふふ...中々に派手な死に方だったぞ?」
彼女は薄気味悪い笑みを浮かべながら
身体を近づけてきた
「壮絶な最期を迎えられて嬉しい、とでも言ったらいいのか?」
ミハイルは彼女を睨みながら、
お喋りな死神に内心困惑していた。
「...皮肉を言う余裕があるなら本題に入っても良さそうだな」
彼女はさらに身体を密着させて囁いてくる
「取引をしようミハイル。生き返らせてやるその代わりに、私の仕事に手を貸せ」
彼女は唇が触れそうなくらい顔を寄せ
邪悪に口角を上げて微笑んでいた
ド素人なので
お手柔らかにお願いします...