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喬木まことの短編

あっという間にザマアされオジサン ー母の葬式直後に愛人と娘を連れて来た父ー

作者: 喬木まこと

「これは一体どういうことだ!」


護衛騎士達に押さえつけられ、喚き散らす中年男性をカトリーナは冷めた目で見つめていた。


この下衆な男は悲しいかな、カトリーナの父だ。その父は、今日は母の葬式だったにも関わらず、葬式を放置して愛人宅へと向かい、愛人とその娘を邸に連れて来たのだ。


「当然の対応です。突然、不審者を連れて来たのですから」


そういうと、一緒に拘束されている愛人と娘も騒ぎ始めた。


「なんて、生意気な娘なの!この家の財産はアタシ達のもんなのよ!」

「お父様ぁ、こんな女売り飛ばしてやってぇ」

「貴様らぁ!この家の当主である私にこんな事をしてただで済むと思うなよぉ」


唾が飛んできた。バッチいわ。カトリーナが一歩下がると、生物学上の父は怯えてると勘違いして、口を嫌らしく歪ませる。


「ふん。許して欲しくば、今すぐこの拘束を解き、跪いて謝罪するがいい」

「許して欲しいとは思いませんので、結構です」


あまりに下品で無知で愚かしい姿に頭痛がしてきたので、護衛騎士達に連れ出すように命じる。


「うるさいから、取り敢えず、離れにでも閉じ込めておいて」

「貴様ぁ!もう娘とは思わんからなぁ、覚悟しろ!」

「あらまぁ、では、そうしましょう。セバスチャン、書類を」


執事に書類を持って来させ、その場で記入する。いつか使うかもしれないと思って、ほぼ作成していた書類だ。()()のサインをすれば完成。


カトリーナにとって父は同じ屋敷に住んでいるだけの他人であった。仕事をする訳でもなく、屋敷にはいたりいなかったり。ある程度の年齢になると、愛人でもいるだろうなぁと思っていたが、やはりいたのだ。それについては悲しくない。だが母の葬式直後に、彼らを屋敷に連れ込んだ事は許せない。


「はい、できました。ご覧下さい」


男に向かって、離縁状の書類を広げてみせた。


「これで、貴方と()()伯爵家とは無関係となりました」

「なっ!」

「もし、関係者だと吹聴すれば処罰されるので気を付けてくださいね」

「そんな事がまかり通る訳ないだろう!」

「もう、この家の当主は私ですから、まかり通ります」

「貴様のような糞餓鬼が当主だと認められるはずがない!」

「認められてますよ。私、昨年、成人しておりますし、先代伯爵の母からの後継者指名もされておりますし、その旨、王宮に申告し、国王陛下からの承認も受けてます」


ここ数年、病気がちだった母に何かあれば、速やかに当主になれるよう手筈は整っていた。そう言うと元父、いや、ただのオジサンでいいか。オジサンは悪あがきなのか、再び暴れ始める。


「ふざけるなぁ!当主は私だぁ!」

「それこそ、まかり通るまいよ」


騒ぎを聞きつけたのか、穏やかな老紳士が現れ、カトリーナの肩を抱いた。


「な、何故……」


その老紳士を見た男は分かりやすく動揺している。


「何故?不思議な事を申す婿殿よのぉ。娘の葬式に参列しない親がいるものか。ああ、妻の葬式を放っておいて愛人宅へと向かう恥知らずには理解できぬか」


その老紳士はカトリーナの祖父であり先先代伯爵当主だ。母が亡くなってしまった孫娘を心配して、葬式後も数日泊まって後処理の手伝いをすると申し出てくれたのだ。


「ちょっと、なんなのよ、この糞爺は!」

「カンケーないジジイは、すっこんでなさいよぉ」

「バ、バカ!黙ってろ!」


空気を読めない愛人と娘が騒ぎ始めた。オジサンも先先代伯爵の前では大口は叩けないようだ。お祖父様は顔が広く、色んな権力者の皆様とお友達だ。


「い、いえ、母親をなくした哀れなカトリーナに新しい家族をと思いまして……ハハ」

「ふむ、妻の葬式の采配を我が孫娘に押し付けても、すべき事だったのかの。ましてや、その売女共は、我が家の財産は自分達のものだとか、カトリーナを売っぱらうとか申していたようだが」

「いえ、それは、先代の聞き違いでしょう!ハハハハ!」


今更、誤魔化せると思ってるのか。その神経の太さは逆に凄いと思う。しかし、それは無駄な抵抗であった。


「いや、私もその発言を聞きました」

「私もだ」

「私もですわ」

「あれほど、大きな声で怒鳴っていればなぁ」

「聞こえぬ訳がないよ」


ぞろぞろと現れたのは母の葬式の列席者達だ。葬式後、親戚や親しい間柄の方々を邸に招いて、もてなしをするのは、この国の習慣である。


ああ、このオジサン、親戚付き合いも放棄してきたものね。常識というものを知らないのだとカトリーナは理解した。


我が家の親戚や、母の友人や祖父の知り合いは、高位貴族や王宮騎士団関係者、司法省や法務省、中央政治に関わる重鎮達も多い。彼らがすぐそばにいるのに、お家乗っ取り発言を連発したのだ。


肝が据わっているなぁと思っていたけど、ただの考えなしだったようだ。


「な、な……ち、違う。わた、私は被害者だ!この娘は父親である私を追い出すと言ったのだぞ!」

「この痴れ者があ!」


一人の老人が杖を振り上げ、オジサンを殴り付けた。父方の祖父だ。つまりオジサンの父。


「カトリーナを!先代伯爵をなんだと思っている!お前の娘と妻だぞ!」


そういえば、父方の祖父は元騎士で、いざという時も戦えるよう、あの杖にはレイピアが仕込まれているはずだ。鈍器としての使い方もあるのだな。


「馬鹿者が!貴様はもう息子ではない!」


一発で終わる気配もなく、己の息子を何度も殴り付けている。


父方の祖父である先代侯爵は、母方の祖父に戦の際、救われた恩義があった。それもあって、カトリーナの父と母の婚姻はなされたのだが、当の息子は不満だったようだ。


「お祖父様、あまり無理をなさるとお体に障ります!」


しまった、あまりの剣幕に口を挟めずにいたが、父方の祖父は心臓を悪くしていることを思い出した。


「カトリーナよ、こんなろくでなしを育てた私をまだ祖父と呼んでくれるのか」

「当たり前です」


父方の祖父は少々厳しい所もあるが、非常に義理堅く愛情深い方なのだ。母方の祖父も、父方の祖父もカトリーナは大切な家族だと思っている。


そう伝えると、父方の祖父は泣いてしまった。お祖父様を困らせる人間に遠慮はいらないな。早くポイしよう。


お家乗っ取りは重罪だ。証人もたくさんいる事だし。このまま王宮騎士団に回収してもらう事にした。


「ギャー!はなしなさいよ!イーヤァ!痴漢よ!」

「なんでぇ、アタシはハクシャクれーじょーになるのよぉ」

「カトリーナ!カトリーナ!パパが悪かった!コイツらとは縁を切る!」


ああ、なんて見苦しいのだろう。

お母様、見ていてくださってますか?

カトリーナはちゃんと伯爵家を汚物から守りましたよ。


その後。


元父と愛人とその娘は20年の強制労働となった。その間、稼いだ金銭はカトリーナへの慰謝料となる。


ただ、乗っ取り行為はすぐさま回避されたので、未遂扱いとなり、元父に関しては莫大な罰金をおさめれば、教会での奉仕活動で済むと聞いたが、その費用を出す者はいなかった。カトリーナも父方の祖父も拒否したのだ。


愛する()()()と3人で力を合わせて罪を償って欲しい。


ただし、強制労働の地は北の国境沿いだ。伯爵家に寄生し、ぬるい生活を続けていた3人が耐えられるかは分からない。

おしまい。

葬式の直後なら、遠方から来た親戚は泊まってるんじゃないの?そしたらドアマット期間も1時間くらいで終わりそうと思ったので書いてみました。


主人公の父は厳格な己の父に昔から反発していました。父が主人公や主人公の母に目をかけていたので、余計に本妻と本妻の娘をうとましく思ってたようです。ダメ父ですね。

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別品の作品お疲れさまでございました。 明らかに婿入り、しかも爵位は血統主である母がもつならば、陣代ですらないタダの女爵の配偶者 失礼な言い方を云えば継承者を産むための種馬でしかない、浮気相手への見栄以…
ドアマットヒロインって、まず両親共に天涯孤独でないといけないよね。確かに。
島津運久の所業を知ると、まだ父親はマシな部類だな〜。未亡人に懸想して、未亡人の我儘(未亡人の子を嫡男に!私を正妻に!)を聞き入れて、妻子を焼き殺した。
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