第45話
暗く湿った地下牢にクオンは全裸で繋がれていた。
どうやら何か薬を使われ眠っていたようだ。
この地下牢へ連れて来られて今意識が覚醒するまでの記憶が飛んでいた。
口の中に忍ばせていた針金を舌で探し、口で咥えて使って手錠を外し、自由になった手で首輪を外す。
牢の外へ出ると廊下は薄暗く、最低限の魔力灯しか設置されていない。
そして他の牢にはたくさんの女獣人が繋がれていた。
一瞬何も考えずにこの娘達を解放してやりたくなったが、そんな事は出来なかった。
城の中も、外も、今のルマロス帝国内に彼女達を逃がした所で意味は無い、どうせ捕らえられてどこぞに奴隷として売られてしまう。
また、彼女達全員をつれて逃げる事も不可能だった。
暗い地下牢の道を進むと物音が聞こえた。
そっと覗くと上半身裸の男の背中が魔力灯に照らされているのが見えた。
脚衣を膝まで降ろし、尻を丸出しにして夢中で腰の高さの机に向けて腰を振っている。
それ用に自分達で適当に高さを調節したのだろう、机の足の長さが不揃いで、男が机に手を突いて腰を振る度に机がガタガタと揺れていた。
「ふっ、ふっ、ふっ、んん…?交代かぁ?ちょっと、待ってろ、今、終わるっ、うぅ…くぅ…」
男が爪先立ちになって腰を机に打ち込み、止まった。
その汚い男の尻が収縮し、腰が小刻みに震えている。
「ふぅ…出た出た…、糞みてぇな仕事だがコレがあるからやめらんねぇ。へへっ、よし、終わったぞ~」
そう言って振り返った男の顔をクオンが蹴り飛ばし一撃で首の骨をへし折って殺す。
首を折られた男は下げた脚衣に足をとられ横倒しになって倒れた。
落ちている鍵を拾い、机に仰向けで手足を机の脚に繋がれていた獣人の少女を解放してやる。
「あ、あの…、助けて頂いてありがとうございます…」
「礼は要りません、むしろ謝らせてください。私には貴方達を連れて脱出する術がありません…」
そう告げると獣人族の少女は絶望した表情でクオンを見ていた。
「本当に、申し訳ありません…」
思わず助けてしまった獣人の少女を牢に残して進むと、丸机を囲んでカードで遊んでいる兵士が3人いた。
先ほど殺した兵士から奪った剣でこちらに背を向けている男の首を刎ね、返す刀でもう一人の頭を割り、残る一人の顔に飛び膝蹴りを叩き込んで殺害する。
三人目を殺した時にようやく最初に首を刎ねた男の頭が床に転がり落ちた。
その顔を見て気付く、自分をここへと連行して来た男だった。
「これでここの兵は全滅でしょうか?ハルカはどこに…」
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地下牢を降りると詰所には3人の死体と全裸のクオンが佇んでいた。
「どうやら助けはいらなかったらしいな?」
来る途中で回収したクオンの服と荷物を投げ渡してやる。
「一つ頼みがあるのですが…」
「ここの女達を助けて欲しいってか?」
「…ッ!!」
城へ潜入して来る途中、兵士の宿舎の方に2頭立て大きな馬車があるのは見かけたが、城門をなんとか抜けても走鳥に騎乗した兵にすぐ追いつかれるだろうし、馬に弓でも射掛けられたらおしまいだ。
「クオンの初めてのお願いだからな、聞いてやりたいところだが。今は妹が先決だろ?」
「そう、でしたね…。同胞の余りの惨状に、目的を見失う所でした…、申し訳ありません」
「気持ちはわからんでもないけどな」
クオンの頭を撫でてやると振り払われた。
「それよりもお前を落札した男だな」
「アリオス騎士団長でしたね」
「やっぱりそうだよなぁ…」
「アリオス騎士団長には妹がいたはずですが兄弟はいません」
「甥とかは?」
「いなかったはずです」
「ふむ…」
一体どういう事なのだろう。
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エントランスホールに居た2人の兵士をクオンと息を合わせて倒す、ルキアの雷魔法は音がするので今は待機だ。
死体を階段の影に隠して階段を上り扉を開くと玉座へと続く廊下に辿り着いた。
廊下の2人の兵が慌てて腰の剣に手をかけるが遅すぎる、オレの投げたナタとクオンの投げた短剣が同時に2人の兜に突き立った。
無駄に派手な扉を開き、謁見の間へと入るとそこにはアリオスが玉座に座り、膝の上に杖を乗せてニヤニヤしながらこちらを見ていた。
皇帝が自らオークション会場で競り落としてたのかよ…。
「おぉ!そろそろ呼ぼうかと思っていたのだが、そちらから来るとはな!ん…?そっちの魔族の小僧はオークションで見かけたな?何をしに来た?」
「そんな事よりお前は誰だ?」
「…口の利き方がなっておらんな小僧、だが今夜は許そう!!なにせずっと求めていた銀狐族が手に入ったのだからな!ふふふ、オレが誰かだと?この帝国で皇帝の椅子に座るのはストルト・ルマロス一世以外にありえぬわ、痴れ者めが!はーはっはっは!!」
「その面はどうみてもクレア王国のアリオスって男だが?」
皇帝の顔がぴたっと凍り付く。
「ふ、ふふふ、ふふふふ。そうか…、貴様らクレア王国から来たのか…ふふふ…」
前言撤回だ。
アリオスはこんな気持ちの悪い笑い方をしない。
ストルトと名乗った男がゆっくりと玉座から立ち上がり、変な杖を脇に置くと立てかけてあった長剣を手にした。
「貴様等が知る必要はない、今ここで天才騎士アリオスの剣を受けて死ぬがよいっ!!」
飛びかかって来たストルトの剣をクリヴァールで弾く。
強いな、アリオス並だ。
クリヴァールを薙いで爆炎を扇状に発生させるが飛び退いて躱されたのが分かる。
「ルキア、クオン、加勢してくれ」
ルキアが右、クオンが左へと離れるのを横目で確認し目の前のストルトを見る。
へらへらしながらこっちを見下ろしていた。
クリヴァールを構えて突進し、突きを放つが剣で逸らされる、逸らされた勢いのまま後ろ回し蹴り放つが左腕で受け止められた。
だが尾の追撃は予想外だったらしく皇帝の太ももを打ち、右側に吹き飛ばす。
ルキアがすかさず雷魔法を放つがその身体に雷撃を受けたまま長剣でルキアへと切りかかるとそれを避けた彼女を素手で殴り飛ばした。
クオンが凄まじい勢いで皇帝の背後へと回り、右手の短剣で切りつけるが皇帝はそれをなんとか長剣で防ぎ『ギャリギャリ…』と鍔迫り合いさせ、彼女が左手の短剣を突き出すとそれを左腕で受け止めた!
クオンが素足で皇帝を蹴り飛ばし距離を取る。
なんだこいつ…、タダのぼんくら皇帝じゃねぇ…。
流石は人間を纏めて獣人の国を盗っただけはあるって事か?
「ルキア、あいつ雷撃魔法直撃したよな…?」
「えぇ、間違いなく…」
「ふふふ、この外套は魔法耐性のある魔道具でな、あの程度なら少々痛い程度で済むのだよ」
皇帝が得意気にこちらへの会話に割り込んでくる。
「でもその左腕じゃもう勝負はついたな?」
「ふ、ふふふ、片腕なら勝てると思ったか…?」
皇帝が後ずさりし、脇に置いていた杖を手に取って掲げると杖が光を放ち始めた。
嫌な予感がする。
「不味い!あの杖、アーティファクトだッ!」
慌てて腰の後ろに下げていたナタを皇帝に向けて投擲する。
だが、なんとナタを素手で受け止められた!
敵の鎧や兜ごと断ち割る回転したナタを、素手で!!
「ふふふ、ふふ、片腕で相手してやろうじゃないか…、勝てるかな?ふふふふ!」
光の中から現れたのは、銀発で、隻腕で、老人で、剣聖だった。




