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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第八章『フォルクヴァングの老いた虎』

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第85話



 夜、フォルクヴァングの港に停泊中のセスルームニルの傍の()()保管倉庫。

 広い倉庫には大量の檻が並べられ、二畳ほどの檻の中には排泄用のバケツが一つだけ置かれ、商品達が月に2度だけ開かれる出荷の時を待っていた。

 ここに立ち入る者は排泄用バケツの交換係と昼と夜に餌を運んでる来る者、そして商品の下見に来る客だけ。

 そんな並んだ檻の一つに白金の髪の少女、サニティアは横たわって目を閉じていた。


「まぁ、本当に美しいわね。これは中々楽しめそうだわ」

「はい、フレイア様」

()()は売らずに飼って繁殖させ増やしましょう?きっと美しい子を産むはずよ」

「わかりました」


 獣人の少年ベイグが檻に非売品と書かれた札を掛ける。


「この娘の母親も美しいの?」

「はい!」

「うふふ。元気な返事ね~、私より?」

「あ、えっと…同じくらいです」


 ベイグが返答に少し詰まった事をフレイアは見逃さない。


「まぁ!ベイグが私と同じくらいと言うだなんて…。待ち遠しいわぁ。その母親も繁殖用に飼いましょうね?」

「僕の子も産ませていいですか?」

「えぇ、もちろんよ。娘が産まれたら貴方に一匹プレゼントするわ」

「やった」

「でも息子が産まれたら私が貰うわよ?」

「う…、はい」

「うふふふ。なぁに?まだ産まれても無い息子に私を盗られると思って嫉妬しているのかしら。ベイグは本当に可愛いわね」


 そう言うとフレイアはベイグを抱きしめてその頭を撫でた。


「フレイア様、トリエグがまだ戻って来ません」

「あら、そうなの?薬はちゃんと()()()()のでしょう?」

「はい、確かに。しかし僕がこの娘を攫う時には目覚めた息子と対峙していました。ヴァナヘイムの兵隊を数人連れていたので手こずる筈は無いのですが…」


 二人がトリエグの心配をしていると倉庫内に一人のヴァナヘイム団員が転がる様に足をもつれさせて飛び込んで来た。


「フレイア様!ベイグ様!失礼いたしますッ!!作戦中の宿屋で火事が発生しましたッ!!トリエグ様と連絡が取れません!!!」


 フレイアが『あらあら』と困った様に頬に片手を宛てながら、しかし目を楽しそうに細めた。


「フレイア様!」


 珍しく焦ったような風にベイグがフレイアの顔を見た。


「ええ、わかっているわ。心配なのでしょう?トリエグを助けに行ってあげなさい」

「はい!!」


 獣人の少年が駆け出して行くのをフレイアは楽しそうに見送った。




 ───────────────────────────────────




 オーズと別れ、オレはルキアをつれて港を目指して夜道を歩いていた。


「ヴァナヘイムの数が多いな」

「えぇ、そうですねゼノ様。やはり宿の件でしょうか?」

「だろうな、夜も賑わう街だといってもいくら何でも多すぎる。もう特徴なんかの情報も共有されてるだろうな。声を掛けられたら戦闘は避けられなさそうだ。悪いなルキア」

「いえ…」


 早足で夜道を進むと前方から三人のヴァナヘイム達がやって来た。

 いくら夜目の利かない人間相手でももう視認されている距離だ、今から路地に入っても追ってくるだろう。


「おい、貴様等!止まれ!!」


 呼び止められて足を止める、ルキアが対応しようと前へ出るのを手で制して止めた。


「なんだ?」

「小僧、フードを取れ」


 言われるがままにマグナスから貰った外套のフードを脱いだ。


「白い髪の少年と金髪の女の二人組、間違いないな。おい、貴様等武器を捨てて…」


 そこまで喋ったところで男の(おとがい)の下へとクリヴァールを『ザッ』と突き立てた。

 魔槍の切っ先は脳まで達している。

 夜、しかも男の背で隠れており後ろの二人は何が起きたか理解出来てはいまい。

 男の顎の下からクリヴァールの穂先を引き抜いて『邪魔だどけろ』と言わんばかりに手で男の体を払う様に横へと倒し、後ろの二人へ持てる全力の速さで距離を詰めてクリヴァールを一閃した。

 一薙ぎで二人の男の首を切り裂いた。

 心臓を狙わなかったのは叫ばれたら厄介だからだ。

 クリヴァールに魔力を通してはいなかったが夜の街路に『ボボッ…ボッ…』と炎が舞った。

 振るだけで火が出てしまう、隠密には不向きだな。


「どうやら部下に殺せじゃなくて捕らえろと命令している様だな」

「そのようですね」


 オーズの言う通りオレを生け捕りにする気か?

 三人の男の死体を蹴飛ばして路地に押し込んで港へと進んだ。




 埠頭には大きな倉庫がいくつも並んでいるがどうやら埠頭と町は塀で仕切られている様だった。

 しかし壁の高さは2mも無くあって無いような物である。


「壁を飛び越えるか、正面から行くか。どうする?ルキア」

「中に入って相手から隠れながらサニティアさんを探すより、正面から行って頼む方が良いかもしれません」

「まぁ、そうか。ふむ」


 オレだって別に自ら進んで戦ったり人間を殺したい訳では無い。

 さっきの奴らもいきなり高圧的に武器を捨てろと言って来なければ殺さなかっただろう。

 だが正面から行って『返せ』と言っても返っては来ないだろう。

 やるだけ無駄なのは明白だったが、やらないよりマシか。


「じゃあ正面から行くか」


 壁沿いに歩いて正面ゲートを目指すとそこにはかなりの数のヴァナヘイムの団員が集まっていた。

 これもまた平時とは違うのだろう。

 近付くにつれてオレ達に気付いたのかさらに増えた。


「止まれ!お前達が命令にあった親子だなッ!?武器を捨てて投降しろ!」

「仲間が1人ヴァナヘイムに攫われたから取り戻しに来ただけだ。仲間を返せ。そうすれば誰も殺さずに引き返してやる」

「お前達には放火と殺人の容疑がかかっている!今すぐ武器を捨てて手を頭の後ろに組んで膝を付けッ!」


 周りのヴァナヘイム達が槍や剣を抜きこちらへとその切っ先を向けて少しずつ取り囲み始めた。

 話にならんな。


「最後だ。仲間を返せ」


 問答していた男の眼を見てゆっくりともう一度だけ言った。


「多少の怪我をしても治癒魔法で治せる!こいつ等を捕らえろ!!」


 決裂だな。

 ルキアの腰に手を回して引き寄せ、宿でやってみせた様にクリヴァールへと魔力を流してぐるりと一周振るった。

 オレとルキアを台風の目にして爆炎が周囲に放たれ、取り囲んでいたヴァナヘイムの男達が一瞬で人間松明となって踊り狂い、のたうち回る。

 自然の火ではない為、砂を掛けたり転がったり服を脱いでも炎は消えない。


 ルキアの腰を抱きながら燃える人間を眺めていると炎の壁を獣人の少年が飛び越えて来た。

 宿で壁に叩きつけて殺した獣人と同じ背丈、同じ顔をしている。

 まぁあっちはヘラヘラしていたのに対してこっちはムスっとしているが。


「ねぇ、トリエグは?」

「あ?」

「僕の双子の兄弟のトリエグはどこにやったの?」

「オレの部屋に入って来たガキか?宿見て来たんだろ?瓦礫の中にいなかったか?」

「ッ!」


『ギィンッ!!』


 獣人少年がいきなり放って来たククリナイフの一撃をクリヴァールで受け止めて『ギャリギャリ…』と音を立てて滑らせ逸らす。


「おいおい、いきなりだな…」


 膂力はこっちが圧倒的に上だ。

 速さは向こうが少し上かもしれんが、正直言って雑魚、相手にならないな。


「僕はベイグ…」

「ふーん。オレはゼノ、後ろの女はルキアだ」

()()()?母親じゃないの…?」

「お前には関係ないだろ、そんな事よりオレの仲間返せよ」

「じゃあトリエグを返して…」

「はぁ?何が『じゃあ』だよ。オレの部屋に強盗しに入って来た奴ぶっ殺して何が悪いんだ?てめぇが俺の仲間攫った話とは別だろうがよ。いいからサニティアを返せ」

「無理…、もうフレイア様に献上した」


 このガキ…。

 つまりもう船か倉庫にいるかは知らんがサニティアを取り返すにはフレイアとやらと対峙するしかないのか。


「武器を捨てて投降しろ、悪いようにしない。一緒にフレイア様に飼って貰おう」

「ははは、バーカ」


 クリヴァールを振ってククリナイフを叩き落とし、槍を振った勢いのまま後ろ回し蹴りをベイグと名乗った獣人少年の腹に叩き込んだ。

 強引に腕を割り込ませて内臓へのダメージを防いだ様だったが魔族の、子供とはいえオレの蹴りを受けたベイグは未だ燃える炎の円の外と吹き飛ぶ。

 トドメを刺す為にすぐさまオレも跳躍し炎を飛び越え、起き上がろうとしていた獣人の少年へと槍を突き立てようとしたその瞬間、凄まじい勢いで何者かに体当たりされて吹き飛び、埠頭の壁に激突した。


 パラパラと崩れた壁の破片が降る中、壁に埋まった体をガラガラと瓦礫の下から起こす。

 そこには俺がヴァナヘイムを焼き殺した炎に照らされる巨大な金色の猪がいた。

 ルキアがこちらへ駆け寄ってくるのが見える。


「ゼノ様!大丈夫ですか!?」

「あぁ…、あのイノシシの相手はオレがする。ベイグとかいう獣人は任せてもいいか?」

「はい!畏まりました!」


 ルキアと手早くどちらと戦うか決めてイノシシと戦うべくそちらへ歩き出す。

 あのイノシシはやばい気がする。


「ありがとう、助かったよヒルディス」

「フゴ…」


 ベイグが猪へと礼を言っている。


「おいコラ、糞イノシシ。よくもやりがったな、ぶっ殺してやるから覚悟しろ」


 猪へと向かって飛び出し、距離を一瞬で詰めてすれ違いざまにその毛皮に覆われた胴をクリヴァールの刃で切り付けてその隣を駆け抜けた。

 ザリザリとした猪の身体を槍の穂先が滑る感触が掌に伝わるがそれだけだ。

 猪は怒ったのか『ピギィ!』と一声鳴いてこちらを向いた、ルキアからの注意を逸らす事には成功した様だ。




「お姉さんが僕の相手をするの?あんまり傷付けたくないから投降して欲しいんだけど」

「ふふ、勝てるつもりですか?」


 ルキアの掌から『バチッ』と紫電を散る。


「へぇ、お姉さん魔法使えるんだ。電気は苦手だなぁ」


 そう言いながらベイグは落ちたククリナイフを拾い、くるっと手の中で刃と峰を入れ替えた。


「骨折くらいは覚悟してね、後で治してあげるから!」


 飛びかかるベイグへとルキアが掌を向けて『ライトニングボルト!』と叫んだ。

 戦闘する機会は少ないが人間とのハーフとはいえルキア・ドロアは雷皇とまで呼ばれた六魔将ミカレの娘だ。

 その魔法の威力は人間の魔法使いを凌駕する。


 掌の角度と彼女の視線から位置を予測しているのだろう、自身へと放たれる青い雷撃を凄まじい体捌きで3本回避し、ルキアの元へ一瞬で辿り着くとベイグはククリナイフの峰を振り下ろした。


 とっさに腕でククリナイフを受け止めたルキアだったが、当然の様に腕からは骨の折れる鈍い音が響き渡る。

 その痛みに彼女が顔を顰め、動きを止めた隙にベイグは屈んで水面蹴りを放ち、ルキアの足を刈り取った。


 倒れたルキアを俯せに押し倒したベイグはそのままその腰に跨り、折れていない腕を後ろ手に押さえつける。


「はい、僕の勝ち」

「そのようですね…」

「お姉さん…、近くで見るとやっぱり美人だね」

「ありがとう、ございます…?」

「今ここで味見しちゃおうかな…」

「!?」


 直後、彼女の腕に鳥肌が立った。

 背中に跨ったベイグがルキアの(うなじ)へと鼻を寄せ、匂いを嗅ぎながら俯せとなった彼女の尻へ自身の股間を擦り寄せたのだ。


「や、やめなさい!!」

「何を嫌がっているの?どうせ捕まったら何人も()()事になるのに」

「何を…言って…」

「フレイア様から僕の子供を産ませてもいいって許可はもう貰ってるんだ」


 なんと度し難い。

 子供だからと手加減したのは間違いだったのかもしれない。

 空から落ちるサンダーストライクではその威力で殺してしまうかもしれないと掌から横へ放出されるライトニングボルトを使った、遺物の魔導力変換剣を使えばそのククリナイフ事真っ二つにしてしまうから使用を控えていた。


「手加減した私が間違っていたのですね…」

「手加減してたの?」

「えぇ…ですがもう、()()()()()。抵抗しないので背中から降りては頂けませんか?」

「やった…勝った…」


 ベイグがククリナイフの切っ先を向けたままルキアの背中からゆっくりと降りると、彼女は仰向けになり両手と股を開いた。


「向かいあってしましょう?」


 その誘惑に興奮したベイグが穿いていた短パンを膝まで下ろしてルキアの胸へと飛び込んだ。

 彼女の服をたくし上げ、その胸に顔を埋めたベイグが窒息するのではないかというほどルキアが彼の頭を片手で抱き、もう片手を背中へ、その両足を腰へと絡める。

 興奮しているベイグにはククリナイフの一撃を受け止めた事により腕が折れた筈の彼女が、自分の頭や背中に両腕を回している違和感に気付けない。


「足、緩めて腰上げて。下着脱がせられない」

「ふふ、ダメですよ?死んでも離してあげません」

「え…?」


 自分の胸の先端から口を離し、呆けた様な顔で見上げて来るベイグへとルキアは優しく微笑んだ。




「さようなら、『ディバインサンダーッ!!』」




 天からサンダーストライクを束ねた様な太い落雷、上級雷魔法『ディバインサンダー』がルキアに抱きしめられたベイグの背中へと落ちた。


 その強力な(いかづち)がベイグの背中に直撃し、抱きしめたルキアをも貫通して埠頭の混凝土(コンクリート)で出来た頑丈な地面を撃ち抜きひび割れさせる。

 二人を纏めて貫いた電撃が蜘蛛の巣の様に周囲へと走っていく。


 ベイグの背や尻には赤紫の血管の様な雷撃の跡が走り、その背中や周囲からはぶすぶすと煙が上がり、目は白濁し、一撃で死んでいた、即死である。

 当然、ルキアも。




「ルキア、なんて無茶を…」


 猪と対峙していたオレも、相手の猪も、その戦いを中断するほどの轟音と閃光を伴う雷撃魔法だった。




「ん、んん…げほっ…!ごほ…、あぁ…、久しぶりに、死にました…」


 自分の上に覆い被さっていた獣人の少年をどかし、捲られていた服を戻してルキアがよろよろと立ち上がろうとして、失敗し、ひび割れた埠頭に膝を付く。

 自らの上級雷魔法により全身の血と肉と内臓が目に見えない損傷をしている。

 いくら装備さえしていれば不死身のアーティファクト『カリタスモニーレ』であろうとも瞬時に完全回復とはいかないダメージを負っていた。



「ゼノ様の…加勢に行かなくては…」



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