第72話
あの魔王軍との戦争から2月以上が経ち、オレとルキアは二人で森の家に暮らしていた。
魔王との戦いで気を張っていた反動だろうか?最近は何もやる気が起きない。
そんなオレに小言一つ言わずにルキアは『新婚さんみたいですね?うふふ』と喜んでいた。
今、森の家の小川の傍、大きな岩の上で日向ぼっこをしているオレの傍らにはアーティファクト『吸生蛮刀サングイス』がある。
北東で王国軍と魔王軍がぶつかった際に敵将が持っていたマチェットらしい、蛮刀にしてはかなり大きい。
叙勲式で褒美に要求したらすんなり貰えた。
ただ、交換条件として断山剣を国に接収されてしまったが。
あの大剣はマグナスが50年も愛用していた為、剣聖の象徴の様になってしまっている。
ならば弟子のオレが持っていてもよかろうと言ったら『貴方が七星に入った際に下賜します』と言われてしまった。
ルキアも七星の勧誘を断り、なんとゲイルも勧誘を断った。
今、そのゲイルはクレア王国騎士団長になっている、七星と共に敵の将軍から国を守った褒美らしい。
そして元騎士団長のアリオスはというと、先月ルマロス帝国の上層部の大量処刑が終わった後にミリア女王と婚礼を行い、今は王配として城にいる。
ゲイルは七星を蹴って空席となった騎士団長に治まったという訳だ。
そしてクオンは先月からシェクルト教団の宿舎で妹と共にに住んでいる。
妊娠したらしい、父親は言うまでもなくオレである。
11歳くらいなのに父親になってしまった。
王都には当然医者もおり、治癒魔法使いも常駐している。
異種族の暴力に晒されて望まぬ子を身籠った女性の支援なども行っているシェクルトの方が良いだろうと言う事でこうなった。
「シェクルトの大きな支部を旧ルマロスに作ってもらえるんだってな」
「はい、獣人奴隷の一斉解放が行われるらしいと今ルマロスでは手持ちの奴隷の売却に貴族が奔走しているらしいですよ?」
「その爵位自体も失いそうだしなー」
「少し可哀想ですか?」
「いいや?全く。獣人の国を襲い、殺し、犯し、奪い盗って成りあがった奴らだからな」
「そうですねぇ」
のどかな時間が流れる。
「そういえば空席になった七星が決まったそうですよ?」
「え?ゲイルでもルキアでもオレでも無く?」
「はい、アルファさんだそうです」
アルファさん、一体誰だろう。
「アルファさん?」
「はい」
「誰…?」
「王宮図書館の司書さんの」
頭に本好きの白い甲冑が浮かんだ。
古代兵器じゃないか、もうなんでもアリだな七星。
「それ序列ってどうなってるんだろうな」
「さぁ、そこまでは私にも…」
強さだけなら賢聖アズライルも竜人ジルニもアルファに敵わないだろう。
魔神解放したアズライルですら勝てるか怪しい。
「ふーん、まぁアイツ強いからなぁ…」
欠伸が出る。
「ゼノ様、旅行に行きませんか?」
「旅行~?」
「はい!」
「北?南?ザハンナ大陸?」
「旅行に行きたいだけで別にどこに行きたいという訳では無いんですが…」
それは困った。
オレはここから動きたくない、だというのにルキアはどこかへ行きたいがどこに行きたいかは決まっていないという。
あぁ、オレを動かしたいのか。
このままでは苔が生えそうだもんな。
「行くなら、北かねぇ。でも寒いよなぁ…」
「今の時期ならそれほどでもないはずですよ?」
「うーん」
「私は別にルドラ王国でも構いませんが…」
「でもルキアはルドラ王国に行った事あるんだろう?」
「ええ、まぁ…、あそこは異種族に寛容ですので…。実際シェクルト教団が出来る前、ザハンナ大陸からこっちに来た時の拠点はルドラにありましたし」
「うーん、どうせ行くなら行った事無い場所がいいよなぁ…でも北かぁ…うーん」
そのまま『うーん』と唸っていたら寝てしまって夕方になっていた。
『風邪を引きますよ』と布を一枚掛けられていたが魔族、しかも上級魔族ともなれば風邪など滅多に引かない、数十年に年に1度あるかどうかである。
ルキアと一緒に夕飯を食べる間も悩んでいたらルキアが食事の手を止めてこっちを見ていた。
「我儘を言って申し訳ありませんでした…」
ルキアがしょぼんとしてしまった。
「いやッ!いやいや!行く気にはもうなってるからッ!」
「…そうなんですか?」
「うん、レスティアス神聖国かルドラ帝国。ならやっぱり行った事の無い北かなぁ」
「レスティアス神聖国ですか」
「問題は入れるかどうかなんだよなぁって考えていた。レスティア教の敵だろう魔族って」
「そうですねぇ…レスティアス神聖国にはシェクルトの人間もほとんど入り込めてはいません、そもそも異種族があまりいない国ですし」
「なるほどなぁ…」
「ゼノ様が女神レスティアによって現世に蘇ったという話も懐疑的に思われているようです」
「うーん、行って門前払いされたら無駄足だしなぁ」
「女王陛下に一筆書いて頂くと言うのはどうでしょう?」
「おっ!いいなそれ、それで行こう、うん」
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ユークリッド大陸の北、一年中雪に覆われたレスティアス神聖国の聖都、その外れにある小さな孤児院の院長室にて院長に若い少女が声を荒げていた。
「どういう事ですかっ!?」
「こちらが聞きたいくらいです、聖女サニティア」
「…ッ!」
「ごめんなさい、サニー。貴方に当たっても仕方ないといのに…」
「いえ、しかし一体なぜそんな…」
「魔王が誕生し、クレア王国に侵攻したようです」
「!?」
「それにより多くの避難民がルドラやレスティアスに流れた事により、食料が高騰していると」
「だからと言って、いつも飢えている孤児たちへの配給をさらに減らすなどと…!」
「私も抗議はしました、ですがとにかく減らすの一点張りで…」
「…なんとかならないか大司教様に掛け合ってみます!」
「申し訳ありません、サニー…」
「いえ、ここは私の実家のようなものですから…なんとかして見せますっ!」
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聖都レスティアスにある大聖堂の一室。
「どういう事ですか!大司教っ!!」
「落ち着きなさい、サニティア」
豪華な執務机にカエルの様な顔をした男が座っていた。
暖炉には薪が潤沢にくべられ、窓の外、万年雪化粧をした大聖堂とはまるで別世界だ。
「珍しいですね、サニティアが自分からここへ来るなんて」
「落ち着いていられませんっ、孤児院への配給を減らすなどと…子供達が飢えて死んでしまいます!」
「私も心苦しいのですよ?それに減らしたのはあの孤児院への配給だけではありません、全体のです」
「削るならもっと他にあるはずです!」
「ふぅむ…、もう一度他に削れる場所が無いか、考えてみて欲しいという『嘆願』という事でいいのかな?」
「っ!!…そう、です…」
「うーん困りましたねぇ、サニティアの願いなら聞いてあげたいのですがねぇ…」
「どうにかなりませんか?大司教様…」
「そうですねぇ…」
カエルの様な顔をした男が途中で邪魔されぬ様に入り口の鍵を内側から閉めた。
人の悪意に疎い聖女は、この男が自分に頼みに来る事を分かっていて配給を減らした事など想像もつかない。
大司教とサニティア
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