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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第八章『フォルクヴァングの老いた虎』

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第80話



 魔族の住まうザハンナ大陸にある魔族の名門、大魔族エリュトロン家の所有する城の外観は荒れ果てている。


 栄華を誇った過去の姿は無かった。

 何者かに襲われた訳でも無く、誰も住んでいない訳でも無く、只々風化し朽ちかけていた。


 辺りは濃い霧が立ち込めており、周囲は魔族からすら『迷いの森』と呼ばれているほど深く。

 城の城壁の一部は崩れ、四方にあったと思われる尖塔は一つが完全に崩落している。

 窓はほとんど至る所が割れ、鉄製の窓枠が残るばかりでズタズタに裂けたカーテンの襤褸(ボロ)切れが風に揺らいでいた。

 (ツタ)に覆われている窓さえある、きっと室内までもが植物に浸食されているだろう。

 庭は雑草が生え放題に生えて()い茂り、人の歩く(わだち)は勿論、石畳すらもどこにあるのか分からない。


 エリュトロン城はこれ以上ないほどに荒れ果てていた。




 荒れ果てた城、その崩れた壁を登って2階から一人の男が侵入した。

 黒い髪、黒い服に黒い軽鎧を身に着けているその男の腰に剣は無い、『おじゃましまーす』と軽薄な声が辺りに響く、当然の様に返事は無い。


 城の中は外観よりもかなり綺麗だった。

 流石に壁が無い部屋はその限りではないが、廊下は赤いカーペットが敷かれ、飾られた鎧も鈍い銀色の反射を返している。

 城の廊下には等間隔に魔力灯が備え付けられており、誰が魔力を供給しているのやら青白い光を放っていた。


「久々に来たから全然覚えてないなぁ、どこにいらっしゃるんだったか…」

「それ以上進むな、()()()


 突然殺気を向けられ一瞬で全身の毛が総毛立ち慌てて飛び退く。


 廊下の先、豪華な扉の前に1人の老人が立っていた。

 老人と言っても背筋は伸び、高価そうな礼服で身を包み、灰色の髪は綺麗に撫で付けられ、金色の眼光はナイフの様に鋭い。


「びっ…くりしたぁ…!ワウトさん、驚かせないでくださいよ~」

「侵入者に払う敬意なぞ無い、出て行け糞餓鬼(ガキ)め」

「ちゃんと『お邪魔します』って言いましたよ~?」

「許可しておらん」

「もー、そんな冷たい態度取っていいんですかぁ?せっかくわざわざ迷いの森を抜けてまで重要な情報を知らせに来たって言うのに~」

「ならばさっさと話すがよい、それから大きな声を出すな。お嬢様が目を覚ましてしまう」

「その『お嬢様』に関する情報を持って来たんですよぉ」


 老執事の金色の目が細められた。


「魔王ジズことコルウス・コルニクス様が討ち死になされました」

「何!?」

「ね?重要な情報でしょう?」

「なんと…コルウス様が…。これでまた魔族は数百年は辛酸を舐める時代が続くのか…」


 老執事から放たれていた恐ろしい殺気が霧散したせいか更に老けたように見える。


「まぁ、良かったんじゃないですか?お嬢様は婚約に乗り気じゃなかったんでしょう?」

「馬鹿者め、これは魔族全体の話だ!コルウス様が人間に勝利しお嬢様がその妃となっていれば魔族は千年、いやそれ以上にこの世界を支配出来たはずだった…」

「当のお嬢様は魔族の隆盛に興味なさそうっすけど」

()()()がいかんのだ…、あの男さえ魔族を裏切らねば…」


 嘆いているワウトと呼ばれた老執事を凝視し心の中で呟いた。

『ステータスオープン』


名:ワウト

種族:人狼

LV.128

STR:825

DEF:504

INT:69

AGI:517


 俺の視界に老執事のステータスが表示される。

 これこそが俺が()()()()に来た時に得た特殊能力だった。

 上から順にSTR(Strength)、DEF(Defense)、INT(Intelligence)、AGI(Agility)

 筋力、防御力、魔力(知力)、素早さである。


 比較する為に自分の能力も表示させる。


名:トーマ

種族:吸血鬼

LV.91

STR:631

DEF:249

INT:320

AGI:381


 うーん、やっぱりワウトさん強いなぁ、流石レベル100超えだ。

 こっちには闇魔法があるけれど力と速さで完敗だね。防御の低さを吸血鬼の自己再生で補っても埋められない差がある。

 レベルが互角なら負ける気はしないんだけど、困った事にもう全然レベルが上がらなくなってしまった。


「それで?」

「ん?はい?」


 こっちも物思いに耽っていたら先に老執事がこちらの世界に戻って来ていたようだ。


「コルウス様を倒したの誰なのだ?やはり七星か?」

「それが聞いて驚きですよ!なんとコルウス様を倒したのはあの()()()()()()だそうですよ!」

「ばっ、馬鹿者ッ!!」


 彼の名前を口にした俺にワウトさん慌てるがもう遅い。

 豪華な扉から『ヒュオォォォ…』と廊下の床を這うように冷気が流れ出す。

 ワウトさんが廊下の脇に避けて姿勢を正し、視線を下げたのを見て俺も慌てて跪いた。

『ギィィィ…』と不快な音を立てて豪華な扉がゆっくりと開かれる。


 跪き頭を垂れる俺にはその真っ白な膝から下、爪先しか見えていない。

 だがわかる、真っ白な肌で紅い瞳を持つ紅い髪の美女が全裸で立っているのが。


「あらぁ、久しぶりね?えーと…」

「トーマ、でございます」

「そうそう、そんな名前だったわねぇ」


 美女がやけに上機嫌で答える。

 ワウトも俺も顔を上げられない。

 美女が俺の目の前、空中で見えない椅子に座って足を組んだ。


「さぁ、お顔を見せてちょうだい?私寂しいわぁ」


 白い足の甲で顎先を撫でられる。


「お戯れを…」


 顔を合わせろだと?冗談ではない。

 そのまま足を手に取り裸足の甲にキスをして誤魔化す。


「うふふふ」

「お嬢様、客人の前ですぞ」

「あら、ワウト。()()()()見ない間にまた老けたわね」


 彼女の体を影が這い上がり、全身にピタリと張り付くように漆黒のイブニングドレスへと変わった。

 なんでも無いような事の様に行われたが、影から物を作り出すのはかなり高度な闇魔法『シャドウクリエイト』だ。

 その精度と強度は本人の魔力に依存する。

 彼女のドレスは竜の鱗のように堅牢だろう。


 彼女がドレスを身に纏った事でようやく少し顔を上げる事が出来た。

 といっても首から下だけを見るように徹する、顔を見る場合は焦点を外さなければ世界最高峰の魅了を受けてしまう。

 気付いた時には何百年も魅了で操られてました、なんて事になりかねない。

 彼女に本気で魅了魔法を使われれば、命令一つで親友だろうが何だろうが親も兄弟も妻も子供も平気で殺す操り人形に変えられてしまうだろう。




「それで、コルウス君が死んだんですってね?」


 ああやっぱり聞いていたか、というか平気で年単位で眠りにつく彼女がわざわざ俺のような客の前へ出て来てくれたのだ、()()以外に無いだろう。


「は、魔王コルウス・コルニクス様は先代と同じジズを名乗ってユークリッド大陸に攻め入り、滅んだ都オーロンにて剣聖マグナスと共に戦った冒険者により討ち死になされました!」

「剣聖…」


 おいおい嘘だろう、どこまで世情に疎いんだ。


「オーロンの元国王です、キルスタン様に滅ぼされた」

「あぁ、そんな事もあったわねぇ」


 剣の魔王と呼ばれ一国を滅ぼしたキルスタンの功績さえも()()()()扱いである。


「それで、コルウス君を剣聖と共に戦い討ち取った冒険者の名前は?」

「はい、ゼノ・アルマスと…」

「ふぅん…」


 目を見ない様にしているが彼女の美しい唇のその笑みが深くなったのがわかった。


「その冒険者の情報は?」

「白い髪、紅い目、竜の尾、前へせり出した一対の角…」


 1つ1つ、情報を挙げる度に彼女の雰囲気が段々と上機嫌になるのと対照的に、彼女の後ろでワウトさんが驚愕の表情をしていた。


「聞けば聞くほどあの方にそっくりねぇ、他には?」

「はい、真っ赤な槍を愛用しているようです」

「クリヴァール…」


 彼女が何かを思い出すように魔大陸ザハンナでは有名な赤槍の名前を呟いた。


「それから、子供の姿のようです」

「…なんですって?」

「実際に見た訳ではありませんが集めた情報によると、10歳から12歳ほどの容姿をしているようです」

「…。」


 機嫌を損ねただろうか?


「見てみたい…」

「へ…?」

「見てみたいわ、子供の姿のゼノ様を」

「いけませんぞ、お嬢様!」


 後ろからワウトさんが制止する。


「だって私、見てみたいわ」

「まだ本物の彼と決まった訳ではありません!」

「じゃあ招待状を書きましょう!それならいいでしょうワウト?」

「お嬢様、私は反対です」

「なぁんでぇ…?」


 廊下の気温が更に下がる。

 血も凍りそうだ。

 しかしワウトさんは引き下がらない。


「コルウス様を倒したという事は()()魔族の敵になられたという事です、お嬢様を合わせる訳には行きません」

「い・や・よ!ワウト、貴方に決めさせてあげる。私が会いに行くかこの城に招待するかどちらか選びなさい」

「…では、後者に致しましょう」


 ワウトさんが苦い顔しながら折れた。


「じゃあ、えーっと…。今からゼノ様宛の手紙を書くから、貴方はこの場にて少し待っていなさい」


 信じられん、この女。

 今の短い間に俺の名前を忘れていやがった…。

 吸血鬼となって三大欲求と呼ばれるものはかなり減退してしまったが、俺は自分を強者だと思っている女を屈服させたり無理矢理犯すのが好きだ。

 いつかこの女もわからせられる日が…、来ないだろうな。

 自室へと進む彼女の背中、大きく開いたドレスの後ろ姿を眺めながら心の中で呟く。


『ステータスオープン』


名:エストリア・エリュトロン

種族:吸血鬼

LV.581

STR:4357

DEF:1801

INT:2440

AGI:2614


 久々に見たが化物だ。

 種族の欄が俺と同じ吸血鬼となっているが何かの間違いじゃなのかと見る度に思わされる。

 この世界に来た時にもらったこの能力、便利ではあるのだが種族の所がガバガバだ、何度痛い目にあったか。

 他のステータスに比べて防御力(DEF)が飛び抜けて低いのだけが俺との唯一の共通点だろうか?

 一体何千年生きればここまで強くなれるのだろう。

 文字通り桁違いのステを見せられた俺はエフ〇フの世界に迷い込んだドラ〇エのキャラの気分だった。

 いや、逆か。この場合異分子は彼女の方だ。


 ステータスなど数十も数値が離れていればひっくり返せない歴然とした差が付く。

 数千年生きた竜や魔神でもないと彼女とは勝負にもならないだろう。

 ていうかもうあんたが魔王名乗れよ、コルウスよりもキルスタンよりも何倍も強いじゃねぇか…。


 神はどうか知らんがこの能力を持っている俺だけが彼女の強さを正確に把握していた。

 きっと何百年も傍にいるワウトさんですら彼女の圧倒的な潜在能力を理解していないだろう。




 ()()()ってもっと俺TUEEE出来ると思ってたぜ。

 いや、今でも充分楽しませてもらってるけどさぁ…。


 引き籠りのお嬢様、その傍から離れない老執事、迷いの森から一歩も出ないデュラハンさん。


 一体誰がその手紙をゼノの元まで届けるんだ?



 間違いなく俺である…。



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