第17話
峠を越え、森の中の轍を進んでいくと途中で小川にぶつかる、そこから小川に沿った細い道へそれた。
のどかな森の小道を2人の師弟が進むとやがて森の中の家についた。
「おぉー、いい家じゃん」
「そうだろう?」
「2階建てなのか?」
「いや、ロフトがある、お前の寝床予定だ」
小川の隣にログハウスの様な外観の家がそこにはあった。
雨で増水した時の対策なのだろう、家の傍の川辺は岩で補強されており家から管が2本小川へ伸びている。
どうやら下水は下流に流れる仕組みのようだ。
「さぁ今日からここがお前の家だぞ」
走鳥を家のカドに繋ぎ、水と餌をやり、労わりながらそう言う少しテンションの高いマグナスに迎えられ家の中へ入るとそこは6畳ほどのリビングだった。
右手には石で組まれた竈があり煙突が天井に伸びている。
左手には地下があるのだろうか、下へ降りる梯子が見える。
そして何より炊事場、なんと天井から金属の管が流し台へ伸びており蛇口が付いていた。
「おい、まさか『水龍草』があるのか…?」
「あぁロフトの奥にある、1株だけだがな」
充分だ、それだけで屋敷が建つほど高価な代物である。
水龍草とは花も葉も茎も青い、深い池に稀に自生する草であり、水中から大きな葉と花だけが出ていて茎が水底まで伸びている蓮のような植物だ。
最大の特徴はなんと葉が空気中の水分をかき集め、葉が水に触れるまで花の先端からポタポタというよりもはやチョロチョロというレベルで水が垂れ続ける事にある。
こいつを大きな寸胴の様な入れ物にいれて家に設置するともう水を汲みに行く必要は無い。
『給水塔』となる。
「前世でも数えるほどしか見た事ないぞ」
「水龍草を手に入れたからこの家を建てまである」
それはそうだろう、オレもばったり水龍草を見つけたら家でも建てる。
この家には流し台、水洗トイレ、シャワーがついているのだ、最高である。
ロフトの下は廊下が裏口まで続いており、廊下を挟んで左手がマグナスの自室
右手がトイレと風呂場だった。
地下には肉の薫製機、そして冬の間に雪を貯めているのだろう、二重扉の冷蔵室があった。
「なぁ、師匠」
「なんだいきなり、気持ち悪い奴だな」
「師匠が死んだらこの家もらっていいか?」
「俺が死ぬ話をするんじゃない。だがまぁ、俺には嫁も子供ももういない。どうせ断山剣もくれてやるし、いいぞ」
「さんきゅーな、ジジイ」
「おい」
「さぁて、オレの自室を見せてもらいますかね~」
「とりあえずロフトの掃除からだぞ」
「あぁー…、そうだな」
長年物置にされいたのであろう、埃まみれだった。
それから二人して日が暮れるまで家の掃除を行った。
ベッドは束ねた藁を木枠に詰めてシーツを被せた物だったが、平たい岩の上に比べれば文句は無い。
夕飯は芋のスープと冷蔵室から肉を出し、ステーキ。
いつでも新鮮な肉を食べられるのはありがたい。
マグナスに聞くと遠出する事が多いのでむしろ冷蔵室より日持ちする薫製にする肉の方が多いとの事だった。
シャワーを浴びて、マグナスに就寝の声をかけロフトのベッドに飛び込む。
なお、シャワーはあるが常温なので冬場は使えた物ではない。
裏口を出て右手が風呂焚き場となっており、そこに火をくべて湯船のお湯を使うのだそうだ。
なにはともあれ蛇口を捻れば水が出るというのは素晴らしい。
昨日今日で色々な事があったな。
人間に弟子になれとか言われた時は、首輪でもハメられて戦闘奴隷の様な扱いを受けると思っていたが。
想像と全然違った。
全然、全くそのままではない、しかし楽しくなりそうな日々を予感して、転生させてくれた女神レスティアに感謝し、眠りについた。
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日も完全に落ち、割れているとはいえ月明かりが美しいステンドグラスを映えさせている。
半裸のアウロラスが祭壇の前に立ち、ステンドグラスを眺めながら煙草を燻らせ。
背後へと告げた。
「さっそく明日にでも剣聖の元に向かおうと思う」
「すいぶんと急ですね」
ルキアが手繰り寄せた教団のローブで胸元を隠しながら言う。
「爺さん殺すのに準備なんて必要か?善は急がなくっちゃな?」
割れたステンドグラスからの月明かりを浴びながら黒髪の美男子は不敵に笑った。