第50話
翌朝、日の出と共に廃村を出発する。
追跡部隊を全滅させたとはいえ、あまりのんびりしていると追加の兵士が来ないとも限らない。
夜、奴らが乗って来た走鳥を5匹拝借して獣人の娘に宛がった。
これで金貨を乗せた荷車を牽く走鳥のルキア、走鳥6匹に乗る獣人の娘、奴隷を4人乗せた馬車、そして走鳥に乗ったオレ、随分と馬車の負担を減らせた。
これなら相当距離を稼ぐ事が出来るだろう。
「みんな!これから国境を目指す、昼には付くだろう!そこを超えれば自由だ!!」
奴隷達の表情が少し明るくなった。
最後に食事を取ったのはなんと一昨日の夜だ、みんな水だけで不満も漏らさずよく耐えている。
村を出ると50人以上の敵兵の死体が転がっていた。
走鳥に乗った獣人の娘や馬車の窓から外を見た娘達がその凄惨な光景に青ざめている。
「これは…貴方様が…?」
「ん?ああ、そうだ、昨日の晩に攻めて来た」
クオンの妹のハルカだった。
「それは、ええと…、ありがとうございました…」
少し迷って、それからオレに礼を言った。
守ってくれてありがとう言いたかったのだろう、だが目の前の死体達を見て迷ったか。
あんな目にあったというのに優しい奴だな。
「別に礼はいらん」
「何か、目的があるのですか?」
「お前の姉が欲しいだけだな」
「朝から私の妹相手に何を言っているんだお前は…」
クオンが御者台から口を挟む。
「それ以外に説明のしようが無いからな。クオンが助けたいと言ったからその妹を助けた、クオンが奴隷達を一緒に逃がしたいと言い、その方法があったからついでに助けた。それだけだ」
「ハルカ、その魔族の相手をしなくていいぞ。見た目は10歳ちょっとだが中身は90歳を越えている」
「90…?とてもそのようには…魔族は成長が遅いのでしょうか…?」
ハルカがオレをジロジロ見ながら戸惑っていた。
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「見えたぞ、ゼノ」
御者台からクオンが声をかけてくる。
遠めだが目を凝らすとどうやら封鎖されている様子はない。
あの杖を取り出して変身出来る一覧からアリオスの姿を選択する。
オレの顔を見たハルカが目の前で『ヒッ…』と小さく悲鳴を漏らした。
「安心しろ。この杖は他人の姿に化ける事が出来るんだ、ハルカもよく知っているだろう?この姿であの関所を抜ける」
「そ…そうでしたか…申し訳ありません、その杖を、その顔を見るだけで、体が竦んでしまいます…」
「いや、オレの方こそ先にこの姿になる事を説明してから変身するべきだったな、配慮が足りなかった、悪い」
ハルカに一言謝罪してから馬車の入り口を開け放ち、天井の縁を掴んで逆上がりのように荷台の上へ移り、屋根の上を歩いて御者台のクオンの隣に座った。
「一応皇帝のフリで切り抜けられないか試してみる、無理なら殺す」
「了解した」
クオンがキリっとしている、お仕事モードだ。
関所に近づくと守衛が3人やって来た。
「こっ、皇帝陛下!?なぜこんな所にッ!?」
「クレア王国との会談が急遽決まったのだ、馬車の奴隷や後ろの奴隷はクレア王国への貢ぎ物である。オレと一緒に通せ」
「か、畏まりました!!」
こいつらアホだな、皇帝が御者台に座っている事や護衛が誰もいない事、獣人の奴隷達が首輪もつけずに後ろから走鳥で大人しく着いて来ている事になんの疑問も抱かないらしい。
呆気なく国境を越え、そしてオレ達一行はジジイの森の家を目指した。
あの家には行きに置手紙を残してある。
『オレに付いている密偵クオンの妹を探しにルマロス帝国へ旅行する』と書いて、だ。
最後にジジイの家を発ってからずいぶん経つ、もし手紙を読んでいたのならもしかすると森の家にジジイがいるかもしれない。
途中で一度野宿を挟み、オレとクオンで鹿を2頭狩って川で腹を割って捌き、助けた獣人達とみんなで焚き火を囲んで久々に食事を取る。
「クレア王国の王都内にはシェクルト教団という異種族で助け合う教団の本部がある。お前達をそこへ預ける予定だ。寝る所も食事も、望むなら仕事も手に入るだろう、よくがんばったな」
反応は各々様々だったが、皆一様に感謝を述べていた。
あまりこういう経験はないのでむず痒い。
「お姉さま」
「どうした?ハルカ」
「私、シェクルト教団に身を寄せようかと思っています」
「な、何を言い出すんだ!せっかく、10年ぶりに会えたというのに!!」
ハルカの申し出にクオンが狼狽え、珍しく声を荒げた。
「お姉さま、これからはいつでも会えます」
そんなクオンに、優しく、諭すようにハルカは言った。
「私は、私の様に困っている人の力になりたいのです」
「な…本気なのかハルカ?」
「はい。異種族の軋轢で傷ついた人を救い、助け合い、共存する、そんな活動があるのならば、私はその力になりたいのです。私がゼノ様に助けられたように…」
ハルカのまっすぐな目がクオンを見ていた。
「く…そうか、わかった…だがいつでもつらくなったら私か…、この男を頼るんだぞ?」
オレもか、随分信頼されたモンだ。
「はいっ」
ハルカが明るい笑顔で返事をした。




