第26話
「ゼノ様、ゼノ様、王都が見えましたよ」
ルキアに声をかけられて体を起こすと王都の関所まであと少しという所だった。
「マグナス様、本当に角を隠さなくてもよろしいのですか?」
「問題ない、はずだ、多分な。フフフ」
多分って…。
関所に着いて入国のチェックの受ける。
オレとルキアの角を見て明らかに守衛の兵士達に緊張が走ったのが伝わったが何も言われない。
どうやら魔族が剣聖の弟子として入国する事は守衛に通達されいるようだ。
王都内へ入ると大通りを進む、道を行き交う人々がオレ達三人を避けているのは先頭のマグナスがアホみたいに大きな剣を背にして『俺が剣聖』ですと言う風に歩いているせいだけでは無い。
明らかにオレとルキアにも視線が集まっている。
前回マグナスと飲んだヴァルハラガーデンを少し通り過ぎた所に冒険者ギルドはあった。
冒険者ギルドの入り口を開いて中に入る、ガヤガヤと冒険者達で賑わっていたギルド内だったが剣聖とオレ達に気付くと水を浴びせたように静かになった。
「おい、アレ…」
「剣聖とその弟子だ…」
「本当に角が生えてるぞ…」
「魔族って初めて見たぜ」
「魔族の弟子をとったってのは本当だったのかよ…」
「後ろの女も魔族だ、すげぇ美人だな?」
「剣聖の愛人か何かか?」
とこちらへ聞こえる事もお構いなしにジロジロひそひそと始まった。
マグナスが受付のカウンターへ行き、『ギルドマスター・リウィアはいるか、アポは取ってある』と伝えると
「はい!伺っております!こちらへどうぞ!」
とわざわざ席を立って2階にあるギルドマスターとやらの部屋まで案内してくれた。
部屋に入ると老婆が執務机に座り、『そこに座ってちょっと待ってな、これを確認してサインすれば終わる』とこちらを一瞥もせずに書類とにらめっこしていた。
しばらく待つと書類に目を通し終わった老婆が応接椅子に座るオレ達の向かいに座った。
「久しぶりだねマグナス様」
「ギルド自体へは顔を出しているぞ、割に合わないから誰もやらない仕事を引き受けるのが趣味だからな」
「人狼の件はありがとうよ、アンタがああいう仕事を引き受けてくれて助かってる。さて…」
オレとルキアの方へと老婆が初めて視線を向けた。
「アンタ達がマグナス様の弟子で冒険者希望だね?私はリウィア・ベルマーレ。ここのギルドマスターだ」
「オレはゼノ・アルマス、魔族だ。こっちはルキア・ドロア、正確にはジジイの弟子ではない。人と魔族のハーフでオレの従者だ」
そう自己紹介するとババアは鼻を鳴らしてこう言った。
「ふん、特に聞きたい事や話したい事はないよ。問題は起こすな、ただそれだけさ。女王とマグナス様の頼みだから冒険者にはしてやる。たが特別は扱いする気もないよ」
話は終わりだろうか?
「マグナス、もう話は終わりだそうだぞ」
「俺は少しリウィアと話がある。お前達2人は一階の受付で冒険者登録をしてくるといい」
「わかった」
そう言ってルキアとオレはギルドマスターの部屋から退出した。
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ギルドマスターの部屋から退出し1階へ降りる、受付窓口は2か所あるがどちらも混んでいた。
この時間は依頼を終えた冒険者でごった返すのだろう。
仕方が無くオレもルキアを伴って列に加わり自分の番を待つことにした。
「おい、ガキ、ここは遊び場じゃねーぞ」
誰か子連れの冒険者でもいるのだろうか。
「聞いてんのかガキ!!」
後ろを振り返るとガラの悪そうな冒険者二人組がこちらを見ている、もしかしてオレに言ってんのか。
子供とはいえ魔族だぞ?喧嘩を売るとか正気かこいつら?
マグナスにも釘を刺されいるしババアにも問題を起こすなと言われたばかりだ、無視して前を向く。
オレが相手をしない事がよほど気に障ったのだろう、何かギャアギャアと言っているがフルシカトだ。
「おい、片角の姉ちゃん!こいつのツレか?こんなガキの小守かなんてやめて俺達と来いよ!」
「いえ、私はゼノ様の従者ですので…」
「『従者ですので』だってよぉ!?かわいいねぇ!!ハハハ、俺の従者になれよ!毎晩可愛がってやるるぜぇ!?」
そう言って男がルキアの肩に手を伸ばそうとする。
「やめろ、オレの女だぞ。手を出したらタダじゃ済まさん」
ルキアへ手を伸ばそうとしていた男の目を見て警告する。
ルキアは『ゼノ様…』とか言って感激している。
「タダじゃ済まさんだってよォ!ギャハハハ!どうタダじゃ済まないってんだぁ!?あぁ!!?」
「やめとけ、後悔するぞ」
目を見て、もう一度警告する。
冒険者の男はオレの目を見ながらニヤニヤし、ルキアの肩に手を回した。
仕方がない。
オレは布を巻いたクリヴァールの石突きでルキアの肩に手を回した男の足の甲を突く。
石突きはブーツの上から完全にめり込み足を潰していた
「ぐぎぃっ!!?」
汚く鳴いて苦悶の表情の男の胸へと片手の掌底を放って押し飛ばす。
男は一度もバウンドする事なくギルドの玄関扉をぶち破って表の通りに消えて行った。
「て、てめぇ!」
先ほど吹き飛ばされた男の仲間であるもう1人が腰の剣に手をかける。
「抜くな」
そう命令するが聞くはずもない。
男が抜き放った剣先を闘気を纏わせた裏拳で叩き折り、すかさず顎を殴って意識を刈り取る。
男はその場で気絶してストンと倒れた。
「一体なんの騒ぎだいっ!!?」
ギルドマスターのババアが部屋から飛び出て来て2階から吹き抜けとなっている階下を見下ろすと、
そこにはギルドの玄関は壊れ、ロビーには気絶している冒険者、そしてギルドマスターの部屋の扉には折れた剣の先端が突き刺さっていた。
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「はい、これで冒険者登録完了です。依頼はあちらの掲示板に張り出されます。受けたい依頼がある場合は受付に申し出て下さい。依頼を途中で放棄しても罰則はありませんがダブルブッキングとなった場合は早い者勝ち、または相手と報酬を分け合う事になったりします」
簡単な説明を受けた後、D級の冒険者タグを貰ってルキアとマグナスと共にヴァルハラガーデンへとやって来た。
「今日はお前達の冒険者デビュー祝いだ、好きに飲み食いしてくれ。2階に部屋を1つ取ってあるから今晩はここに泊まるといい」
一応金は背嚢に入れてあるがお言葉に甘させて貰う。
「ジジイは泊まらないのか?」
「俺はお前達が冒険者になった事の報告を城ですませて城内にでも泊まるさ」
凄いな、ジジイクラスになるとふらっと城に入りそのまま泊まれるのか。
「という事はここからしばらくジジイとはお別れか」
「なんだ?嬉しそうだな」
「いやいや、まさか」
「密偵が付いているとはいえたまには森の家にも顔を出せよ、俺が不在の時は置手紙でも残してくれ」
「あぁ、わかった」
この間食べたのと同じステーキが運ばれてきたのでもう意識のほとんどはそっちに向いていた、まぁこういう話はルキアがしっかり聞いているだろう。
「拠点を王都に構えるならここの2階はオススメだぞ、食事もとれる、裏手に井戸もある、纏めて金を払って長期契約しておくと少し安くなるぞ」
「別に金の心配はしていないが他所の宿を探すのも面倒だ、多分このままここを拠点にするよ」
「うむ、それがいいだろう」
剣聖と魔族二人という組み合わせ、と言うよりやはり魔族が居るというのが相当珍しいのだろう、誰も絡んでは来ないが明らかに遠巻きに他の客から注目を浴びている。
背丈と白い外套からわかったのだろう『この間マグナス様と来店されていたのはアナタだったんですねぇ』と給仕の娘だけは普通に話しかけてくれた。
給仕の娘を呼び、水のお代わりを貰う。今日は酒の気分ではなかった。
水を届けまた厨房へと向かう彼女の揺れる短いスカートを眺めていたらルキアがオレを見て頬膨らませていた。
子供みたいな仕草につい笑う。
「ゼノ様は短いスカートが好きなんですねっ!」
嫌いな男がいるのだろうか?
そんなやり取りをジジイはにこにこしながらエール片手に見ていた。
「よくあの2人組を殺さなかった?」
「殺したら面倒だからな、ババアが許してくれて良かったよ」
「リウィアは素っ気ないが情に厚い良い女性だ、あの状況でも魔族だからとお前を責めたりはせんさ」
「ふーん?」
「ギルドマスターの部屋で言っていただろう?『特別扱いはしない』と、あれは平等に扱うという意味なのだ」
「めんどくせぇババアだな」
無愛想なババアだと思ったがどうやらそうでもないらしい。
「これからたくさんの人間と出会うだろう、だが悪意を持って魔族に接する人間ばかりじゃないという事を忘れないでほしい」
俺の目を見てマグナスは、心を込めて、そう言った。
「魔王に国を滅ぼされたあんたがそれを言うのか、まあ…わかった。一応気に留めておくさ」
「うむ!では私はそろそろ行くとしよう、短い間だったが久々に家族が出来たようでなかなかに楽しかったぞゼノ!ルキア嬢もな!」
残ったエールを一気に飲み干すとマグナスは起ち上ってそう言った。
「またいつでも森の家を訪ねて来い」
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ここはグレイス家の屋敷。
そこでは夕食を終えた兄妹がこんな会話を繰り広げていた。
「今日はお父様が急に城に呼ばれていましたが何か事件でもあったのでしょうか?」
「知らないのか?剣聖様が弟子を連れて王都に戻って来てんだよ」
「弟子を連れて戻って来る話とお父様が城へ呼ばれる話、何か関係あるのでしょうか?」
「なんでも剣聖様の弟子って魔族らしいぞ、しかも子供の」
「ッ!!!」
「まぁシアはまだ学園に入学してないから知らなくても仕方ないか」
「その話詳しく教えて頂けますかお兄様…」
「詳しくって言われても俺もあんまり知らないぞ、剣聖様がどっかから拾って来た魔族の子供を弟子にしたって話と、今日その剣聖様が王都に帰って来たから親父が城に呼ばれたって事だけだ」
間違いない、ゼノ様の事だ。
「おーい、聞いてる?シア?ダメだこりゃ…」
シアの頭はどうすればまたゼノに会えるのか、一緒にいられるのかでいっぱいだった。
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