第52話
獣人達を乗せた馬車や走鳥で王都に入る。
かなりの大所帯な上にほとんどが人間では無かったがジジイがいるだけで守衛は何も言わずに通してくれた。
「それでは私は彼女達を連れてシェクルト教団の本部へ向かいます」
ルキアと王都内で別れる、クオンとハルカが長めに抱き合っていた。
「彼女達はこれからどうするのだ?」
「シェクルトが保護して寝床と食事を用意させ、言葉が分からなくても出来る仕事を振ったり、休みの日には文字の読み書きを教えるらしい」
「そういえば、お前の座学の方はどうなっている?」
「うっ…まぁ、ぼちぼちだ」
「サボっているな?」
「魔族の人生は長いんだよ、急ぐ必要は無い」
「お前の置手紙がカタコトだった時点で察していたよ」
「…そういえばルキアの首飾りで獣人奴隷の手足の欠損を治した」
「強引に話を変えたな、俺の右腕も治そうってか?」
「無いのは肘から先だろう?首飾りをつけて二の腕で斬れば生えてくるぞ?」
「いらんよ、もう人生の8割近くを片腕で過ごしている」
「…そうか」
妻も、子供も、国民も、国も、何もかも失ったが、どんなつらい事も時が洗い流してしまうのだろうか?
もしかすると無くした腕が、このジジイの胸の中に未だ消えない炎を灯し続けているのかもしれない。
───────────────────────────────────
「よく来ましたね、剣聖マグナス。お帰りなさいクオン。そして初めまして、剣聖の弟子ゼノよ。私はこの国の女王ミリア・クレアです」
若いな、20代後半くらいだろうか、ルキアに匹敵する魔力を感じる。
そしてその女王の隣には赤い髪の女騎士が立っていた。
薔薇の意匠が施された細剣を腰に吊るし、薔薇の意匠の鎧を着ている。
こいつ、七星『薔薇騎士』ローザ・ヴェルミリアか。
ジジイは跪かない、クオンは片膝をついている。
オレも倣った方がいいのだろうか、まぁいいか。
「女王よ、今日は報告に来た」
マグナスの不躾な切り出し方に女王は続けろと無言で返している。
まぁジジイも亡国とはいえ元国王だからこれでいいのか、いや七星だからか?
「俺の弟子のゼノがルマロス帝国の皇帝を暗殺し、城に囚われていた獣人を10人ほど解放して戻って来た」
「はい…?今、なんと…?」
「俺の弟子のゼノが…」
「聞こえていました、頭が理解を拒んだだけです。手綱を握っていたのではないのですかマグナス」
「冒険者にさせたからな、手紙で報告はしたはずだ、俺は放任主義だ。その為に密偵としてクオンを付けたのだろう?」
「そうですが…、なぜそんな事に…なるほど、クオンですか」
「彼女が暗部に入ったのは生き別れた妹を探せると思ったからだそうだな?そんな事を俺の弟子が聞けばフラッとルマロス帝国へ旅行に行くのも必然だったのであろう」
「それがどうして皇帝暗殺などになるのですかっ!」
女王がこめかみを抑えながら声を荒げた。
「妹を見つけたからでございます、陛下」
クオンが答えた。
「皇帝が私と同じ少数氏族の銀狐族を飼っている事と、新しい銀狐族を所望している事を帝都で知り、わざと人身売買会場にて自身を餌に売って、まんまと計画通り落札したのが皇帝でした」
「はぁ…。どうしましょう…、こちらの暗部が他国の皇帝を暗殺などと…」
「私とゼノがこの国の者だと言う事はバレてはおりません」
「逃げた先がクレア王国なら追及は避けられません…」
「そんな魔族は知らないと突っぱねればよかろう」
マグナスが助け船を出した。
「簡単に言いますがね?暗部のクオンはともかく、少し街で魔族の事を聞いて回れば剣聖が魔族の弟子を取った事など誰でもわかりますよ!?」
マグナスは女王の話に耳を傾けず、おもむろに布に包まれていた皇帝の杖を取り出した。
「それは…?」
「万変杖ムタティオ」
「ッ!!そ、それをどこでっ!?」
「殺した皇帝が持っていたらしい。皇帝は若い騎士団長アリオスの姿で、追いつめられると俺の姿に化けたらしいぞ?」
「なんと…そうでしたか、ルマロス皇帝が、アリオスの姿で、それは…本当に危なかったですね…」
女王はさっきまでの勢いが嘘の様に、魂が抜けたかのように脱力し、豪華な椅子に深く沈みこんだ。
「これはゼノと、そしてクオンの手柄だ」
ジジイが女王へと歩み寄り、その杖を女王に渡した。
「そうですか…、褒美を、取らさねばなりませんね…」
「そうだな」
「クオン、何が望みですか?」
「妹も無事見つかりました。ただのクオン・アンブライトに戻らせて頂けないでしょうか?」
「わかりました…、いいでしょう。ゼノ、貴方は何か望みがありますか?」
杖を見せた途端一気に形勢が逆転した。
女王はこの杖のヤバさをしっかりと理解しているらしい。
「特にない。あぁ、もしルマロス帝国に何か言われたら『そんな魔族は知らない』と突っぱねてくれ」
「わかりました、それでいいのですね?」
「あぁ」
「報告は以上だ、女王よ」
マグナスは話を切り上げさっさと帰ろうとしたが女王に呼び止められた。
「獣人の奴隷を10人ほど解放したと言いましたね?今どちらに?」
「シェクルト教団で面倒を見る事になったらしいな」
「そうですか、まぁルキア・ドロアが同行していたのならばそうなりますか」
「では失礼する」
「はい、下がりなさい」
───────────────────────────────────
クオンとジジイと連れ立って城を出てた頃には夕暮れ時だった、ヴァルハラガーデンへと着くと調度開店したばかりの様だ。
「ジジイ、ありがとな」
「礼はいらんよ、ストルトは捕まえねばならん奴だった。お前とクオンはそれを成して、正当な褒美をもらったに過ぎん」
「たまたまだけどな」
「フフフ」
「そういえば女王は皇帝がジジイの姿になった事よりアリオスの姿に化けてた事に驚いてたな?」
「ん?ああ、知らなくても仕方ないか…」
「なんだ?」
「アリオス・デントは女王の婚約者、王配だぞ?」
「は…?」
「だから皇帝がアリオスと瓜二つの姿で好き勝手していたのは女王的に大問題だった訳だ」
「今まで知らなかったのかよ!?」
「いつも会談には代理が来ていたからな。そりゃあ表に出て来ない訳だ。お前から話を聞いた時に得心が行った、クレア王国の人間に顔を見せる訳にはいかなかったのであろう」
「はぇ~…」
「だからお前の行動は不問どころか大手柄、杖も回収出来てクオンの自由くらい安いもんだ」
「なるほどなぁ…」
テーブルに着いて雑談しながら待っているとルキアがやって来た。
「彼女達は無事に預けられたか?」
「はい、募金も大変喜ばれましたよ。ですがゼノ様の活躍を大々的に喧伝する件ですが…」
「ああ、止めといた方がいいな。皇帝暗殺の犯人だ。ルマロス帝国に目を付けられるとシェクルトが危険だしな」
「はい。ですが獣人を保護した事は広めますよ?クレア王国内の困っている獣人にも届くように」
「そうだな」
「ルキア殿、妹を、同胞たちの事をよろしく頼む」
クオンが改まって頭を下げた。
「ルキア、でいいですよ。これからはクオンさんも私たちの仲間になるんでしょう?」
「む…」
クオンが言い淀んだ。
「え…?ゼノ様まだ誘ってなかったんですか!?」
「そういえばちゃんと誘ってなかったかもしれない」
「一晩一緒に居て何やってるんですか、もー」
「すまん。クオン、改めてオレ達の仲間にならないか?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
クオンはそういうと少しだけ微笑んだ。
やりとりをニコニコしながら見ているジジイが鬱陶しかった。




