第4話
「来ました!ゼノ様!!」
山の岩陰から短眼鏡を覗きながらする青髪の子供の報告に岩の上で寝そべり、腹を掻きながら返事する。
「数は~?」
「幌馬車1台!御者1人!護衛は見当たりません!!」
「ふーん…狩るか~」
そう呼びかけると青髪は慌ただしく準備を始めだした。
ここは山の峠道、この世界で目覚めてからすでに2カ月が経っていた。
ええ、山賊になりました。
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魔族なのでフードで隠したとしても街にも村にも入れる気はせず。
どこへ行く何をするという目的も無いまま森の傍にあった山、小川の上流でだらだらと洞窟生活をしていた時だった。
あれから一月ほど経っただろうか、一応消えかけだが轍があるとはいえこの森に馬車がやってくるのは久々だ。
最悪殺してしまえばいいかと接触を試みた。
出会った馬車はまた奴隷商、売り物は子供1人、護衛も無し。
なんなんだ?この森ってもしかして普通の行商人は来ないのか?
「おいガキ、そこをどきやがれ!」
「嫌だね、後ろに乗せてんのは奴隷か?」
「おうとも!てめぇも売り物にしてやろうか?」
そう言いながら御者台から降りて来た男の人生は腰の剣を半分ほど抜いた時に終わった。
荷台を漁る。
チーズ、かっちかちのパン、飲みかけのワイン、軽いサイフ。
「チッ、なんだよ、碌なもん積んでねぇ」
「あ、あの!助けて頂いてありがとうございました!!お強いんですね!私と同じくらいの子供なのに」
「あっ!私はシア。 シア・グレイスと申します!!」
青い髪のガキがこっちを見ている。
もうめぼしい物はなさそうだな。
荷台から降りて立ち去ろうとしたら呼び止められた。
「あの?枷を外していただけませんか?」
無視して歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!どこへ行かれるんですか!?助けくださったのでは!!?」
「奴隷商人は死んだんだ、好きな所へ行きな」
「こんな所で置いていかれたら死んでしまいます!!」
「知らん、勝手に死ね」
とはいえ人間の子供が枷を付けたまま森を抜けるのは酷か、仕方がない。
奴隷商の腰にあった鍵で枷を外してやる。
「ほら、枷は外してやったぞ、好きにどこへなりとも行け」
「酷すぎます!街の方向もわかりません!食べ物もありません!」
「オレだって街がどこにあるかなんざ知らんよ、川ならあっちに流れてるぞ」
そう言って小川の方向を指さしてやると絶句していた。
「…まさか森に棲んでいらっしゃるんですか?」
「正確には山だな、山の洞窟に住んでいる。事情があって人と暮らす事もできないしな。もう一度言うがお前を人の生活圏まで送り届ける気は無い。どうしてもと言うなら勝手について来い」
少し逡巡した後、荷台から降りて来た。
どうやらここに残されるよりはついてくる方がマシだと考えたらしい。
ため息をつき、フードを取って紅い眼でシアと名乗った子供を見る。
「こういう事情でな、どうする?それでも俺についてくるか?」
シアの息を飲む音が聞こえた。
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オレが丸太を崖下に転がし道を塞ぐ。
道が通れない事も知らずに峠道をやってきた馬車が丸太の前で止まったらしい。
シアが馬車が足止め食らったという合図を出すのを確認して俺は迂回し、立ち往生したばかりの馬車へ裏から近づいた。
「山賊だ、命は盗らねぇ、売り物も盗らねぇ、金を少しと食料を置いて行きな」
シアを仲間にした事により、近くの村と取引できるようになったので金も取る事にした。
オレを買おうとした男から手に入れた200枚ほどの金貨があるだろうって?
金貨の価値が高すぎて田舎の小さな村では買い物など出来なかったのである。
これはシアからの進言だった。
『これ1枚で1ヶ月以上暮らせます…これで食料を買う人間はおりません…』
『ゼノ様…この大金どうやって…いえ、やっぱりいいです…』
だそうだ。
何度か村へ塩や小麦、布などを手に入れる為使いに出してはいるが、
なぜかこいつは金を持ち逃げする事もなく、この山の洞窟へ帰ってくる。
不思議だ。
それから寝食を共にした事により気付いたが、シアは行儀が良い。
文字の読み書きと計算も出来る、もしかしてこいつ普通の農民の子じゃねーな?
と頭が良い方では無い俺も流石に気が付いた、が
シアが自発的に語らない以上、こちらから詮索する気もなかった。
「隊長、当たりです」
御者がそう言うと幌馬車の中から5人の完全武装した兵士が降りて来た。
近づいて分かったが御者も羽織の下に鎧をしており、全員揃いの鎧を着ていやがる。
討伐依頼が出ないようにする為、全てを奪わず殺さずやってきた事が裏目に出た事を悟った。
「おぅおぅ、その背丈、本当にまだ子供じゃないの、凄まじい魔力と闘気だな」
隊長らしき男がこちらを品定めするような目つきで顎の無精髭を撫でながら言う。
こいつ強ぇな、勝てるだろうか。
「最近ここいらで山賊が出るらしくてなぁ、ま、山賊程度なら冒険者の出番なんだが・・・」
と、辺りを見渡しながらこう続けた。
「いるんだろう?青い髪の女の子が」