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魔族の将、二度目の人生を自由に生きます  作者: 灰銀朔太郎
第五章『刃風』

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第58話



「合格です、ゼノ様、よく頑張りましたね」


 ようやく…、ようやく合格する事が出来た…、長かった…、早起きから解放される…。

 喜びを噛みしめているとオレが救った獣人の娘達が拍手をして祝ってくれた。

 存外に嬉しい物だ。


 しかしそれは冒険者の再開と、シアとの午後の散歩の終わりでもあった。




 いつものように子供達と遊んでやり、いつもより多めに露店でおやつを買ってやる。

 冒険者を再開するからもう来られない事を伝えると意外とあっさりしていた。


『オレたちもがんばって冒険者になるぜ!』


 などと意気込んでいる。



 子供達と空き地で遊んでいるといつも通りの時間にシアが現れた。


 2人でいつも通り過ごす。


「シア、シェクルト教団でやってた読み書きの勉強が終わった」

「それは…、おめでとう、ございます…」

「ははは、全然めでたくなさそうだぞ」

「もう、会えなくなってしまいますから」

「会えはするだろ。依頼で空ける事はあっても、帰ってくるのはこの国だ」

「そうですが…」




「見つけた。こんな所にいたんだね、シア」


 声に視線を向けると、シアと同じ青い髪をオールバックにしたおっさんが立っていた。

 神槍か?


「お父様…」

「いけない娘だ。パパは悲しいよ、学園から『娘さんが毎日午後の授業を早退しています』という連絡を家の者が受けてね?まさか午後の授業をサボって街を遊び歩いているとは」


 シア、お前サボりの常習犯だったのか…。


「ダメじゃないかシア、さぁ帰ろう」

「…嫌です!」

「なっ…何を言ってるんだいシア!?」


 酷くショックを受けている、家でシアが父親に逆らう事など滅多にないのかもしれない。


「ゼノ様と気ままに過ごせるのは、今日が最後になりそうなので…」

「…どういう事かな、ゼノ?」


 おっと、矛先がこちらに向いたぞ。


「明日からまた冒険者でオレは忙しくなるんだよ。シアと街をぶらつけるのは多分今日が最後だぞ」

「口の利き方に気を付けたまえよ。キミが処刑や幽閉されずに済んでいるのは私や他の七星のおかげだと言う事をわかっているのかい?恩を仇で返す気かな?」

「ふん、そっちこそ分かってんのか?おっさんはもう負けてるんだぞ?」

「矛を交えてもいないのに勝った気か…?」


 雰囲気が変わった。


「娘を持つ親として、だ。放置していればシアは取られる。かと言ってここで無理矢理引き離してもシアに嫌われる。おっさんの負けだ」


「…なるほどね、ふむ。…ついて来なさい」




 ───────────────────────────────────




 なぜかオレは今、クレア学園に来ていた。


 でっけー…でかすぎる。

 こっちが城だと言われても信じてしまいそうなほど大きかった。

 流石国の名前を冠した王国唯一の学園なだけはある。

 学園自体もさることながら併設された生徒用の寮ですら凄まじい大きさだ。


 学園の正門をくぐり、修練場に連れられて来た。

 え?戦うの?


 目の前にはシアの父、神槍カエラム・グレイスが涼しい顔で立っている。

 その手には美しい白金のハルバードが握られていた。


「せめて、キミの力量を計らせてもらおう。娘を預けるに足る男かね」

「そもそもオレは魔族なんだがそれはいいのか?」

「気にしないよ?」

「オレが『シアはいらん』と言ったら?」


 口にした瞬間、恐ろしい速度で突っ込んで来たハルバードの穂先をなんとかクリヴァールの柄で受ける。


「私の娘が()()()()だと…?」


 めんどくせぇ…。

 娘を奪われたいのか、手放したくないのかどっちなんだ。


「そもそもシアはまだ子供だろう、何をそんなに熱くなってんだ。嫁ぐとしてもあと5年以上先だろ」

「シアが嫁に行く話など聞きたくない!!」


 だめだこの父親、重症だ。

 クリヴァールを力任せに振って押し返す。


「よくわかんねぇけど、模擬戦すりゃいいんだな?」

「あぁ、そうだね」


 やれやれ。

 ならば細かい事は置いておいて、胸を借りて純粋に戦いを楽しませてもらおう。

 最近は雑魚ばかりに相手にしていた、最後に苦戦したのはアルファが居た遺跡のタマゴ野郎くらいだ。


「ここの修練場には全体に強度強化などの魔法がかかっている上に、この模擬戦の用の舞台には外へ被害が出ない様に防護用の障壁魔法までかけられている。全力で掛かってきたまえ」


 クリヴァールを構えて突進する、と見せかけてカエラムの射程外で急ブレーキをかけて槍を振る。

 扇状に爆炎が発生し視界を紅蓮の炎が埋め尽くす。


 上へ跳んでいないか確認するがどうやら炎に飲まれたままだ。

 まさかこんな簡単な技で死んだりはしないだろうと様子を見ていると『ぶわぁっ』と火炎が押し返された。


 晴れた炎の中にはカエラムが聖槍ロンゴミアントを振り抜いた姿で静止している。

 氷魔法の残滓がキラキラと光っていた。


「並みの相手なら今ので死んでいるね、だが私も伊達に七星の末席に加わっていないのだよ」


 ス…っとカエラムが掌をこちらに向けて『アイスジャベリン』と氷槍の魔法を唱えた。


 シアのアイスジャベリンの3倍はある氷の槍がパキパキと音を立てて一気に6本生成、射出される。

 クリヴァールを振って発生させる火炎では飛んできた氷槍を溶かせないだろう。

 横に飛んで2本躱し3本目をクリヴァールで弾き、横に転がりながら4、5本目を避けるが6本目は間に合わない!

 右手に闘気を纏わせて裏拳で叩き逸らした。


『アイスウェイブ』


 カエラムが槍を振って次の魔法を放ってくる。

 氷波の魔法だ、こちらもクリヴァールを振り相殺しようとするが思い直して穂先をカエラムに向ける。


「灼け、クリヴァール!!」


 直径70cmほどの熱線がこちらへ殺到していた氷の波を割り、舞台の床を焼き削りながらカエラムを襲う。

 氷の波と熱線の狭間で凄まじい反応速度でもって直撃を避けたのが見えた。


「ふむ、『点』の威力ではそちらの勝ちかな?」


 カエラムの左腕、肩から先が焼けただれている。

 アイスウェイブを貫く為に出力を絞りすぎたか、致命にはほど遠い。


 オレとカエラムの間にはクリヴァールで焼いて作られた道が出来ており、その両側は氷の波が海となって固まってしまっている。


 地面を蹴って未だ高温の道をカエラムへ向かって突進、クリヴァールに闘気を纏わせて左手で突くがハルバードで打ち払われる。

 だが想定内だ。

 突進の勢いのままカエラムへと肉薄し右足でカエラムの左つま先を踏みつけ、逃げられない様にして思い切り右の拳をカエラムの懐に叩き込む。


「ぐっ…」


 間違いなく肋骨をへし折った手応えが拳を通して伝わり、カエラムが呻く。

 お返しとばかりに火傷を負った左の拳が飛んでくるがつま先を踏みつけたまま上半身を後ろに逸らして躱す。

 追撃に振るわれた超至近距離からのハルバードに左手のクリヴァールを割り込ませて防ぐ。

 右の拳をカエラム顔目掛けて放つが焼け爛れた左手で止められる。


 鉄の鎧をへこませるほどの威力があるはずだがガキのせいで力負けしてやがる。


 だがこれで足を踏まれて退く事も叶わず、両手が塞がっていて防げまい、闘気を纏わせた尾でカエラムの左太ももを穿つ。


「オレの勝ちでいいか?」

「ぐぅ…、まだだよ…」


 オレは先ほど左拳を躱した時の様に上半身を反らして、頭突きをカエラムの胸に喰らわせる。

 浅いが2本の角が左胸に突き刺さった。

 角を突き立てたまま聞く。


「オレの勝ちでいいか?」

「…」


 こんな所で死ぬ気かこいつ?

 そう思っていたら小声で何か話しかけて来た。


「シアが見ている…花を持たせてはくれないだろうか?」


 えぇ…、しょうがねぇな…。


「一旦離れて当てない様に大技を放つ、そっちは適当にやってくれ…」


 神槍の胸に角を突き立てたまま小声で伝えてからバッと後ろに飛んで距離を取る。


 くるりと左手でクリヴァールを旋回させて逆手持ちに変え、左足を引いて半身になり腰を落とした。

 全身を魔力で強化し、クリヴァールに闘気を纏わせ、さらにクリヴァール自体にも魔力を注ぎ込む。

 槍全体が赤く光り始めた。


 カエラムはハルバードを舞台に突き立て『アイスウォール!』とかなりの厚さがある氷壁魔法を発動させていた。


 当たるなよ?


 腕の筋が悲鳴を上げる事も(いと)わず、オレの手から全力の魔槍が放たれる。

 狙ったのは神槍カエラムの横2m。

 射出した瞬間、高熱を纏ったその衝撃波で舞台上の氷が一瞬で蒸発した。


 槍は紅い線となって軌跡を描き、


 カエラムの真横を通り、


 防護障壁に当たり、




 そして()()()




『バリィィ…ン』と魔法障壁が砕けた残滓が空に舞うが問題は槍が飛んだ先だ。


 抜けたのはクレア学園の正門側。

 着弾した瞬間地面が膨れ上がるのが見えた。


『カッ』と一瞬、閃光が放たれた後に凄まじい爆発が起こり、正門も付近の塀も纏めて吹き飛ぶ。

 近くに生えていた木に茂っていた葉も、辺りの草も一瞬で熱風に煽られて発火する。


 学園の窓ガラスが衝撃波を受けて何十枚も割れる。




 爆風が過ぎ去った後、残されていたのはクレーターに突き立つ赤い槍だけだった。




 アルファが遺跡で言っていたな、クリヴァールならタマゴ野郎も倒せるはずだと。

 前世ではその有り余る魔力で振って炎を出したり、切っ先から熱線を照射して使っていたが、どうやらこの槍は魔力をぶち込んで標的に投げる物なのかもしれない。




「おい、おっさん。一緒に謝ってくれよな?」


 どうすんだこれ。


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