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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第七章『レスティアスに潜む影』

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第73話



 クレア王城、謁見の間


「…それでレスティアス神聖国に滞在中、身分を証明する何かを用意して欲しいと言うのですね?」


 まだ20代だと言うのにミリア女王はいつ見ても疲れたような顔をしている。いや、オレがそうさせているのか?


「先の魔王討伐の功績で冒険者の階級がAにはなったが…これじゃ多分ダメだよな、と」

「そうですね、冒険者相手ならそれで一目置かれるでしょうがレスティア教徒相手には通用しませんね」

「魔王を倒した他国の英雄でもか?」

「たとえ英雄だろうと魔族は魔族な事には変わりませんので。難癖を付けられて捕らえられた貴方の身柄と引き換えに交渉を求められる展開しか見えません」

「…その捕らえようとして来た神殿騎士を返り討ちにしたらどうなるんだ?」

「やめてくださいね?レスティア教に反旗を(ひるがえ)す神敵とされて人同士で戦争になりかねません」

「『魔族は元々レスティア教の敵だろう、何を言っているんだ』と突っぱねてやれ」

「ゼノ様…」


 ルキアに言外に窘められてしまった。


「…貴方達が謁見の希望を出した際、その用向きを家臣に伺って一応こういうものを用意させました」


 ミリア女王がそう言うと傍に控えていた七星、薔薇騎士のローザが盆に乗った二つの指輪を持って来た。


「女王、これは?」

「アーティアクトです、当時の古代ミラ人が多種族と交流する為に作った物の様です」

「装着するとどうなる?」

「他者から同族に見えるようになります」

「ほぅ…?つまりそれをつけてオレが尾で魔族以外を攻撃した場合は尾は見えずに不可視の攻撃となるのか?」

「はい」

「ルキアはどうなる?半分人間で半分魔族だぞ?」

「人が混ざっている場合は人に見えるそうです」


 獣人と魔族や竜人と魔族など人が混ざっていない場合どういう風に見えるのか気になるな。


「貸してくれるのか?」

「この指輪は貴重で我が国にもこの二つと合わせて三つしかありません」

「…。」


 女王が俺の質問を無視している、貸すとは言わない。


「アルファに聞いた所、天空国家ミラでもかなり貴重な物だったそうです。そして弱点としてこの指輪は本来の姿を知る物には通用しません」

「それなら大丈夫だ、俺は子供の姿だしこっちの時代に来たばかり、ルキアも顔を晒すようになったのは俺の従者になってからだ」


 そう言いながら盆の上の指輪に手を伸ばすと『スッ』とローザが一歩下がった。


「まだ貸すとは言ってませんよ?」

「このババア…」

「なッ!?私はまだギリギリ20代です…!」


 どこかで聞いたな、それ。

 あっ、旦那(アリオス)か。


「貴方の従者なんか300歳を越えているでしょうに…!」

「ルキアは魔族だからな、20代になったばかりのような体だぞ?」

「魔族が妬ましいッ…」

「で?どうやったら貸してくれるんだ、その指輪は」

「正直この指輪と引き換えに要求するような物が思い付きません」

「えぇ…」

「向こうで問題を起こすなと言っても無駄でしょうし、絶対何か起きる予感しかありません」

「…。」

「出来ればレスティアス神聖国には向かって欲しくありません」

「…。」

「でも指輪を貸さなくとも向かうのでしょう?」

「よくわかってるじゃないか」

「ハァ…だったら貸した方がマシですね…」

「すまんな、女王」

「構いませんよ。貴方と、ルキアさん、そしてマグナス殿がいなければ魔王は倒せませんでした。貴方達はこの国の英雄です。」


 13人に分裂した魔王相手だと拳聖ジルニでも厳しいかもしれんなぁ、賢聖に討たれたアジダハグからも分かる通り、竜人とて万能では無い。

 まぁ賢聖アズライルがいればどうとでもなった気もするが、あっちは最終手段だ、魔王よりやばいので。


「分かっているとは思いますが揉め事は極力起こさないでくださいね?」

「善処する」

「ルキアさん、手綱をよろしくお願いしますね?」

「善処致します…」


 どうやら俺の保護者のルキアに頼む事にしたようだ。

 信用されてないな…。

 あぁ、冒険者になってすぐオレを罠にハメた同業者を6人返り討ちにしたとか、蟲のコロニーと化した村を焼き払ったとかも女王の耳に入ってるんだったか。




 ───────────────────────────────────



「サニー!」

「クリット…?」


 聖堂騎士特有の白い衣装の上から白い軽鎧を装備した、この辺りでは割と珍しい緑髪の若い少年が聖女サニティアを呼び止めた。


「珍しいね?サニーがこっちの建物に来るなんて」

「えぇ…少し大司教様に話がありましたので…」


 先ほどまで大司教に犯されていた後ろめたさから、無意識に一歩後ずさり右手で左肘を抱いて視線を逸らしてしまう。


「どうしたんだサニー?顔色があまり良くないぞ?」

「少し体調が優れないのです、んんっ…心配してくれてありがとねクリット」


 聖女が敬語を止める、同じ孤児院出身の少年に幼馴染として微笑みかけた。


「ッ!あ~…いや…、サニーは妹みたいなもんだからな!」


 クリットが顔を真っ赤にしてたじろぐ。

 年を、月を、日を重ねる毎にどんどん美しなる幼馴染の笑顔を最近は直視出来なくなっていた。


「ふふっ、同い年でしょう?」

「いーや、オレが兄だね!」

「うふふっ」

「…サニー、何か困った事があれば言えよ?俺に、何が出来るか分からないけど…力になるから!」

「うん!ありがとね。クリットも騎士のお仕事がんばってね?」

「お、おう!」


 何も知らずに業務へと戻って行く若い新米聖堂騎士の背中を聖女は寂しげな表情で見送った。




 ───────────────────────────────────




 オレとルキアは数日かけて旅の準備を整えて1週間前に王都を出ていた。


「ずいぶん北上した筈なんだが…、今どの辺りなんだろうなこれ…」


 一応王都で仕入れた地図と睨めっこしてはいるが、大きな山や山脈は描かれていても小さな山などは描かれていない。

 何も無い所に急に現地の人間しか知らない小さな村があったり、描かれている存在するはずの村が廃村になっていたりする。

 そして『〇〇の村が出来た』『〇〇の村がなくなった』という話が旅人から地図の書き手に伝わって反映される頃にはまた変わっているのだろう。


「真っすぐ進めば魔族が侵攻を躊躇うほどの大山脈が見えてくるはずですよ」


 身を寄せ合って一つの毛布に(くる)まっていたルキアが地図に描かれている北の大山脈を指でツイ…となぞる。


「山の(すそ)沿いを歩けば巡礼者相手に食料や燃料、防寒具などを売っている商人や村があるはずですので、その方たちに聞けば山越えのルートも分かるはずです」

「ふむ…」


 焚き火が『パチッ』と爆ぜた、新しい枝を数本焚き火にくべる。


 今のオレとルキアはあの指輪を指に嵌めている、魔族以外からは白髪で赤い眼の少年と金髪の美女にしか見えないだろう。


「随分寒くなって来たなー…」


 辺りの景色もかなり寂しい。


「もうすぐ雪が降り始めるはずですよ、走鳥は寒さに弱いのでどこかで売らないといけませんねぇ」

「いよいよ荷車を自分で牽く時が来たか…」

「我々魔族よりも非力な人間でも走鳥を持っていない商人は自分で牽くんですよ?ゼノ様」

「俺は疲れるから嫌なんじゃないぞ?」

「面倒だからですよね?ふふ」

「そうだ」


 にまにまと笑っているルキアの頭を撫でてやる。


「どんな所なんでしょうね、レスティアス神聖国って。やっぱり美しい聖堂とかあるんしょうね~」

「ほら、ルキア、さっさと寝ろ。夜の(ばん)は俺の仕事だぞ?」

「はーい」


 ルキアがオレと共有していた毛布から抜け出して新しい毛布を取り出す。

 背嚢を枕に毛布に包まるその寝顔を穏やかな気持ちで眺めながら、オレは赤く燃える焚き火から零れ落ちた炭をクリヴァールの先で突いた。





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