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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第九章『漆身呑炭・権謀術数』

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第99話



 夕暮れ、ベッドの上に寝転がって目を瞑っているとノックの音で覚醒した。

 いつの間にやら少し眠っていたようだ、自分の事ながら相当(たる)んでいるなと笑ってしまった。

 だが裏返せばルキアとサニティアをそれだけ信頼しているという事でもある。



「湯の御用意が出来ました、洗濯物があれば申し付けて下さい」



 名も知らぬ侍女が扉を開けずにそう告げると、部屋の前に居た気配が遠ざかっていく。


「ルキアとサニティア、二人で先に入って来いよ」


 ベッドでオレと同じく仮眠を取っていたらしい目を擦るサニティアと、そのベッド際の椅子で読書をしていたルキアへと勧める。


「一緒に入らないのですか?」


 ルキアが当然の様にオレへと尋ねる。


「たまには女同士でゆっくりどーぞ、オレは城内を散歩でもしてくるから」

「そうですか、畏まりました」


 荷物から替えの服などを持ち、まだ眠たそうなサニティアの手を牽いてルキアが部屋から出て行く。

 たまには彼女達にオレ抜きで羽を伸ばして来て欲しい、いつも一緒じゃ出来ない話なんかもあるだろうしな。




 ルキアとサニティアが風呂へと向うのを見送った後、オレも布に包んだクリヴァールを手に散策へと繰り出していた。

 すでに城の中の者達には知らせてあるのであろう、オレの様な子供が総督府の置かれた元ルマロス帝国場を歩き回っていても不審な目を向けられる事も無く、自由気ままにぶらぶらする。

 前回はクオンの妹を救出する目的があったので城内の散歩は中々に新鮮だ。



 城内をうろついているとライチャスが一つの部屋の前で行ったり来たりしているのに遭遇した。


「何やってんだ?ライチャス」

「ん!?あぁ、ゼノか…」

「ここは?」

「アトラの部屋さ、今日ギルドであった事を謝りたくてね…」


 ライチャスが『あはは…』と苦笑いして頭を掻いた。


「なら、さっさと入れよ」


 そう言って部屋のドアノブを代わりに掴む。


「あっ…!ちょ…」


 何をウジウジと悩んでいるんだ、こいつは。

 焦って制止しかけたライチャスを無視してドアを開いてやると中は無人だった。


「留守みたいだな」

「そう、みたいだね…。僕のせいでまた父上に叱責を受けているのかもしれない…」

「アトラはよく叱られてるのか?」

「うん、主に僕が父上の機嫌を損ねた時にね…。毎回気を付けようとは思っているんだけど…」

「ふーん」


 アトラも災難だな、こんな軟弱で頼りない坊ちゃんのせいでいつも叱責を受けるだなんて。


「おや、兄上。戻っておられたのですか?」


 若い声に話かけられてライチャスと共にそちらを見ると、にやけ面をした太った子供が立っていた。


「あ、キョーノス」

「そこの小汚い子供は誰ですか?兄上」


 オレの事だろうか?流石に殺したら不味いだろうか?


「こ、こらっ、何と無礼な…。この方は街で冒険者に絡まれている私を助けて下さったのだぞ」


 ライチャスが弟?らしき肉団子に注意する。


「そんな子供がですか?俺達よりチビじゃないですか。それで?そいつがなんでココにいるんです?」

「助けて頂いたお礼に…、晩餐に招待したのだ」


 それを聞いたキョーノスと呼ばれた肉団子が『ぷふっ』と吹き出した。


「あはは。兄さん、そんな勝手にそんな事をして。父上に知られたらまた機嫌を損ねてしまいますよ~?」

「…。」


 言い返せずにライチャスが黙ってしまう。


「安心しろ、さっきすでに怒られてたぞ」


 (うつむ)くライチャスの代わりに肉団子に答えてやる。


「でしょうねぇ…。初めまして、僕はキョーノス。そこのライチャスの弟です。しかし君も君ですよ。その歳でどれほど腕が立つのか知りませんが、普通は城での食事を誘われても辞退すべきでしょう?自分の格好を見てご覧なさい、場違いにも程がありますよ?」


 そうだろうか?そうかもしれない。

 最後に風呂に入ったのは二日前に川で汲んだ水をクリヴァールで温めて頭から被ったのが最後だったか?

 洗濯したのはいつだったろうか?

 いつも羽織っている外套は剣聖から貰った物をフォルクヴァングで補修してもらってから一度も洗っていない。


「まぁ、鵜呑みにしてのこのこ来てしまった物は仕方ありません。追い返して街で言いふらされても困りますし。悪いのは軽率にそんな事を約束した兄上ですしね」


 オレの全身を上から下までもう一度見たキョーノスが鼻で笑う。


「ふっ、ですがその姿では食堂には来ないで下さいよ?」


 そう言うとガキは鼻を摘まむ仕草をしながら(きびす)を返し、長い廊下の向こう側へと去って行った。


「すまないゼノ、弟がとんだ無礼を…」

「ライチャス」

「ん?何だい?」 

「オレみすぼらしいか?この外套、中々上等な物なんだが」

「はは、うーん…。父上に嫌味を言われそうだし、食事の時には着替えておいた方がいいかもしれないね…。僕の物で良かったら後で貸すから、それを着るといいよ。多分合うはずだ」

「おぉ、それは助かる」




 ───────────────────────────────────




 キョーノスとか言う失礼な肉団子と別れた後、与えられた部屋へとライチャスに案内されながら戻って来る途中、風呂上がりのルキア達とばったり出くわした。


 オレが風呂に入る番が回って来たのでついでにライチャスも誘い、今は二人で大きな浴場の大きな湯船に彼と肩を並べて浸かっている。

 こんなに大きな風呂は前世を合わせても初めてかもしれない。


 湯に浸かろうと思うならば自然に湧いた温泉以外では、自然の水か水龍草から引いた水を薪か魔法具か、若しくは魔法で直接温めねばならない。それをこの広さである。


「でっかい風呂だなぁ、こんな大きな風呂に入るのは初めてだ…」

「そうだね、実家の風呂よりも広いよ」

「公爵家よりもか。そりゃそうかぁ、元皇帝の城だものな」


 二人で肩まで浸かって温まる、このまま眠ってしまいそうだ。


「公爵、ブロム総督も此処を使うのか?」

「基本的にはそうだね。でも父上の自室にも風呂があるんだよ、凄いだろう?」


 あの部屋か…。

 クオンの妹であるハルカが捕らえられていた何もかも金で出来た悪趣味な部屋を思い出す。

 そういえばあの部屋にも風呂はあったな…。


「なー、ライチャス」

「何だい?ゼノ」

「お前弟にもオドオドして情けなく無いのか?」

「あぁ、うん…、情けないのは自分でも分かっているんだけどね…、どうにも体が竦んでしまって、はは…」

「あー、物心ついた時からあの父親に押さえつけられて育ったせいかも知れないな」

「…。」


 二人沈黙の間に天井の水滴が湯船に落ちて『ポチャン』と音を立てた。


「でも、ギルドでは大人の冒険者相手に剣まで抜いて大立ち回り出来てたじゃねぇか」

「あれは、アトラを売春婦みたいに侮辱されて…、勝手に体が動いてただけさ…」

「ふーん?つまり自分の為には動けなくとも、アトラの為になら動けるって事か?」

「そんなに格好良い物じゃないけど…、そうかもね…」

「じゃあアトラの為だと思って胸張って行こうぜ。何かないのかよ、父親に結婚許してもらうまでは行かなくともさ、お前を認めてもらえるような何か」


 ライチャスが『うーん』と唸って考え込む。


「一つ、あるかな…」

「お、何だ?」

「大まかな位置が判明しているにもかかわらず、誰も攻略する所か近付く事さえ出来ていない遺跡がある」

「おぉ、遺跡からは古代ミラの遺物が眠ってるから金脈見つけるようなモンだぜ」

「うん。そこの遺跡を発見し、攻略すれば、あるいは…、まぁ夢物語なんだけど…」


 説明しながらライチャスの語気が(しぼ)んで行く。


「良いじゃねぇか。行こうぜ、それ」

「む、無理だよっ!!一体何十人の冒険者が帰って来なかったと思っているんだい!?間違いなく古代の防衛機能か恐ろしい化物が巣食ってるって事だよ!父上に認めて貰うって事は僕がそこへ行くって事だよっ!!?」

「そう言ってるんだが」

「無理無理っ!絶対無理っ!!」 


 ライチャスがムリムリムリと顔をぶんぶん横に振る。雫をこちらへ飛ばさないで欲しい。


「オレが付いて行くって言ってもか?」

「ゼノ、ギルドであの冒険者の手を握り潰していたのを見ていた上で無理だと言わせてもらうよ…。今君が行こうと提案している遺跡は10人で構成された攻略隊が全滅しているんだ…。いくら君が将来大物になる様な英雄の卵でも…」


はぁ、と溜息を吐いて。オレは指輪を外した。


「これでもか?」



「その、角…、本物かい…?」


 ライチャスがぽかんとしながらオレの頭上の角を見つめていた。


「おぅ、尻尾もあるぞー」


『ちゃぷっ』と湯船から尻尾の先端を出して振ってやる。


「オレのフルネームは『ゼノ・アルマス』」

「ゼノ…アルマス…。紅い瞳…、前へせり出す一対の黒角…、竜の、尾…。クレア伝説の…?剣聖と共に魔王ジズを倒した、あのっ!!?」


 目の前の生き物が誰であるか理解したライチャスが驚いて湯船から立ち上がる。


「本物の魔族を初めて見た…。まさか、君が…、ゼノ・アルマスだったとは…。しかも冒険譚に出て来る大英雄だ…」

「どうだ?子供の姿とはいえ心強いだろ。護衛は任せとけ」

「うん…。僕、やってみるよ!!」


 どうせクレア王国に戻る前にどこかの遺跡には一度潜りたかったしな。

 危険があるならサニティアは置いて行こうか、どうしようか…。


「よーし、善は急げだ。今晩、晩餐の席にあの総督も居るんだろ?そこでちゃんと言えよ?」

「えぇっ!?今夜かいっ!!?」

「じゃあいつ言うんだよ。明日か?明後日か?春が来たらか?先送りにすんな。オレはいつまでもこのルマロスにいる訳じゃないんだぞ。誰かに先を越されて遺跡攻略されちまうかもしれねーぞ?」


 ま、本当はオレが行きたいだけなんだが。

 冒険者10人全滅ならそこそこ歯ごたえのある得物が居そうだ。


「うん…、わかったよ…、ゼノ…!」


 オレの隣、湯船で立ったまま、ちんちん丸出しで拳を握るライチャスの眼に決意の火が灯っていた。





 今回も短くて申し訳ありません。

 前話とコレと次の話の3本分+次の話のR-18がすでにほぼ書き終わってます。

 二分割してもあまりに長くなりすぎたので三分割する事にしました。


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