第59話
クレア学園、学園長室にオレと神槍カエラムは立っていた。
カエラムの腕はすでに魔法治療されており袖は無いが傷も残っていない。
「無断で修練場を使った上に、建物を壊すとはのぅ」
「申し訳ございませんアズライル様…」
「まぁ、面白い物を見せて貰ったから別にいいがのぅ」
シアの父と話しているのはこのクレア学園、学園長の賢聖アズライル・ブラエだ、だがその視線はこっちに向いている。
「オレは謝らんぞ。そもそも模擬戦を提案したのも神槍だ。子供の尻は大人が拭くべきだ」
「ワシもそう思うよ、ふぉふぉふぉ」
「もう帰っていいか?」
「不問にする代わりに一つ聞いていいかのぅ?」
「…なんだ?」
「どうやって400年の時を超えた?なぜ子供の姿なのだ?」
「一つじゃねぇのかよ。まぁいい、どちらの答えも同じだからな。オレは勇者を助けた褒美として女神レスティアに転生させてもらったのさ」
「転生…ほぅ…」
白い髭を撫でながらどこを見ているのか遠い目をしている。
オレはジジイから聞いてコイツが背中に魔神を飼っている頭のおかしいイカレた奴だと知っている。
一刻も早くこの場を立ち去りたい。
老人はしばらく落ち窪んだ瞳を宙に彷徨わせていたが、視線がギョロリとこちらへ向いた。
「死ぬとはどんな感じだ?転生から目覚めた時どこにいた?其方はまた女神レスティアに会えると思うか?会おうと思ったらどう行動する?女神はどんな姿をしていた?他の神を見たか?天界はどんな所であった?人の魔法は通用すると思うか?女神も死ぬのか?女神が死ぬとどうなると思う?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問にカエラムもどん引いている。
「申し訳ないがな、賢聖アズライル・ブラエよ。オレは師である剣聖マグナス・オーロンよりお前には気を付けろと言われている。これ以上話すつもりは無い。正門は悪かった、そこの神槍が責任を取る、ではな」
一気に捲し立てて、踵を返す。
「……ふぉふぉ、その名前を出されたらワシも引き下がるしかないのぅ…」
背中に嫌な視線がまだ絡みついているのが分かる。
ジジイの弟子になっていて本当によかった。
学園長室の外へ出ると廊下で待たされていたシアが駆け寄って来た。
ギュっと抱き付いてくるのを受け止める。
「何か罰などは…」
「いや、お咎めなしだってさ」
「よ、よかったぁ…」
「これに懲りたらシアも父親をあまり困らせない様にな?王都で冒険者をしているんだ、また会えるんだから」
「はい…今日は申し訳ありませんでした」
「まーオレも楽しかったからな、親父さんとの模擬戦も、お前との散歩も」
「また時間が合えば散歩しようぜ」
「はいっ!」
もう外は暗くなり始めていた、帰らないとルキアが心配する。
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酒場『ヴァルハラガーデン』へと戻るとすでにルキアが席について待っていた。
「あっ!ゼノ様!もー、心配しましたよ、何をしていたんですか?」
「シアと散歩してたらシアの父親の七星『神槍』に捕まってな、クレア学園の修練場で模擬戦やらされてた」
「えっ!?大丈夫だったんですか」
「学園の正門壊して怒られて来たよ」
「えぇ…」
「大丈夫だ、特に罰はなさそうだったしな」
どこから着いて来ていたのだろう、クオンが後ろからオレを追い越して先にテーブルに座る。
「模擬戦の方はどうだったんですか?」
「勝ったと言っていいのかな、オレは本気でやってたけど神槍の方から終始殺気を感じなかったし」
「手を抜かれてたとしても互角に戦えたという事ですよね?流石ですゼノ様」
「魔力はこっちが上だが、オレの魔法攻撃は基本的にクリヴァール頼りだからなぁ、魔法の技術は神槍の方が上だったな。単純な力もあっちが少し上で、槍の腕もあっちの方が上だな」
「よく互角に戦えましたね?」
「むしろオレは人間相手に苦戦して軽くショックを受けてるよ…。いくら鉈無し大剣無しとはいえな。七星はどいつもこいつも400年前の英雄級だなぁ…」
今日は見慣れない娘が給仕をしている、あれ?そう言えば昨日もいなかったような。
「あれ?クララは?」
「お兄さんのゲイルさんと昨日の朝から故郷に帰省らしいですよ?墓参りするとかなんとか」
「なるほどなぁ」
見慣れない給仕を呼び止めて料理を注文する。
「さて、クオン、ルキア。明日からいよいよ冒険者再開だ。っとその前にクオンの冒険者登録ってどうなっているんだ?」
「…私はA級ですね、多分冒険者ギルドに籍は残っているはずです」
「オレとルキアはC級だな、アルファと出会った遺跡の野盗退治以来か…。クオンには悪いがこっちのランクに合わせて貰うぞ?」
「合わせるも何も、C級あれば充分ですよ。たまにB級指定があるくらいでほとんどの依頼はC級で受けられるはずです」
「B級ってどんな依頼が指定されるんだ?」
「強力な魔物や緊急性の高い討伐依頼ですね、依頼を受けた冒険者が死にそうな奴です」
「やっぱC級やD級に任せても無駄死にしそうだからって事か」
「はい、盗賊団などの討伐依頼なんかにも指定されやすいですね、相手がアーティファクトを所持している事が判明していたりすると報酬も危険度も跳ね上がります。B級どころかA級が呼ばれたりしますね」
「S級は?」
「彼らは国の軍事力ですので。魔王が誕生した際の安全保障や他国への牽制だったりですね。居るだけで仕事をしているとも言えます」
「はぇー…なるほどなぁ…」
「もういいですか?」
「お、おう。手を止めさせて悪かったな」
「…いえ」
そう言うとクオンは運ばれて来た食事を食べ始めた。
一応話かければちゃんと返してはくれるが食事中のクオンは食べる事を最優先したい雰囲気が出ている。
オレとルキアが会話している時も、この間ゲイルが襲来した時も、黙々と食事を続け居ていた。
「オレとルキアの冒険者の旅が始まって以降、クオンが密偵としてずっとついて来ていたからなんだか改めてクオンが加入したって感じがしないなぁ」
「そうですね、なんならずっと3人で冒険していたような気さえします、ふふ」
目の前で自分の話をされているというのに、クオンは手を止めず食事に集中していた。
ジっと見ていると気付いたクオンと目が合う。
「何か?」
いつもの眠そうな眼で、感情の乏しい表情で、首を傾げる姿がかわいかった。
「いや別に?ははは、美味いか?」
「ええ、あげませんよ?自分で注文してくださいね?…すみません給仕さん、これと同じ物を下さい」
おかわりを注文している。
あの細い体のどこに料理が消えているのか本当に謎である。
本編とは関係無いR18
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