第61話
何の説明もないまま冒険者ギルドを追い出されてしまった。
受付に冒険者達が『どういう事だ』と詰めかけていたが暖簾に腕押し、クエストは受けられないの一点張りだった。
『とりあえずヴァルハラガーデンに戻ろうぜ』
と宿屋に帰って来たがやる事が無い。
「新しい魔王でも誕生したってのが一番ありそうだ」
「そう、ですね。前回の剣の魔王から50年以上、あり得ます」
「魔族領ザハンナ大陸って今人間が開拓しようとしてんだろ?難航してるとは言ってたがどうなってるかルキアやクオンは知ってるか?」
「シェクルト教団はザハンナで活動していないので…、申し訳ありません」
ルキアが申し訳なさそうしている。
「スヴィルという港を備えた開拓街がありますが、魔族に取り返されたという話や、何か問題が発生したという話はありませんね」
クオンが知っている情報を話す。
「もうすでにこの大陸に魔王が率いる軍団がいるンじゃねェのか?」
ゲイルの発言に全員が固まった。
「あり得るな…」
他の冒険者達も予定が狂ったのだろう、まだ店も開いて無いと言うのに続々と酒場に集まり始め、テーブルが埋まっていく。
一体何が起こっているのか皆不安なのだろう、あれこれ予想しあっていた。
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「まさか私の代で魔王が現れると思ってもいませんでした…」
王城の会議室にはすでに七星全員が集まっていた。
「女王陛下、すでに冒険者ギルドには業務停止の通達を送りました」
「ありがとうございます、それではこれより新魔王についての会議を始めたいと思います。ローザ、報告を」
「はい、新しく現れた魔王はジズ・コルニクスと名乗っており…」
女王の側近、近衛兵長でもあるS級『薔薇騎士』ローザ・ヴェルミリアが報告を始めると超越者と呼ばれるS級集団の七星ですらどよめいた。
それは400年前に勇者クレアと魔将ゼノの共闘によって討たれたはずの魔王だ。
「コホン、報告を続けます。魔王はジズを名乗り、廃都オーロンを占領。オーロンに基地を作り活動していた我が国の歴史調査隊が捕まり1名を残して全滅。その1名はわざと生かされ鏑矢代わりに解放され1月かけて戻ってきました。すでに魔物の大群と将軍クラスの魔族が2名確認されておりますが解放された者は魔王自体は見ていないという事です」
「1月前ですか…、すでに進軍していてもおかしくはありませんね」
「そうですな、魔王1人に将軍クラスが2名と魔物の軍勢ですか、七星3…いや、4人は必要ですね」
カエラムが女王の言葉に私見を述べる。
「ええ、私も同意します。対応する七星を決めなくてはいけませんね」
「オーロンなのだろう?俺が出る」
剣聖マグナスがいち早く立候補した。
「我が王が出るのなら当然ワシもお供しますぞ、故郷の為ですからのぅ、ふぉふぉ」
賢聖アズライルがマグナスに続く。
「戦争なら私のロンゴミアントを出さない訳には行きますまい」
神槍カエラムも参加表明する。
「あと一人は欲しいですね」
「儂はここから成り行きを見させてもらうぞ?」
「ワタシは近衛なので女王陛下のお傍に」
拳聖ジルニと薔薇騎士ローザが居残る意思を見せた所で先代女王『拒絶』キリシアが口を開いた。
「私が出ましょうか?」
「いえ、お母様には出来れば残っていただきたいのです。王都自体を強襲された際、守るという意味で最高の力を持つ『拒絶』は王都に残しておきたいので」
「では私が出よう」
マサムネが目を閉じたまま言う。
「決まりですね?神槍カエラムにはアリオス率いる王行軍と有志の冒険者に同行し、魔物の軍勢と戦って頂きます」
「はっ!」
「マグナス様とアズライル様にはオーロンにいる魔王討伐をよろしくお願いします」
「うむ」
「マサムネ様には将軍クラスの魔族の相手をしてもらう事になると思いますが、前線に1人は出てくるであろう事が予想されます。カエラム様の旗下に就いていただけますか?」
「あい分かった…」
「ローザ、冒険者ギルドと中央広場に新たな魔王誕生の報せと有志の冒険者を募る広告をお願いします」
「畏まりました」
「しかしジズか…、間違いなく死んだと聞いていたが一体どうなっているのか…」
マグナスが呟く。
「とりあえず魔王軍が侵攻していないか密偵をオーロン方面に向けて至急放つしかありませんね、最悪2週間ほどで戦端が開かれるやもしれません…」
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やる事がないのでヴァルハラガーデン1階で昼間から酒を飲んでいる。
依頼をこなしにいったはずの冒険者が街に溢れ、朝チェックアウトしたはずの冒険者達が戻って来たので臨時で女将が気を聞かせて酒場を開いてくれた。
しかし人の多さはまるで夜の様だが、冒険者達の顔は一様に暗い。
ギルドが業務を停止するというのあ大事件である。
冒険者達の頭の中に『戦争』の文字がすでに浮かんでいる。
どの卓も活気が無い。
「お、いたいた」
そんな酒場に七星『剣聖』マグナス・オーロンが現れた。
何か異常事態が起きているのだ、突然やって来た事情を知っているであろう剣聖の登場に客の視線が集中する。
「フフフ、聞きたいがある顔をしているな?教えてやるぞ?どうせ明日には国中が知る所になる」
そんな事を言いながらジジイはオレ達のテーブルに座った。
「で?何があったんだ?」
「新しい魔王が誕生した」
剣聖が来た事によりいつもの喧騒はどこへやら、聞き耳を立てていた冒険者達が一斉にざわつき始める。
「やっぱりか…」
「予想はしていたか、フフ」
「人間か魔族と戦争以外考えられなかったからな」
「魔族の王は廃都オーロンを占領し、少なくとも2人の将軍級の魔族を従え魔物の軍勢まで用意しているらしいぞ?」
「一応本気でクレア王国を落としには来てるんだな」
「あの、位置的にはオーロンからならクレア王国より直線距離でレスティアス神聖国やルドラ王国の方が近いのでは?」
ルキアの疑問に答えてやる。
「責めない理由か?レスティアスはあんな1年中雪に覆われた草も木も生えない大地なぞ魔族もいらん。高い標高と振り続ける雪により天然の要塞のようだ、あんな所の侵略に時間を掛けていれば間違いなくクレア王国に背後から挟み撃ちにあうだろうな、責めるにしても最後だ。そしてルドラ王国だが、そもそも魔族はドワーフ達を人間だと思ってない」
「え!?そうなのですか?」
「ハーフのルキアには分かり辛いかも知れないな。人間はドワーフを人族の仲間だと思っているが、魔族はドワーフを人間だと見ていない。だから過去の戦争でも魔族はルドラを襲っていないし、ルドラ王国内に普通に魔族が生活していたりする」
「それ…肝心のドワーフの自認はどうなっているのですか?」
「あいつらはドワーフはドワーフであって魔族でも人族でも無いって感じだぞ」
「クレア王国に宣戦布告した理由は魔王の名前を聞けば一発でわかるぞ、フフフ」
「誰だよ、魔王名乗ってる奴」
ジジイはオレの方をニヤニヤ見ながら勿体ぶって言った。
「魔王はジズ・コルニクスを名乗っている」




