第30話
『あんた達だろ?噂の剣聖の弟子って、うーん、でもやっぱり魔族はねぇ…』
『あー…C級上がったばかりか。いやぁもう少しベテランに頼みたいな、すまんね、え?募集ではCからだった…?あー、依頼ミスだな、申し訳ない』
『すまんね、以前頼んだ冒険者に護衛を頼む事に決まったんだよ、え?昨夜かな。取り下げるまでに募集見ちまったんだなぁ、入れ違いだ、入れ違い』
冒険者ギルドで無事C級へと昇級したからさっそく護衛依頼を受けようとしてみたがこの調子でもう4件も断られていた。
「やっぱ魔族じゃダメなのかもなー、400年前まで殺し合ってたんだもんなぁ」
「ゼノ様、400年前では無く50年前ですよ」
「あー、廃都オーロンもそうか」
「です」
「シェクルトも苦労してたんだなぁ」
「街を歩いてるだけで今も注目されていますからね」
そんな事を言いながら本日5度目の冒険者ギルドへ行く。
もう昼前だ、掲示板の前に立つと朝来た時よりもずいぶん依頼も減っておりもはや余り物といった様相を呈していた。
「別にどうしても働かなきゃならんって訳でもないんだがなぁ」
「そうですけど…あっ!これとかどうですか?」
ルキアが指差したのは近くの村へ薬を卸すだけの、片道2時間ほど、今日の夕方には帰って来られそうな簡単な護衛依頼だった。
地図を出して確認してみると小さな森を突っ切る事により速さを確保している様だ。
しかし成功報酬がべらぼうに安い、こんなのオレ達以外に受ける奴いるのか?
「ダメ元でこれ行ってみるか」
「はいっ!」
依頼主の男は王都に住んでいる若く気弱そうな行商人だった。
なんだかオドオドしている
「依頼を見て来た。護衛を探しているんだろう?」
「はっ!はいぃ、もしかして受けて頂けるんですか!?」
「?、ああ、そのために来たんだが?」
「報酬見ました?他の依頼よいかなり安いんですけど…?」
「気にならん」
「で、ではよろしくお願いします」
こっちが魔族な事に驚かないのはどういう事だろう。
少し引っかかったが、まぁ何はともあれ護衛依頼の受注に成功した。
行商人とルキアは走鳥、荷物は行商人の走鳥が牽く荷車、オレはルキアの走鳥の荷車に乗る。
何も起こりそうもない、のどかな街道を1時間とちょっとほど進んだ辺りで『こっちです!こっちが近道です!』と行商人が言うので街道を外れて森の中、脇道へと逸れる。
森の中を突っ切って抜けるとすぐに小さな村が見え、その村で少しだけ休憩を取って帰路につく。
あまりの退屈な仕事に行きの道中は荷車の上で半分寝ていた。
森の中で急に行商人が止まる。
「どうした?」
「申し訳ございません!!罠でした!!」
依頼主の行商人が突然大きな声で謝罪する、と同時に木の影、そこかしこから6人の素行の悪そうな男達が現れた。
「騙したのか…?」
「い、いえ…、私はっ、『安い成功報酬で依頼を出せば普通はどの冒険者も見向きもしないが、今なら受けてくれる凄腕の魔族の冒険者がいるぞ』と…まさかこんな展開になるとは…」
「まぁ、いい。ルキアも下がってろ」
そう言って二人を下がらせるとオレの周りを6人が囲む。
「何の用だ?」
「おいおい、何の用はねーだろぉ?忘れちまったのか?俺の顔をよぉ!」
片足、足首から先が少し不自由そうな男が『忘れたのか?』と聞いてくる、だが心当たりがない。
「知らん、人違いだ。失せろ。」
「人違いじゃねーよ!ギルドの広間で大恥かかせやがってこの糞ガキが!ぶっ殺してやる!!」
そう言うと6人が一斉に斬りかかって来た。
前、右斜め前、左、左斜め後ろ、後ろ、右斜め後ろか。
クリヴァールを先ほどまで喋っていた男に向けて振ろうかと思うが思い止まる。
こんな森の中で火の手があがったら止める手立てが無い。
仕方がないのでクリヴァールを地面に突き立て、前の男の剣を躱し、右手でその顎を正面から殴りつけた、顎が外れて首にめり込み首の骨まで砕く。
1人目。
死んで倒れる男の手から左手で剣を奪い、次に近かった右斜め前の男に振り下ろす。
避けようと下がったのだろう、剣先は頭を後ろへ引いた男の顎をかすめて鎖骨に6cmほど入った後、胸骨を断ちながら男のヘソの下まで腹を割った。
内臓が『ぼたぼたっ』と零れる。
2人目。
男の腹を割った直後、左側から接近していた男に向き直りその剣を鍔迫り合いで受ける。
男の首を右手で掴んで首の骨を素手で折る。
3人目。
同時に攻撃しようとしていた左斜め後ろの敵に向かって首を掴んだその死体を片手で投げつける。
70kg以上はある死体をぶつけられた男は投げられた男と重なって吹っ飛んだ。
後方から槍で突こうと突進して来た男の穂先を尻尾で払い、闘気で硬化させた尾でその身体の中心を貫く、尻尾は粗悪な鎧を貫通して背中まで抜けていた。
5人目。
死体を投げつけた男へと視線を向けると白眼を向いて昏倒していた。
死んでいるかわからないので一応剣を腹に突き立てておく。
4人目。
最後の一人、右斜め後ろに居た6人目はルキアの首にナイフを突きつけ、がくがく震えながらこちらを恐怖の目で見ていた。
「ち、近付くなぁ!近づいたらこの女を殺すぞぉ!!!」
ルキアなら自力でどうにでもなるだろうが、彼女に人殺しをさせるのは申し訳ない。
オレは突き立てていたクリヴァールを引き抜くとそのままルキアの後ろに居た男の頭目掛けて投擲する。
力加減をしたので槍が男の頭を貫通して森の奥へ消えて行くような事にはならず『ドスッ』という音を立ててクリヴァールの穂先が男の頭に突き刺さった。
6人目。
「ルキア大丈夫だったか?」
「あれくらいなら自分でなんとか出来ましたよ?」
「いや、ルキアに殺しをさせるのは気が引けて、な」
「ゼ、ゼノ様ぁ」
ルキアが感動している…。
「そんな事より6人も人殺しちまったんだがシェクルト的には問題ないのか?」
「…?、はい、問題ありませんよ?魔族の血を引く者に対する他者からの害意から教団員を守る、自衛するのもシェクルトの仕事なので、むしろよくある事です」
よくあるのか…。
「さて…」
そう言いながら行商人へと近寄る。
「ひぃぃぃ!!こ、殺さないで!!知らなかったんです!!!こいつらが貴方達を襲おうとしてたなんて!!!」
「何勘違いしてんだ、オレはお前を殺さない」
「へ?」
「理由がわかるか?」
行商人は顔をぶんぶんと横に振る。
「ひとつ、お前にはこの6人との戦闘が自衛だったと証言してもらう。ふたつ、お前を殺したら護衛依頼が成功にならない。依頼内容は帰りも含めた往復だったろう?良かったな、殺されなくて」
そう言ってやると若い行商人は呆けたような顔で脱力した。
死体から6人分の冒険者タグを回収し、ついでに少ないが持っていた金も奪い『これシェクルトの活動費の足しにでもしろ』と押し付けてやるとまた感動していた。
夕暮れ、王都について行商人の男から依頼完了のサインを貰う、そそくさと立ち去ろうとした男の肩を捕まえて『ギルドまでついて来い』と告げ有無を言わさずギルドへ連行した。
依頼完了報告でごった返しているロビーで列に並び、自分の番になったのでクエスト完了報告を行う。
それから森の中で6人組の男に襲われた件を報告してカウンターに6人分のタグを置いた。
クールな印象のあった受付嬢が硬直している。
「…それで、その、タグがあったという事は冒険者、だったんですよね?どうしたんですか?」
「ん?返り討ちにしたぞ?ほら、お前、出て来て説明しろ」
そう言って後ろで居心地悪そうにしていた若い行商の襟首を掴んでカウンターへ押しやる。
勢いあまってカウンターに叩きつけてしまった。
許せ、わざとでは無い。本当に。
顔をしたたかに打ち付けた行商人はズルズルと床に崩れ落ち、そのまま気絶してしまった。
「少し…、待っていて頂けますか…?」
受付嬢の女性は頭痛を押さえるかのように額に手をやり眉間に皺寄せてカウンターに離席札を置くとギルドマスターの部屋へと駆けて行った。




